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春…思い出の食材

日本の本州で唯一、両端にある青森と山口を除いて日本海にも太平洋にも接しているのが兵庫県です。

私はその兵庫県の日本海側にある山間の寒村で育ちました。もう絵に描いたような田舎で、私が小学生の頃は近くを流れる川の河原には牛(但馬牛)が放牧されていましたし、山と山の間に位置する集落でしたので、広い平地が少なく美しい棚田も普通にありました。

日本海側地域ですので、冬は当然雪も降ります。そんなに豪雪地帯というわけではありませんが、毎年一度は50センチ程度の積雪が必ずあるような地域でした。

そんな場所でしたので、雪が融けて少しずつ日差しに温もりが感じられる3月初旬から5月中旬くらいまでの「春」と呼べる時期が、私は何より好きでした。

それは今でも変わらなくて、食べる物に関しても春の食材が大好きです。

まず思い浮かぶのは、沢を雪解け水が流れ出すと雪の下から顔を出すフキノトウです。

子供の頃は休日のお昼ご飯の前にフキノトウを摘んできて、母が作ってくれる味噌汁にフキノトウを生のまま手でちぎって入れて飲むのが好きでした。

フキノトウが終わると今度は土筆が出ます。ザルに一杯摘んできて祖母と一緒にハカマ取りをしました。土筆のハカマ取りをすると指先が灰汁で真っ黒になるのですが、それもなんだか嬉しかったです。

土筆が終わると今度はタラの芽です。タラの芽は子供には手が出しにくい獲物でしたので私はあまり近寄らないようにしていました。なにせ下手に触ったらあの猛烈なトゲトゲが生えた木で傷だらけになってしまいます。

そうこうする内にワラビも出ますしワラビが終われば今度はタケノコや山椒の木の芽も食べごろになります。

木の芽は川魚を刺身にして食べるときに薬味としてたっぷり添えるのですが、私が好きだったのは、イワナなどよりフナの糸造りでした。フナという魚は大変に小骨が多く、そのままでは食べにくいので小骨を断ち切るように細く切っていきます。ちょっとハモの骨切りにも似ていますが、ハモの様に皮一枚残す様な器用な事はしません。

川魚ですのでサイズも小さいですし、川を剥いでしまったら食べる部分が無くなってしまいますので、鱗だけ外して皮付きのまま細い糸造りにして、更に氷水に放ち洗いにします。

これを酢味噌とたっぷりの木の芽でいただきます。

まったく素朴な料理ですが、今思い返しても豊かだなあと思います。

タケノコを煮るのでも、海に近い地域では丁度同じ時期に採れるワカメを入れて若竹煮にしますが、山奥の村にはワカメなどありませんから、どっさりと木の芽を投入してタケノコの煮物を作ります。海のワカメも山の木の芽もどちらも同じ「出会い物」ですから不味いはずはありません。

本当に田舎の春は豊かでした。私が調理師として関わっている介護施設でも時々イベント食としてばら寿司など伝統的な料理を提供することがありますが、本当はこうした田舎料理も献立に取り入れたら良いのかもしれないなと思った次第です。

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