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世界の結婚の今 【PART1:アメリカ合衆国編】 世界の結婚は多様。時代と共に変化している

婚姻のありようは国や民族により異なり、また時代と共に変化を続けています。
明治大学 法学部 教授の鈴木賢氏によると、「婚姻は本来、できるだけ当事者の自主的な決断に任せるべきことであり、法律も当事者の意思を大切にする方向に向かっている」とのこと。日本では1946年に日本国憲法が公布され、婚姻を個人の意志で決められるようになりましたが、世界のこうしたトレンドからは後れを取っているようです。

例えば2001年にオランダが先陣を切る形で法制化した同性婚は、今では世界30カ国以上が認めるに至っていますが、日本においては一部の自治体がパートナーシップ制度を設けているだけで、国レベルでこれを法制化するには至っていません。また、日本では夫婦が同姓で、世帯ごとに世帯主が存在することが男性の女性支配に繋がると指摘する向きもありますが、鈴木先生によれば、夫婦いずれかの姓に統一することを義務づけている国は、世界広しと言えども日本以外には見られないとのことです。

また鈴木先生によると、法的な婚姻制度はそもそもは子供を安定的に育てるために設けられたそうですが、現在ではフランスを初め、非嫡出子が多くを占める国も少なくありません。一方では、私たちの寿命が延びたことで、人の一生における出産・育児のシェアは小さくなってきています。これに伴い、婚姻における出産・育児の役割が相対的に小さくなると共に、時代の変化に合わせて、お互いの看病や介護などさまざまな役割が注目されるようにもなってきました。

Famieeではこれまでの同性間のパートナーシップ証明書に加えて、2022年からは異性間のパートナーシップ証明書を発行していく計画です。昨秋にはこれを受けて、「結婚について考えてみよう」というディスカッションを開催しましたが、これに続く本連載では、アメリカ合衆国を手始めに世界各国における結婚のありようを概観すると同時に、それぞれの国の人々への取材を通して、彼らが日頃から日本における結婚をどのように見ているのかを尋ねてみました。

米国の婚姻制度は州法により規定。民族や宗教により結婚生活のありようは大きく異なっている

アメリカ合衆国(以下、米国)の婚姻制度は、連邦政府ではなく州の法律により規定されている点が大きな特徴です。全50州で一夫一婦制を採用。また、2015年に米国の最高裁が同性間の結婚を禁じるのは違憲としたことにより、全50州で同性間の婚姻が合法となりましたが、これに反対する意見は今なお根強く残っているそうです。

米国には婚姻制度以外に、州によりCivil Union、Domestic Partnership、Common Law Marriageなどのいわゆるパートナーシップ制度があります。こちらもその内容は州により異なるため詳細は省きますが、中でもCivil Union、Domestic Partnershipについては同性間のパートナーシップに多く利用されていたことから、2015年に全州で同性婚が認められてからは、利用者は減少しているそうです。

また日本でも議論となっている夫婦の姓については、米国には①自分の姓を維持(夫:スミス、妻:ブラウン)、②相手の姓に変更(夫婦ともにスミスまたはブラウン)、③夫婦の姓の全部または一部を合体(スミスブラウン、ブラウンスミス、スミブラウンなど)、④夫婦の姓をハイフンで結ぶ(例:スミス-ブラウンなど)、⑤夫婦どちらかの姓をミドルネームにする(例:ナンシー・スミス・ブラウンなど)の5つの選択肢があるそうです。

以下、カリフォルニア州を例に米国における婚姻制度の概要を見てみましょう。

まず婚姻に当たっては、郡の書記官/記録係にMarriage license(婚姻許可書)を発行してもらった上で、結婚式を開催するなどして教会の神父・牧師、裁判官などの承認を得て、同係に夫婦の姓が入ったMarriage certificate(婚姻証明書)を発行してもらう仕組み。米国で身分証明書代わりに使われる免許証やパスポートなどの氏名変更に当たっては、このMarriage CertificateをDMV(カリフォルニア州車両管理局)、ソーシャルセキュリティ・オフィス、もしくは裁判所に持参して手続きをしてもらうのだそうです。

次に離婚に当たっては、どちらかの配偶者がこれを申請すれば、相手は落ち度の有無にかかわらず、それを拒否することはできないというNO FAULT制を採用。手続き方法は、①郡の裁判所書記官に離婚届を提出、②第三者を通じて相手に申請書等を送付、③財産公開書等を作成して相手に送付、④相手の返答に応じてその後の手続きが採られる、という流れ。同州はCommunity property state(共有財産州)なので、婚姻中に得たすべての財産(負債を含む)は夫婦間で均等に所有、離婚に当たっては親権も財産も1対1になりますが、これに合意できない場合には裁判で有責配偶者の特定、および慰謝料・養育費などの取り決めを行うことになります。

