見出し画像

旅の入り口

 僕は旅の目的地に着いた時の空気が大好きだ。自分の暮らしている街と似ているが、ちょっと違う。いや、かなり違う。

 この違いは方言の違いによってもたらされるものかもしれないし、地下を通る下水道の違いかもしれない。旅は普段僕たちが見れていないものを見せてくれる。

 僕たちが普段見ていない場所にも当然人がいるし、そこには確かに彼らの暮らしがある。知らない言葉を使い、何か美味しいものを食べる。それは彼らにとってごく自然な営みである。しかし、それは僕にとっては新鮮な営みである。その営みはヘミングウェイの小説を想起させる。僕らはいくつかの相違点を認め合い、ともに青春のひと時を分かち合うのだ。

 空を見上げると、大きな雲が無数に浮遊している。インドのゾウが昼寝をしているようだ。夏にピッタリな素敵な雲だ。冷たいビールでも飲みながら空を眺めることも、旅の贅沢のひとつだろう。こうして空を眺めていると、チェット・ベイカーの歌を口遊みたくなる。どこに行っても光の存在を認めることができる。これ以上に素晴らしい事はないだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?