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みかづき

小説「みかづき」は、森絵都さんの長編小説で、2017年に本屋大賞2位を受賞しました。この作品は、戦後から現代までの日本の教育と塾の歴史を背景に、塾に生涯をかけた大島吾郎と赤坂千明夫婦とその家族三代にわたる物語です。

私はこの作品を読んで、教育とは何なのか、どうあるべきなのかという問いについて考えさせられました。吾郎と千明は、時代や社会の変化に対応しながらも、自分たちの理想を追求していきます。しかし、その理想は必ずしも正しいとは限らないし、周りの人々や家族との葛藤や苦悩を招くこともあります。教育には完成はなく、常に欠けているからこそ人は満ちようするという千明の言葉が印象的でした。
また、この作品の魅力は、吾郎と千明だけでなく、その半生を語るうえで関わっていく仲間や家族たちの物語にもあります。話しが進むにつれて、吾郎、千明、孫の一郎と、物語の語られる視点が変化します。当時は分からなかった、それぞれの思いを知ることができる構成になっています。個人的には、一郎の視点で書かれている終盤部分が好きです。教育にはかかわらないと決めていたのに、千明から受け継がれている血筋には逆らえず教育の道に進んでいく。そんな一郎の姿は、読んでいてとても応援したくなります。

この作品は、624ページにわたる長編なのに長さを感じさせない、とても面白い作品でした。教育方針の転換に振りまわされながらも、子供や日本の将来を考え理想を追求していく吾郎と千明の姿が、とても輝いて見えました。教育に関心のある人だけでなく、家族や人生について考えたい人にもおすすめしたい作品です。


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