マーケティングのありがちな失敗②「ヘビーユーザーの声を聞いて製品を作る」

以前、マーケティングのありがちな失敗の記事を書きましたが、今回は第2弾を書いてみようと思います。僕も実際に体験した内容です。

それは、「ヘビーユーザーの声を聞いて製品を作る/改訂する」です。

マーケティングでは、「今使っている顧客が、市場全体を代表している」と考えるバイアスが存在します。でも、実際はそうではないんですね。市場全体を見ると、大きく①未認知(そもそも知らない)②認知未購入(知っているが買わない)③経験非ユーザー(一度は買ったことがあるが今はユーザーではない)④ライトユーザー ⑤ヘビーユーザーに分けられます。そして多くの企業の場合、④⑤に対して①②③の割合が圧倒的に大きくなります。自社の顧客数が、日本の総人口に対してどの程度か、自社を一度でも買ったことのある人が、総人口に対してどの程度なのか。考えてみるとよく実感が分かるかと思います。その一方、企業が一般的に「顧客」としてとらえているのは④⑤のお客様の場合が多いでしょう。

重要なのは、④⑤の「現顧客」に刺さるベネフィットと、②③の「未顧客」「離反顧客」に刺さるベネフィットは違う、という事です。②認知未購入③経験非ユーザーは、ひらたく言うと「今自社が伝えている価値」に「反応していない」層です。「今自社が伝えている価値」を「価値だと思っていない」からこそ、まだ買っていないなかったり、一度は買ったものの再び買わなかったりします。こういう人に、④⑤の「現顧客」の要望を「価値」として提案しても、響かない場合が多いのです。顧客を増やすことに寄与しないので、それによって売上が伸びることは少ないです。

かつて僕自身が経験した例を挙げてみます。新規顧客の獲得が伸びなくなった食品で、テコ入れのために商品のリニューアルをする事になりました。リニューアルにあたっては既存ユーザーのお声を反映し、包装を個包装化(実際、こういうお声は多かったのです)をし、それをリニューアルのニュースとして発信しました。結果、新規顧客の獲得率には変化が起きませんでした。つまり、現ユーザーのお声を反映するということと、それが新しい顧客が買う要因となる、というのは別の話なのです。この場合は「商品の使い方」に関わる話なので当たり前じゃないか、と思われるかもしれません。ただ、「ブランディング」といった名目で同じような事をしている企業も多いのでは、と個人的には思っています。

この視点で考えたとき、任天堂のWiiと、SONYのPlaystation3の話は示唆に富んでいると思います。この2つのゲーム機はほぼ同じ時期に発売され、性能的にはPlaystation3の方が勝っていたはずです。にも関わらず売上的にはwiiが圧勝しました。なぜか。個人的にはSONYは「現ゲームユーザー」に響く「機能」を考え、任天堂は「ゲームをしない未ユーザーに響く「便益」を考えたから、だと思っています。したがってユーザーの幅を広げ、売上を拡大できた。任天堂という企業は、日本企業にしては珍しく消費者視点や未充足ニーズをベースにイノベーション的に事業を開発している会社だと思います。NintendoSwitchや、ARマリオカート、その他のプロダクトを見ても、任天堂は「今ゲームをしていない人や時間にどうやってゲームをしてもらうか」をずっと考えている気がします。「ゲーム」というよりは「遊び」という言葉が近いかもしれません。

話がそれました。なお、誤解をしていただきたくないのは、上に書いたような話があるからと言って「既存ユーザーの話を聞かなくてよい」という事では全くありません。企業であれば、現ユーザーに良い顧客体験をしていただくのは当然やるべきことですし、治すべき重要な指摘があったりもします。さらにいえば「未顧客に響く便益」の開発も、(こちらが予期しない使い方や目的という形で)既存ユーザーの話がヒントになることもあります。企業自身が分かっていない「商品の本当の価値」を、顧客の声を通じて発見することも多いのです。大事なのは、その価値が未顧客を獲得する価値か?どうしたら未顧客に響く価値を作れるのか?といった視点をもつことでしょう。

参考文献:西口一希著「実践 顧客起点マーケティング」翔泳社

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