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秋田でもやはり杏は「梅」だった!能代市で重要証言と確証を得る~2024あきたのウメ実態調査③まとめ編

何故か始まってしまった秋田における梅調査3記事め、今回はこれでひと段落。前2回は以下ですので、未読の方は先にお読み頂けると嬉しいです。

人の記憶とは、時にあてにならないものだ。
能代市のある喫茶店のカウンターで、私はしみじみ感じていた。

それはこれを口にしたから。

何故喫茶店で恰も居酒屋のお通しの如く小皿で漬物が出されているか。
それは夫の伯母(義母の姉)の店だからで、同店にメニューは存在しない。行くといつも美味しいコーヒーを飲ませてくれ、居心地も良いのだが、近所の常連さん方の憩いの場と化したこの店が普通に営業しているとはあまり思えない。

だって伯母はだいたい頂きものの缶ビールをコップに移し、喉を潤しつつカウンターに立っている。「梅ももちゃん何飲む?」と聞かれるあの感じ、全くもってスナック以外の何ものでもない。
増して伯母は目鼻くっきり、やや異国風の秋田美人だ。色白で腰も曲がらず、すらっとした体型で化粧も欠かさないため高齢でも尚美しく、年齢不詳な感じがますますスナックのママ感を醸す。
そんな店にもネットで見つけた一見客が近年訪れるようになったと聞き、親類一同驚愕した。すごい時代が到来したものである。

数年ぶりに訪れた私の近況を問われ、夫が「梅干しつくるのにはまってる」と答えると「せば(じゃあ)これ食べてみて」と出てきたのが冒頭の梅漬けである。
近所の方から毎年分けてもらっているそうで、アメリカ在住の義従姉妹(伯母に似てすごいキャラクター)も好んで持ち帰るそうだ。

見た感じ、シンプルに塩と赤紫蘇だけで漬けられている…けど
「杏だよね」
異口同音に夫と私。すると伯母は当たり前のように頷き
「杏っぽい種類だども(だけど)な。ほんとの杏だば(なら)別に買って来るから」などと仰る。
「梅漬けにした杏」と「ほんとの杏」の違いが今ひとつわかり難いが、どうやら後者は「杏として食べる杏(生食用か干し杏)」を指している模様。

ともかくご相伴。
塩の加減が程よく、肉厚な実の中まで赤紫蘇の味がしみていて美味しい(いや杏だけど。どう見ても八助だけど)。
そう言うと伯母は嬉しそうに「これは去年のなんだけど、今年のもあるから味見してみて~」と新梅も出してくれた。嬉しい。いや杏だけど。

色がまだ淡く、実も柔らかい新梅いや新杏

漬けたてなので塩がまだ尖っているが、フレッシュな感じで美味しい。
伯母が頷き「美味しいよね。私この塩だけ(で漬けた)のが好きで。息子ははちみつ入りのしか食べないけど」
すると義母が「私は酢とお砂糖入れたのしか漬けないものね」。
以前義母がその杏漬けを送ってくれた。まだ梅にはまる前だったので何も考えず美味しくいただいたが、あまりに巨大なので「これ何の実?」と夫に訊ねたのを記憶している。義母はこの漬け方を好み、ほんのり甘い漬け汁(梅酢)を酢飯にするのが好きだそうだ。

――梅談義が盛り上がっているが、これらは全て「杏で漬けた梅漬け」のお話。当然のように杏(主になにわ梅または八助梅)を対象に、梅の話が進行していく。
ここで夫が鍵となる質問を伯母に投げ掛けた。「これ何の品種?」

「いや、何てことない普通の梅だ〜」

出た。出ました。
頷き合う夫と私。
そう、この一連の会話から判ることは、伯母や義母はじめ秋田在住純正秋田県人にとって、杏の梅漬けこそ「普通の梅」であるという紛れもない事実だ。
前々から気になっていた疑問、欲しかった情報の核心も正にここである。秋田の人々にとっての「普通の梅」とは何なのか?その答えが思わぬところで得られたこの瞬間。ありがとう伯母さん、おかげで大変よくわかりました。

さらに伯母が見せてくれた半割りで袋詰めされた「梅漬け」を見て、夫も私もしっかりと思い出した。そうだ昔実家でこういうの見た、食べてた…。

杏なので種が外しやすく、薄くなるのでこの形状で売られがち

数日前に五城目のなにわ梅を食べた時の朧げな記憶が今や確信へ。そうだ食べてたこういうの。
なのにあれだけ梅にはまり、杏を梅として扱う文化が気になっていたにも拘らず、最も身近な自身の過去を思い出せなかったとは情けない。
この場を借りて過去の私の言説をお詫び申し上げますと同時に、食べてましたやっぱり!と訂正させて戴きます。

そんな訳で、なにわ梅の残りは秋田的に切る。そうそうこんな感じで陶器の漬物入れに入って戸棚にあったよね、と夫と頷き合う。

これで2個分です

夫のおにぎりデーに具にしたところ「米と一緒に食べるとなお『昔食べてた』って思い出した」とのこと。ですよね…。

そんな訳で、秋田県北〜中央地区では今でも普通に杏を「梅漬け」として漬けて食べてました!というのが今回の調査結果である。やはりこの本の言質はリアルだったのだ。

梅漬は毎朝欠かさず食べる。家の前に生えている大きなあんずの木が、毎年よく実をつけ、売るほどあるのであんず一升に塩一升の割で…(以下略)

「聞き書 秋田の食事」より

内陸及び県南は未確認だが、湯沢市でも八助(なにわ梅)が漬けられていることは確認済。山形との行き来の多そうな由利~鳥海地区や、陸路が限定される内陸部は多少事情が異なるかも知れず、いずれ行って確かめたい。
最も気になるのは、青森と秋田の食文化は決して近いとは言えないのに、何故この「梅漬け」に関しては同様なのか?という点。隣県の岩手や山形ではこの状況は見られない。気候や地理的条件、若しくは歴史的背景があるのだと思う。

ともかく、十三回忌のために帰省してまさかこんなに充実の調査結果が得られるとは予想もしていなかった。私の実家は父の影響で限りなく山形寄りの食なので、こうした情報は義実家側からしか得られなかった。
きっかけをくれた亡き義父のおかげでもある。お義父さんありがとう。

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