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【詩】積み木【なもなも】


■本日の詩『積み木』


別に大したことじゃない
ただ打ち壊されただけ

あなたは私を支配した後で捨てたの
私に抗う気がなくなった途端に捨てたの

あなたがいないと生きられなくなってから
空き缶みたいに放り投げたの

私の人生は過去から未来まで全部隅々 砕け散った
ただそれだけのこと

あなたは私が私になる前から私の中に入り込んだ
私が積み上げる積み木を全部横から奪って別のものを握らせた
私は素直にそれを積み上げてきた
そうすればあなたが喜んだから
一段一段 また一段

あなたはある日突然私と一緒に遊ぶのをやめた
もう手を引くと言った
次に何を積めばいいのかも分からない私に
そんなの無責任だと責めたら
代わりを差し出したのは自分だけれどそれを握って置いたのはあなただと言った
拒否することも出来たのだと言った
とられた積み木を 奪い返すことも出来たのだと言った
その通りだと思った
諦めたのは私なんだ

過去も自分も崩れ去った
あなたも消えた
未来は空っぽ
ただそれだけのこと
ありふれた話でしょう

「好きなものは?」
「さぁ……」
「嫌いなものは?
「さぁ……」
「得意なことは?」
「さぁ……」
「苦手なことは?
「さぁ……」

これが私
崩れた積み木だけが足元に散らばってる

お願いだから今まで何をしてきたかなんて聞かないでね
何も答えられないんだから
お願いだからこれから何をしたいかなんて聞かないでよ
何も思い浮かばないんだから
空欄の緊急連絡先を二度見するのはやめて
盆暮れ正月の話はしないで
戸籍なんて消して

三か月の家賃滞納 ついに大家さんも我慢の限界
昨日三時間怒鳴られた
たった二着のシャツだけリュックに詰めた
足元に六千と二百十二円 スマホを売った分
穴の開いた靴でどこに行く?
次の積み木を探しに行く
倒れる前に 見つかるといい

          (作・詞 なもなも)


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