シリーズ日本の冤罪49 千葉小学校講師猥褻事件 大人の「聴取」が作った子どもたちの〝性被害〞 取材・文◉片岡健(紙の爆弾2024年5月号掲載)
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子どもと接する仕事につく人に性犯罪歴がないかを事業者が確認する新制度「日本版DBS」について、政府は今国会での成立を目指しているという。成立すれば、禁固以上の刑の場合、刑の終了から20年、性犯罪歴を照会できるそうだ。メディアは1様にこの新制度を支持する論調だが、筆者は違和感を覚えざるを得ない。
たしかに近年、学校や学習塾、保育所などで働く人物が子ども相手の性犯罪で逮捕されるニュースを目にする機会が増えた。性犯罪歴を隠して子どもと接する仕事につき、再犯を繰り返す者もいると聞く。この現実を思えば、「日本版DBS」のような制度が求められることも理解できるが、一方で冤罪の危険性が軽視されすぎだと思えるのだ。
筆者は過去、小学校の先生が教え子にわいせつ行為をしたとの濡れ衣を着せられた冤罪事件を複数取材した。今回紹介する事件はその1つだ。
この冤罪の当事者であるJさんは、小学校時代の恩師への尊敬の念から、自分も教師を志したという。しかし、その夢を叶え、小学校講師として働き始めてほどなく、教え子の女子児童にわいせつ行為をはたらいたという濡れ衣を着せられて逮捕され、現在も服役生活を強いられている。
「日本版DBS」の成立を支持する報道一色の中、こういう冤罪事件も存在することを少しでも多くの人に知っていただきたいと思う。
「非常に良い講師」の運命が暗転
まず、事件のあらましから紹介したい。
この冤罪事件の当事者Jさんは逮捕された当時、千葉市立M小学校に勤務していた。2017年3月に千葉大学教育学部を卒業後、千葉市内の別の小学校で臨時講師として1年勤務し、翌18年4月にM小に講師として赴任した。いずれの小学校でも1年生のクラスを担任し、評判の良い講師だったようだ。
M小の教頭は警察の調べに対し、こう供述している。
「前任校からの評判が良かったこと、熱心にベテラン教師に指導を仰いでいたこと、希望する低学年学級を受け持ち、1生懸命指導に当たっていたことなどから、私の目にも非常に良い講師として映っておりました」(19年3月6日付警察官調書)
そんなJさんの運命が暗転したのは、M小に赴任して9カ月ほどになる19年1月25日のことだ。この日、Jさんが担任していた1年X組の女子児童Cさんが帰宅後、母親に次のような言葉を発した。
「J先生ね、パンツまで脱がすんだよ」
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