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勝手にご飯映画祭②      「アイ・アム・サム」のパンケーキ      




大和川長治

 はい、またお会いしましたねー。皆さん、映画はお好きですか?  邦画が好き、洋画が好きなんて好みはあっても、映画が嫌いだという人は少ないでしょう。

   ところで、SF、ラブストーリー、ホラー、時代劇…いろんなジャンルがありますが、ジャンルにかかわらず多くの映画に登場するシーンがあります。それは食事シーンです。なぜ多くの映画に食事シーンが登場するのかといえば、映画は「人」を画くもので、そのためには食事に触れない訳にはいかないからです。

    作品によって重要度はさまざまですが、多くの作品でそこに登場する料理にはその料理でなければならない理由があります。しかし、たいていの映画では時間の都合でその理由にはあまり触れません。

    そこで、登場する料理に注目して映画を紹介するのが「勝手にごはん映画祭」なんですよ。今月はアメリカ映画「アイ・アム・サム」のパンケーキを妄想します。

アイ・アム・サム

 主人公サム・ドーソンは知的障がいがあり、7歳程度の知能しかありません。しかし、スターバックスで店長やスタッフ、客にも温かく見守られて真面目に働いていました。

    そんなある日、サムは病院で自分の娘が誕生する瞬間に立ち会います。生まれたばかりの赤ん坊をサムは「ルーシー・ダイ
アモンド・ドーソン」と名付けて誕生を喜びます。サムはルーシーを抱いて、ルーシーを産んだレベッカとともに病院を後にしました。そして、バスに乗ろうとした時、レベッカはきびすを返して雑踏の中に姿を消しました。

 シングルファーザーとなったサムは戸惑いながらも懸命にルーシーを育てはじめます。そんなサムを見かねた同じアパートに住む外出恐怖症のアニーや、サムと同じような知的障がいがある友人達が協力し、ルーシーはすくすくと育ちます。

 やがてルーシーは小学生になり、自分の父親が、他の父親とはどこか違っていることに気付きます。そしてサムに「お父さんは普通のお父さんとなぜ違うの」と尋ねます。それをじっと聞いていたサムは「こんなお父さんでごめんよ」と悲しそうに答えました。

    このころからルーシーは学校で学ぶこと、自分が父親よりも知識を持つことに罪悪感を持つようになります。ルーシーは大好きなお父さんのあんな悲しい顔を二度と見たくないのでした。

    そんなルーシーの行動に疑問を持ち始めた学校の先生が市の福祉局に連絡をとり、サムとの生活環境がルーシーの将来にとってよくないと報告します。さらに、サムがルーシーを喜ばせたい一心で計画した7歳の誕生パーティの時に事件が起きました。ちょっとした弾みでよその子を倒してしまったサムは、子どもに暴力を振るったという疑いから逮捕され、ルーシーは施設に預けられてしまいました。

 自分ではどうにもできないハンディのために最愛の娘を奪われてしまったサムは、裁判でルーシーを取り戻すために、有能な女性弁護士のリタに弁護を依頼しました。リタはサムの友人達やアニーに証言を依頼し、養育能力があることを証明しようとしますが、思うような成果はあがりませんでした。結果としてルーシーは里親に育てられることになってしまったのですが…

旧優生保護法

 今年7月3日に最高裁が憲法違反と判断した旧優生保護法は、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ことを目的とし、当時の優生学・遺伝学の知識の中で遺伝性とされた精神障がい・知的障がい・神経疾患・身体障がいを有する人に強制的に不妊手術を施すことを認めた法律です。

    この法律による被害者は、厚生労働省によると不妊手術の被害者は約2万5000人、人工妊娠中絶による被害者が約5万9000人の計約8万4000人とされています。

   また、2022年、北海道江差町のグループホームで、20年以上前から知的障がいのある入居者が結婚などを望んだ際に不妊処置を提案していたことが明らかになり、実際に手術をうけた人がいたことが判明しました。

    ホーム側はあくまでも提案であり、当該入居者の同意を得ていたと言っていますが、鵜呑みにはできません。

    道は所管する422のグループホームを対象に調査を行い、14のグループホームで合わせて25人の入居者が不妊手術を受けたと発表しました。

障がい者は親にはなれないのか?

 身体的・精神的にハンデを持つ人達は子どもを持つべきではないという意見が世間には多くあります。「自分が生きるだけでも大変なのに」「自分自身が誰かの世話になっているくせに」等、辛辣な意見が飛び交います。

 実際に、ハンデを持つ人は子育てどころか一人で生きていくのも大変なことです。この映画にも描かれていますが、知的障がいを持つ人達は、その人なりの決まり事やルーティーンを重視する傾向があります。そして、それを変えることを極端に恐れます。その融通が利かない様子を他人は奇異な目で見ます。

 逆に、障がいがある人の側から社会を見ると、なぜ決まり事やルーティンに固執するのかよく分ります。いつも他人に驚かれ、奇異な目を向けられ、嫌な顔をされ、除け者にされる。時に暴言を吐かれたり、暴力を振るわれることさえあります。彼らはそんな恐怖の中で毎日暮らしています。

    だからなるべく目立たず、失敗をしないために、丁寧な挨拶を呪文のように繰り返し、ルーティンをこなすことで安心するのです。それはマイノリティである彼らが、多数の心ない人を含むマジョリティの中で生きていく上での護身術なのです。

    障がいがない人達は、障がいを持つ人達が鈍感だと思っているようですが、彼らは人一倍傷つきやすいのです。しかし、傷ついたことをアピールすることができなかったり、大声でアピールしてしまうと余計に奇異な目で見られるだけで、誰も助けてくれないことを知っています。

ダコタ・ファニング

ルーシー・ダイアモンド・ドーソン

 この映画には全編を通してビートルズのエッセンスがちりばめられています。ルーシーの名前はLucy in the Sky with Diamonds からとられていますし、BGMも有名アーティスト達がこの映画のためにカバーしたビートルズナンバーです。このビートルズナンバーと、ルーシー役のダコタ・ファニングの愛らしさがこの映画の素晴らしさの7割を占めています。そして、映画に登場する食事は正にアメリカンスタイルです。

アイホップ

アイホップのパンケーキ

 ルーシーは、友達がおいしいと言っていたビッグボーイのハンバーガーが食べたいと、サムにおねだりします。アメリカの一般的な食生活では週末の朝食は家族そろって外食することが多いそうですが、そんな時はハンバーガーやパンケーキを食べるそうです。サムもルーシーを連れていつもアイホップでパンケーキを食べていたのですが、ルーシーはたまには違う店で食べたいし、たまにはハンバーガーも食べたいと思ったのでした。しかし、ビッグボーイにはフレンチパンケーキがなかったので、サムは癇癪をおこしてしまいます。

 アイホップはアメリカのレストランチェーンで、International House Of Pancakesの頭文字を取ってIHOP(アイホップ)です。店名にPancakesと入っているぐらいですからパンケーキが売りなのです。

    サムはアイホップでいつもルーティ・トゥーティーというメニューを食べます。少し固めの目玉焼きとソーセージ2本、フレンチパンケーキにフルーツを添えたセットメニューです。そしてルーシーにはパンケーキを愉快な顔に見立てたファニーフェイスです。

アイホップのファニーフェイス

パンケーキでなければいけない理由

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