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和泉の復讐 おっさんずラブ リターンズ

蝶子が経営している西園寺弓道場に通う和泉。心が乱れ的を大きく外すと、蝶子が「珍しいじゃない」と声をかけた。「なにかあった?」と聞く蝶子に和泉は問いかける。「蝶子先生……絶望したこと…ありますか」蝶子は急な問いかけに「えっ」と絶句する。
「絶望?えっ、何急に!重たいんだけど!」これを聞いた和泉はさらに話しだした。「人生の……どん底に」あまりのことに蝶子は大きくため息をついて、別れた夫に好きな人がいるって言われた時だと答えた。
「それは……どうやって乗り越えたんです」真剣な和泉に、蝶子は「「乗り越えるなんて無理!」「キャベツを切りまくった」と答えた。「私はまだキャベツ切ってます」とつぶやく和泉に「いいんじゃない、気がすむまでるしかないよ。キャベツ」と答えた。

亡くなった恋人を忘れられない和泉の、苦しい胸の内が分かる一言である。

どんなに復讐に燃えても、1人でできることは限られているし、武器も持たずテロリストの巣に乗り込むのは自殺行為である。それでも行かずにはいられないのは、前に進まなければという気持ちと恋人を殺したのは自分だという葛藤なのだろう。
恋人を止めるために口から出た「殺すぞ」は、愛しているから危険を犯さないでくれのサインだ。そして秋斗の口から絞りだされる「もう、あんたの生徒じゃねぇんだよ」は、一人前の公安警察官として認めて欲しい、隣にずっと一緒にいたいという叫びなのだ。

「もっとラクに生きたらいいのに」と和泉を見て思う人は多いだろう。
絶望とは、すべてが無になり期待が持てなくなる状態を言うらしい。無気力になるため、周囲を見る余裕がなくなり、集中力が落ちるため、正しい判断を下せない。
公安のエースとして働いていた和泉にとっては、最悪の状態である。菊之助とバディを組んで働いていたようではあるが、ロボットのように感情を抑えて働けば、どこかでつぶれてしまうのは当然。検挙の鬼として働いても、秋斗を殺したテロリストは逮捕できず、精神は擦り切れ倒れた。

長年付き合っていた恋人に裏切られた・恋人と破局したことで絶望的な気分になる人もいる。人は、このような破局を迎えると「本気で好きだったわけじゃない」と防衛機制が働く。自分の心を守るためには、相手を悪者にするしかないからである。本当に好きだった人と別れることは、苦しくつらいことだからです。
ところが、他人が想像する以上に深く絶望した人は、相手ではなく自分自身を憎み、死を選ぶこともある。
菊之助が想像するよりも深く、深く和泉は絶望を感じ、自分を責め復讐することで自分を殺そうとしている。忘れられないだけでなく、絶望にとらわれているのが辛い。

絶望の後には希望がやってくるものであるが、それが春田との出会いであったのだろう。瓜二つの春田を見れば見るほどに辛い苦しさが増し、復讐心が燃え上がり憤怒の炎となってテロリストに向かわせてしまうのだ。
ところが、その和泉の心に変化が起こる。恋人の秋斗と顔は似ているのに性格は正反対でお人よし。自分を犠牲にしてまで牧の父親の世話を焼く春田に、恋をしてしまうのだ。春田のお人よしは「犠牲の精神」にも似ているため、和泉は知らずにやはり秋斗と重ねているのではないかとも考えている。また、春田は他人との距離を一気に縮めてくる。この辺りも、性格は異なるものの、秋斗の和泉への距離の詰め方に似ていると感じた。
風邪を引いた和泉が「熱はないと思うので」と言ったあと「本当に〜」と自分の額と和泉の額の熱を比べるところは「秋斗もこんな感じで距離を縮めたのでは?」と勘ぐってしまう。

秋斗の場合は、こうだと思っている。

秋斗「和泉さーん、くしゃみ、風邪じゃないですか」
和泉「いや、熱はねぇ」
秋斗「本当ですか?帰っていいですよ、ここは俺1人で十分なんで」
和泉「黙れ、ガキ」(くしゃみ)
秋斗「ほら」
和泉「……くそっ」
秋斗、和泉を壁ドンして自分の額を近づける。
秋斗「熱いですよ、心拍数も上がってるし」
和泉「てめぇのせいだろうが」
秋斗「和泉さんの怒った顔も好きかも」
和泉「殺すぞ」
秋斗「和泉さんになら、殺されてもいいですよ、俺」

こういう駆け引きが上手いというか、大人を手玉に取るのはイケマセン。
復職してテロリスト制圧ルート希望します!!

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6話のラストが辛すぎて、もう最終回まで見ないとざわつきが止まらない。
菊之助が怪我をして和泉が取り乱しているとか、吐血した部長とか。どうなるおっさんずラブリターンズ!

和泉には復職して秋斗の復讐と菊之助のお礼参りを叶えて欲しい。(個人的な希望)が、もしかしたら和泉は銃弾に倒れ、秋斗の墓の前で絶滅するのではないかとも考えてしまう。
どう考えても、どの角度から考察しても、和泉の菊之助に対する憂いは「家族」だからだ。
精神的な支えとなってくれた菊之助には感謝もしているし、情もある。しかし、秋斗を失った和泉が心から人を愛することはもうない。
秋斗を忘れようと思い込むことが春田への叶わぬ恋なら、これもまた辛い。
何度もいうが、忘れなくていい。上書きができない強い思いは、心の奥に鍵をかけて忍ばせておけばいいのだから。

だから、誰も和泉に「忘れろ」と言わないで欲しい。
不器用な愛情表現しかできない秋斗を本気で愛したから、和泉は絶望の沼に深く落ちて抜け出せない。この絶望は、生きていくための聖痕。だからこそ、忘れさせてはいけない。
彼にとって、秋斗を忘れることは死を意味することだから。