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企業は、多様な家族形態が社会に浸透する突破口になるのか?

みなさん、こんにちは。
多様な家族形態が当たり前に認められる社会の実現を目指す「Famiee」では、2021年2月25日より、同性のパートナー向け「パートナーシップ証明書」を発行していますが、これに続くフェーズ2として、異性同士を含めた「多様な家族関係・形態の証明書」をリリースしていく計画です。そこで、2021年9月9日(木)、27日(月)の両日、Famieeの活動にご賛同いただいている皆様のお声を今後の活動に生かすべく、計3回にわたるディスカッションを開催しました。今回のPART2では、9月9日に行われた第二回目のディスカッションの模様をリポートします。

Famieeとは
Famieeでは、2021年2月25日に家族関係証明書の第一弾、同性のパートナー向け「パートナーシップ証明書」の発行をスタートさせました。2021年10月現在、従業員向けの福利厚生や、一般顧客向けのサービスにこの証明書を導入している企業・団体や自治体などは、50以上にも上ります。
Famieeでは、同性パートナーを対象としたフェーズ1に引き続き、フェーズ2として、異性同士を含めた「多様な家族関係・形態の証明書」をリリースしていく計画です。

Famieeディスカッション「結婚について考えてみる」 
PART 2・・・開催日:2021年9月9日(木)

参加者たちはONとOFFの両面にわたって「結婚」に向き合ってきた

PART2の参加者は、プロボノとしてFamieeの活動に関わっている弁護士、Famieeを導入しているLBGTQ向けのベンチャー企業経営者と大企業のダイバーシティ担当役員の3名です。今回のゲストは全員が、仕事上で何らかのカタチでLGBTQと関わっておられる方々。学生時代から結婚とは何か、家族とは何かに興味を持っていたという参加者もおり、冒頭の自己紹介からテーマの本質に迫る深いディスカッションが繰り広げられました。

自己紹介に続いては、それぞれの結婚に関わるステイタスをシェア。ゲイの当事者でアメリカ人のパートナーと同居中という参加者がいるかと思えば、離婚して間もないという参加者、平日は別居、週末のみを夫婦で一緒に過ごすという週末婚を実践している参加者など、各々の結婚のカタチ、家族の有り様はまさにさまざまでした。

アメリカ人のパートナーと同居中のゲイの当事者(日本人)は、現状では安定したパートナーシップが築けないと、その胸のうちを吐露します。アメリカでは同性婚が可能なので、自分がアメリカ国籍を取得すれば結婚できるものの、それでは日本で暮らしたいというパートナーの要望を満たすことができません。そこで結婚はせずに日本での同居を続けているのですが、現状ではパートナーの就労ビザを更新し続けなくてはならないし、日本国内でのパートナーの活動にも制約があるというのです。

また、離婚して間もないという参加者は、学生時代から結婚とは何か、家族とは何かを考え続けてきたという一人。「学術的興味と私生活が一致しない典型的なタイプ」とのことで、研究対象として結婚や家族に向き合う一方で、自分自身は25歳で結婚し、27歳で第一子を設け、29歳で第二子を設けると確信して疑うことはなかったのだそうです。しかし、そんな当人が離婚することになり、長年にわたり考え続けてきた婚姻制度について、改めて考えさせられたとのことでした。

そして、もうひとりの参加者である週末婚の実践者は、「そもそも結婚に興味はなかったものの現在は結婚して19歳になる一人娘がいる」とのこと。今ではウィークデイは別々の場所で生活し、週末のみを一緒に過ごすというそのライフスタイルが心地良いとのことでしたが、結婚した当初は配偶者の姓に変える手続きがとても煩わしかったので、再び結婚する機会があれば事実婚を選ぶだろうと話しておられました。

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現在の婚姻制度は変化する時代に追いついていない!?

このように結婚に関わる多様なステイタスを持つ参加者たちの結婚観を尋ねると、現在の婚姻制度に疑問を投げかける声が次々と寄せられました。参加者の1人が、結婚した途端に、あるいは離婚した途端に、社会における位置づけやサポートが大きく変わるのではなく、結婚を中心に前後にグラデーションがかかっていても良いのではないかと主張すれば、また別の参加者からは、もっと人々のニーズに寄り添うべきではないかといった意見も聞かれました。

これらの声の背景には、「現在の婚姻制度は果たして、人々の関係性と権利義務をリンクさせるだけの合理的な制度なのか」という疑問が横たわっています。例えば、夫婦のどちらかが死亡した場合、残された妻もしくは夫は、相手の財産を相続する権利があるわけですが、離婚届という紙切れ一枚で夫婦ではなくなり、相続権は失われます。その一方では、長年の関係性があっても、結婚していなければ相続権は認められません。

