「ブレイクスルー・ハウンド」55
「大学進学は無理だった。高卒で就ける職なんてタカが知れてる。リクルーターに大学進学がタダになるって言われた」
そんな訳ないのにな、とゴードンは自嘲する。
「退役後はPTSDに苦しんだ。だが、他に仕事も知らず、民間軍事会社で働いた」
彼の話に、光は安易に質問したことを悔いた。
「だが、達人がミリタリー・スクールに誘ってくれた。実戦の仕事もあるが、民間軍事会社に勤めるのに比べれば随分とマシだ、達人には感謝してる」
ゴードンの父への感謝に、光は複雑な気分だ。公安に自分を売り渡すようなことを言っておいて、ゴードンには善意で接している。だが、光も子どもではない。人間が大半が、善と悪では割り切れないことを知っている。
「ただ、入隊自体は後悔していない。高卒で社会に出たら、ケチな犯罪者になっていたかもしれない」
ゴードンは再び歯を見せて笑った。
「損得だけが道理じゃない」
「そうだな」
先達の言葉に、光はひとつうなずいた。
ミリタリー・スクールに戻ると、野外に適当に丸椅子を並べた休憩スペースに生徒たちの姿があった。もちろん、生徒といっても大人だ。
「よお、光」
その中、警察の特殊捜査班所属の薄井(うすい)が声をかけてくる。近くのテーブルから五〇〇ミリリットルのペットボトル清涼飲料水を手にとって投げてきた。
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