見出し画像

実写版「十角館の殺人」を視聴後に原作を再読し、作中のピザ・トーストを京都に思いを馳せつつつくる

今春あの「十角館の殺人」が実写化されると聞き、驚くと同時にたいへん気になった。同作は根幹をなす叙述トリックから「映像化不可能」作品として長く有名であったし、何より私はこの作品が好きなのだ。人物が個性的かつ魅力的だし、作者のやりたいことがこれでもかと詰まりに詰まっている。だから繰り返し読みたくなる。

と言っても私は推理小説好きでもなければ綾辻作品の熱心な読者とも言えない。きっかけは、夫の本棚にあったから。ミステリ好きな夫の本棚には海外作家も含めて推理小説が数多くあり、試しに何冊か借りて読んでみたところ、綾辻行人、法月綸太郎両氏の作品が私には最も読みやすく、親近感もわいた。両氏に共通するのは「京大推理小説研究会」出身であること。京都を舞台とした作品も少なくない。

私は京大出身ではないが、予備校でアルバイトをしていた関係で京大生に仲の良い友達が多く、よく遊びに行っていた。殆どが一人暮らしで泊めてくれる友達もいたし、時間だけはとにかく自由でいくらでもあった。
都内の私大生だった私は休みが長く、夏休みと春休みはほぼ2ヶ月ずつ取れたので毎回一度は遊びに行き、自身の大学祭には行かずに京大の学祭に顔を出し、あの吉田寮にも足を踏み入れた(バイトの先輩が住んでいたから。同様に東大駒場寮へも行ったが、ネズミが多かったのは吉田寮、コウモリを見たのは駒場寮…だった気がする)。
何故か試験監督のアルバイトが回って来たり、夜の大文字山に登ったり(勿論男友達や先輩方と一緒)、京大学食名物ジャンボパフェをいくつも並べて食べたりと思い出は尽きず、借りた自転車や自分の足であちこち巡りに巡ったので、方向音痴な私でも京都の街にだけは詳しい。あまりに入り浸るのでバイト仲間からは「京都大学〇〇(私の大学)学部」とからかわれ、できれば京都で就職したいと考えた時期もあった、それくらい学生街としての京都が好きだった。
今でも勿論京都は好きだが、いい大人と呼ばれる年代の今と当時とでは時間の使い方も体力もまるで違う。あの頃のような近さを肌で感じることはもうないだろうし、仲間も皆各々の道を行き、今も京都で暮らす者は、元々京都で生まれ育った者だけになった。

「十角館の殺人」は登場人物の多くが大学生なので、舞台は大分県だが京都で過ごしたあの頃を色濃く思い出す。主人公・河南の住むアパートはまさにあの頃の京都で、作中彼が喫茶「マザーグース」で注文するのがピザ・トーストというのがまた当時らしくて良い。
実写ドラマはつい最近視聴したばかりだが、期待をはるかに超えて面白かった。原作にかなり忠実に、細部にこだわって制作され、映像も美しい。キャスティングにも概ね納得できた。特に島田潔役の青木崇高さんが良い。ご本人の元々のイメージは役とは異なるはずなのに、観ているうちに島田そのものに思えて来る。濱田マリさん演じるアパートの大家の存在感も良い。エラリィがかっこよくない(失礼)辺りもリアルだし、当時の大学生らしい服装や髪型もしっかり再現され(アガタの聖子ちゃんカットもよく似合っているし、ロゴ入りトレーナーやチェックのシャツもあの頃の男子学生の典型)、昭和生まれには殊に懐かしく、当時のことをいろいろと思い出す。河南や守須のアパートの部屋に置かれた家具やラジカセ、電話機等もリアルだ。

そして原作を読まれた方はご存知かつ、何より期待するであろうあのトリックも、よく工夫された上でずるはなく、きちんと成立させている。Huluではあの最も重要な役のオーディションや撮影の様子、監督と役者のインタビュー動画も視聴できるので、併せて観ると納得も深まり、また初めから繰り返して観たくなる。私も2周目に入ったところだ。

何度か登場する食事場面も原作にかなり寄せているが、残念ながら「マザーグース」で河南が食べているのはピザ・トーストではなかった。そこだけが残念、かつどうしてもピザ・トーストが食べたくなって、視聴後につい勢いで作ってしまった。

喫茶店で出て来そうなタイプをイメージしてボリューム大きめ。
パンは横浜「ウチキパン」の「イングランド」5枚切りを使用。トーストするとザクッとした歯ごたえになり、とても美味しいこのイギリスパンは、ピザ・トーストにも当然おあつらえ向きである。

ピザソースは手持ちがないので、玉ねぎを軽く炒めたところにトマトケチャップを加えて少々煮詰め、チリソースとウスターソースを加えて辛めに味付けした。
他の具は厚切りで食感と苦みを際立たせたピーマン、辛みとシャクシャクした食感を出すため炒めず薄切りにして水にさらした玉ねぎ、サラミの代わりにハム、薄切りプチトマト。マッシュルームもあればよかったが、今回は割愛。

チーズはパンの全面を覆うべく、スライスチーズをたっぷり2枚。
なお、パンは予め両面軽く焼いてからソースを塗って具とチーズを載せ、最後にこんがり焼くのが私は好き。でないと具を載せた面が水気と重さで沈んでしまうからで(特に薄い食パンだと顕著。私は8枚切りでつくることが多い)、昔からそうしている。

カロリーは計算しないが一応バターやマーガリンは控えてみた

できあがり。なかなかそれらしい感じでは?

断面もよい感じ。
あり合わせで急遽つくった(今すぐ食べたい衝動MAXとも言う)にしてはなかなか美味しくできた。茹で卵を入れても良かったが、今回はこれで満員かな。

美味しかったです

コーラやオレンジジュース等、喫茶店でセットになりそうなソフトドリンクを添えるとよりそれらしいが、今回はこちらを。ちょっと苦めの京都ブレンド、割と好き。

いやあ懐かしかった。
「十角館」の世界は1986年で私は当時小学生だが、時代感はよくわかるし、自分が大学生になった頃もそれほど変わりはなかったと思う。あの頃は大学生が時間をつぶす喫茶店がいくらでもあり、そういう店で友達と何時間もねばったことが数え切れないほどある。携帯電話もまだない時代で固定電話で長電話も普通だったし、長文の電子メールを毎晩のようにやり取りした友達も何人かいて、あの頃は人間関係が濃密だったな、楽しかったなと思う。もう三十年近くも前の話だ。
彼らは皆能力通りに偉くなり、立派に社会に貢献する仕事について多忙なので(子なし専業主婦なんて私くらいだ)今では年賀状のやり取りくらいしかできないが、当時のことは覚えていてくれるんだなと、ぼそっと書かれた一言から感じたりもする。

まあそんな訳で、原作ファンの方はもちろん、実写版を先に観て原作を読んだあなたもはたまたそうではないあなたも、たまには分厚いピザ・トーストなんていかがでしょうか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?