あるいは同性婚を実現するためには、憲法改正または憲法の解釈の変更が必要になるという意見もあり、少なくとも民法の改正は必要になるため、そこには何らかの社会事情が変化しているという前提が求められますが、この前提とは、単に同性愛者が増加しているということではなく、同性愛者の中で結婚したいと思う人が増えているということではないかという指摘もありました。具体的には、時代の変化に伴い、自分と相手との関係をオープンにしても構わないので婚姻がしたいと考える同性愛者が増えているのではないかというのです。

関連して、今では一昔前のようにほとんどの国民が結婚するわけではなく、結婚しない、あるいは離婚するという選択肢ができたことで、相対的に結婚することの意味合いが生じ、そのメリット/デメリットが改めて問い直されているという指摘もありました。とは言え、そもそも結婚する、しないにより権利が発生すること自体が不自然であり、子供を作りたいか否か、毎日一緒に生活したいか否かなど、それぞれの目的に合わせて最適な結婚の方法が選択できると良いと言うのです。

また、結婚は権利義務関係だけではなく、ジェンダーギャップと結びついているところがあるという指摘もありました。結婚式で夫婦を代表して新郎のみが挨拶したり、何かと新郎側が新婦側に優先されがちだったりするところから始まり、その後の結婚生活においても女性が男性の家に入るとか、女性が家事一切と子育てを担うといった伝統的な価値観と密接に結びついているというわけです。

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何かと窮屈な婚姻制度、改革はどこから手を付ければよいのか?

参加者の一人によると、自治体の同性パートナーシップ制度が全国で10例あるかないかの頃、同制度を導入すると言っても、行政窓口も病院も何から手を付けたら良いかわからない中、手探りで対応を考えていったとか。そして今では、同性パートナーシップ制度を導入している自治体は全国118(2021年9月1日現在)を数えるに至っています。こうした状況を見ると、法律は社会のニーズによって変わるものとは言え、逆に新しい制度が導入されたことで人々が学んでいくケースもあるようです。

日本では公的に何らかの取り決めがなされると、その事象を肯定的に捉える逆転現象が置きやすいという指摘もありました。電通が2020年12月​​に行った「LGBTQ+調査2020」を見ると、同性パートナーシップ制度がある自治体の住民は、これがない自治体の住民に比べて、LGBTQの認知度が高かったり、同性婚の制度化に肯定的だったりする回答が多く、自治体の取り組みがLGBTQへの理解度に大きく影響を与えているというのです。

そういう意味では、社内にパートナーシップ制度ができれば、被当事者の意識も変わってくる。すなわち、当事者と接する上でのマナーを身に付けるようになってくるのではないか。特に日本の大企業においては、ジョブ型ではなくメンバーシップ型の雇用が一般的なので、会社に対する帰属意識が高く、会社が変わるとそこに価値観をすり合わせる力学が働きやすい。つまり日本においては、企業から社会を変えていくこともできるのではないかといった声が上がりました。

また、LGBTQに関わる問題はすなわちダイバーシティの問題であり、多様な従業員が働きやすい環境を築くことは企業がミッションを達成する上で欠かせないと考えられるだけに、企業にとっては取り組みやすい部分がある。しかし、事実婚や選択的夫婦別姓はともかく、結婚という概念そのものを変えるという話になると、戦前からの家制度が関わってくるなどイデオロギーにも繋がりかねないので、企業として取り組んでいくのはなかなか難しいという意見も出されました。

昨今では、社員が幸せになれば、企業の生産性も向上するという考え方に基づき、「ウェルビーイング」を掲げる企業が増加しています。しかし、いくら社内制度を整えたとしても、社外に出れば社会制度が、家に帰れば旧態依然とした家制度が横たわっているとすると、家族の有り様を変えていかない限り、本当の意味での社員の幸せは実現できません。こうした中、多様な家族形態を受け入れるにはどうしたら良いかを考え続けていくことが大切。そんな認識を共有したところで、今回のディスカッションはタイムアウトとなりました。

1時間という限られた中ではありましたが、個々の参加者の実体験に基づき婚姻制度の問題点をシェアすると同時に、多様な家族関係を包含していくにはどうすれば良いのか、その中で企業がどのような役割を果たしうるのかなどについて、熱いディスカッションを繰り広げることができました。

本ディスカッションにご参加いただき、貴重なご意見をいただいた方々には、心から御礼を申し上げます。

※本記事についてのご意見ご感想は、info@famiee.orgまでお願いいたします。

PART 3に続きます。

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