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一日一詩。

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言葉にできないコトバをことばにします。
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2022年12月の記事一覧

【詩】あなたはあなたでいい

あなたらしいところも あなたらしくないところも かっこいいところも かっこよくないところも かわいいところも かわいくないところも おもしろいところも おもしろくないところも しっかりしているところも しっかりしていないところも きようなところも ぶきようなところも じゅんすいなところも ふじゅんなところも せいじつなところも ふせいじつなところも じゆうなところも ふじゆうなところも まえむきなところも うしろむきなところも まっすぐなところも まがっているところも

【詩】無題

僕たちは何を学べるのだろうか 命の尊さだろうか 日常の尊さだろうか 想定外の怖さだろうか 想定外にも責任者がいることだろうか 剥き出しの鉄骨に感じる自然の威力だろうか 動かない時計に見る止まった時間だろうか 全てを粉砕する自然への畏怖だろうか 畏怖との共存の難しさだろうか 人間という生き物の無力さだろうか その生き物の想像力という希望だろうか 己の想像力の乏しさだろうか 現実を見ても現実だと思えないことだろうか 時は残酷なまでに過ぎることだろうか 誰もいない花壇にもパンジーが

【詩】約束

「そういえば、大人になると約束ってしなくなるよね。」 まだ小さかったころ、僕たちは魔法が使えた それは弱くて強い魔法だった もっとも弱い力の指どうしを結ぶだけの弱さ 一緒に守らなければ破れてしまうような弱さ 純粋さがもつ「うん!」と言いたくなる強さ 心の中で手を繋いでくれるような優しい強さ 「あしたもあそぼうな」 「ぜったいに内緒だよ」 「一生、一緒にいよう」 魔法はだんだんと効力を失っていく 大きくなると、代わりに呪文を使うようになる 強くて弱い呪文である 心の

【詩】みじめな人生

なんとみじめな人生であろうか。 そう思うことがある。少年の私の 人生は愚かではあったが、決して みじめではなかった。夢を抱き、 夢を追い、夢に狂っていた。人は いつみじめになるのだろうか。夢 を抱く精神を失った時か。夢を追 う体力を失った時か。夢に狂う感 覚を失った時か。あの頃のように 愚かにはなれないと、愚かな私は 思う。あの頃の自分を大好きな私 とは対照的に、あの頃のようにな りたいとは、微塵も思っていない 私がいる。「みじめである」とい うおよそポジティブとは言えない

【詩】雪

雪が雨よりも楽しそうに見えるのはなぜだろうか 雨は失恋に泣く悲しい女性の背中を想起するのに 雪は大騒ぎではしゃぐ子どもの笑顔を想起するのは なぜだろうか これは僕の気のせいだろうか 雪が雨よりも美しく見えるのはなぜだろうか 雨は欲望が落っこちてきているように見え 雪は好奇心が浮いているように見えるのは なぜだろうか これは僕の気のせいだろうか 雪が雨よりも弱そうに見えるのはなぜだろうか 雨は僕の気持ちなど考えもせずに自己主張するのに 雪は迷いを抱えながら不安そうな顔を

【詩】一本の木との会話

私は一本の木に問いかける 「いつも同じ場所でつまらなくないの」 木は答える 「いつもせわしなく動いて大変じゃないの」 私は少し黙って聞く 「冬とかって寒くないの」 木は答える 「冬って寒いものじゃないの」 私はまた少し黙って聞く 「自分が何歳かとかってわかるの」 木は答える 「分からないけど、困らないわ。増えた友達と知り合いの数のことかしら」 私は少し微笑んで聞く 「私は友達なの」 木は答える 「あなたがそう思ってくれるなら」 私は喜んで聞く 「あなたはどれくらい友達がいるの

