「ブレイクスルー・ハウンド」66

 ジェシカの家族から娘を奪い、両親の不仲を招いて離婚に至らせ、一時は光の父の指導力すら疑われたものだ。
 だから、俺は銃が嫌いなんだ、と声に出さずにつぶやく。警察官、ましてやSATになるなど絶対にお断りだった。だが、現実はまるで特定の人間を狙いすましているように残酷にできている。
 佐和から支給されたスマートフォンが、着信を告げた。電話に出ると、
「特別な情報ルートからの情報提供で、敵の拠点がわかった。制圧に行くわ」
 と彼女は開口一番いった。
「なんで、俺に電話をかけてくるんだ」
「GSSの方々にも支援を頼んだからよ、あなたも教官の一人でしょう」
 惚けるなとばかりに彼女は言い放つ。そのせりふに、光は眩暈をおぼえ立ち上がれなくなりそうなほどの倦怠感に襲われた。
 なんでだよ――これは罰なのだろか、そんな考えが脳裏をよぎる。
 無辜の者を死なせたのだから、苦痛に耐えろ、そういうことなのだろうか。

 選抜射手(シャープシューター)、観察する、耐え忍ぶ、擬装する、など狙撃に必須の専門訓練を受ける狙撃手とは立場の異なる遠距離のシューティングを担うスミタは、光が講義を受けている時間に高校の建物を一望できる位置に停まった車の助手席にいた。といっても、あからさまに監視をしてることを第三者に悟られない位置を取っていた。
 公安の警固だけでは心もとないと、達人が高額の謝礼をふんだくってスミタを含めてGSSの面々を自身を含めて派遣したのだ。むろん、銃器も携帯している。
 時折、双眼鏡で教室や廊下、昇降口などに目を光らせながらスミタはふと心のすみをかすめるものを感じた。

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