【詩】雨

今日の雨はなんだか泣いているように感じた 「どうして泣いているの?」 そう聞いても、今は決して答えてくれなそうな、そんな涙 その涙は「消えてしまいたい」とでも言うような、でも、思いが強すぎるせいでかえって存在感を示してしまうような、大きくて、重くて、速くて、まっすぐな、涙だった。 傘を閉じて、涙が両手いっぱいに溜まるまで 君に寄り添って話を聞いてあげたかった 本当は包み込むように抱きしめてあげたかった でも、そうするには、僕は小さすぎて だから、これが僕にできる唯一の

【詩】図書館

図書館は思想の動物園 そこはえらく静かな動物園 そこいらの動物園なんかより たくさんの動物がそこにはいるのに パンダフィーバーが起こるみたいに その動物園でも、ときによってブームは違う 情報の世紀キャンペーン 映画の原作キャンペーン 年末年始キャンペーン 番号で管理された檻の中で動物たちは静かに、いる もしも、この動物たちに鳴き声があったら ここは、とてもいられた場所じゃないだろう もしも、この動物たちに手足が生えていたら みんな両手を広げて背伸びをして 今みたいに

【詩】形

誰にも縛られたくないと 型を嫌っていた人が 何かを形にしたいと言って 型にすがりついている滑稽さ そんな自分を愛するように 人間らしさを可愛がる詩を書く 型に縛られず、形にする。 そういう道もあるんだと 職人が背中で語るようにさりげなく 家で作る卵焼きのように寛大に 僕は教えられた 全てを認めること それは信念を失うことじゃない それは本当に大切なことを思い出すこと

【詩】おみやげ

『無事、返ってくることがなによりのおみやげ』 とは、いうけれど、 ないよりはあった方が嬉しい、おみやげ。 ないと寂しい、あると嬉しい、おみやげ。 おみやげは、福神漬け。 ないと寂しい、あると嬉しい。 おみやげは、もしかして髪切った? ないと寂しい、あると嬉しい。 おみやげは、あいづち。 ないと寂しい、あると嬉しい。 ないと寂しくて、あると嬉しいもの。 おみやげって、ささやかなもの。 ちょっぴりとだけ期待して待っててね。

【詩】なんで絵本はおおきいの

靴も、お箸も、つみきも、シャベルも 子どもが使うものはなんだって小さいのに なんで絵本はおおきいの 絵本はおおきい 物理的な話だ それは、面積の話だ 絵本はおおきい 小さな手で、小さな体で、扱うには あまりにも、おおきい 絵本はおおきい 子どもが絵本を手に取る おおきな絵本は小さな背丈の半分くらい 絵本はおおきい 両方のうでをめいっぱい開いてよむ 体はすっぽりと、絵本に隠れてしまう 絵本はおおきい 意味合いの話だ それは、自由の話だ 絵本はおおきい 世界で一番、自

【詩】魔法使いの店員さん

いつものカフェ そこにいる魔法使いさん 僕の頼んだ苦味がコップに入って手渡される 魔法使いさんはそこに優しい甘みを添える 砂糖の入っていない甘い珈琲 それは魔法にかかる瞬間 僕は笑顔になる

【詩】血。

血の通った人間である。 僕らの体のどこを切っても、血は出るんだ。 どこをどう切っても、それは僕の血なんだ。 植物状態でそこにいる優しさも 貝殻みたいに気まぐれな笑顔も 隠しきれずに噴き出した勇気も 全てはあなたで、血が、通っている。 瞬間を切り取って、あなたに名前をつけよう。 あなたは、「世界で一番、素敵な人」。 美化という歪みを加えられた光る主張 嘘みたいに綺麗で犯されたパッチワーク 乗り越えて、通り過ぎたニンゲンたち 何かを忘れたなまもの。 切り刻んでも血は流れな

【詩】僕は天才じゃないから

スポットライトを浴びる人たちを見て思う 僕は天才じゃないから 自分の優しさに気づいて思う 皆 天才なんじゃなかったのか 薄い薄い壁の向こうから 聞こえてくる 僕の音 誰もが自分を天才だと思いたい  それを 僕は認めたい それと同時に 僕は思う  僕は天才じゃないから 僕が僕である言い訳は 今日までずっと変わらない 僕は天才じゃないから