次にUnited State Census Bureau(11/29/2021)より、米国の婚姻にかかわるデータを見てみましょう。これによると2019年の米国の婚姻率は16.3%(1年間に15歳以上の米国人女性1,000人のうち16.3人が結婚)、同じく離婚率は7.6%(1年間に15歳以上の米国人女性1,000人のうち7.6人が離婚)で、州によって差があるものの、双方ともに減少しています(図表1)。この理由としては、近年の晩婚化や、その流れの中で若者が結婚しない傾向にあることなどが挙げられています。

図表1 婚姻率と離婚率

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(出典:U.S. Census Bureau, 2009 and 2019 American Community Survey 1-Year Estimates)

また、2021年における18歳以上の世帯の構成は、「With spouse(配偶者と同居)」が50.4%、「With unmarried partner(非婚のパートナーと同居)」が8.0%、「Living alone(単身世帯)」が14.6%、「Child of householder(世帯主の子供)」が11.2%、「All other arrangements(その他)」が15.8%で、2001年のデータと比べると、この10年間で「With spouse」が5.4%減少する一方、「With unmarried partner」は3.9%増加しています(図表2)。つまり米国においては、婚姻率の低下を受けて配偶者と同居している世帯が減少する傍らで、非婚のパートナーと同居している世帯が増加しているわけです。

図表2 18歳以上の世帯構成

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(出典:U.S. Census Bureau, Current Population Survey, Annual Social and Economic Supplement,2001,2011 and 2021)

以上、米国における婚姻制度の概要と関連データを紹介しましたが、日本と大きく異なるのは、多民族国家である米国の婚姻制度は州により異なっており、その背景にある考え方は、民族や宗教によって大きく異なっているということ。また、国レベルで同性婚が認められているのも大きな違いと言えるでしょう。

日本在住の米国人から見た日本人の結婚生活はここが不思議

では、日本と米国の結婚生活は、どこが違うのでしょう? 日本に住む米国人のAさんとBさんに話しを聞いてみました。

【日本の大学で国際関係論を学ぶAさん】

日本の大学で国際関係論を学んでいるというAさんは、主に日米の文化的な違いについて語ってくれました。多民族国家である米国にはさまざまな文化や価値観が混在しているものの、そのいずれかにNOを突きつけて強固な社会基盤を築くことは難しく、お互いの違いをリスペクトし合うことが求められているとのこと。加えて米国には、今も多くの移民・難民が押し寄せており、結婚にまつわる制度や生活は変わり続けているそうです。

Aさんに日米それぞれの結婚についての印象を語ってもらったところ、多民族国家である米国にはさまざまな選択肢があり、結婚するに当たってはあらかじめ話し合った上で、自分たちの生活のあり方を決めるのに対して、日本においては家計管理から家事や育児の分担に至るまで結婚生活のあるべき姿が決められており、取り立てて何かを話し合うことなく、日常生活が規定の規範に則って営まれているように感じられるとのこと。

また今後については、欧米においては就業時間が減少するなど、人々のプレッシャーの回避傾向が強くなっており、長期間のコミットメントが求められる結婚についても、これが果たして未来永劫に続くのかどうかは、友人たちの間でも議論になっているとか。しかし、米国に比べて歴史的にも家族に重きを置いてきた日本においては、婚姻率こそ減少しているものの、前述のような結婚生活の規範は、善し悪しはともかく容易には変わらないのではないかと語っていました。

最後に現在は独身のAさんに、自身にとって理想的な結婚・パートナーシップについて尋ねてみたところ、「相手との長期的な関係を希望するのであれば、結婚を選択する」という答えが返ってきました。Aさんによれば、デート相手との関係が「片足のつま先を水に浸す」ようなものだとすれば、結婚は長期間にわたり「両足を水に浸す」ような深いコミットメントであり、その中間のパートナーシップには意味がないとのこと。また結婚するに当たっては、愛があれば良いわけではなく、結婚生活のあり方はもちろん、宗教や政治的スタンスに至るまで、事前にいろいろと話し合わねばならないと考えているようです。

【日本で英会話学校を経営するBさん】

日本の伝統を否定するわけではないと前置きしながらも、日本社会、中でも日本企業における女性差別の問題を指摘するのは、日本在住歴が長く、東京で英語学校を経営するBさん。彼女は日本人の友人から、結婚・妊娠を機に会社から差別的扱いを受けたという話しをよく耳にするそうです。しかし、こと育児休暇については、日本は米国よりも進んでいるとのこと。米国には育児休暇のない会社も多く、短時間勤務にシフトしたり、ベビーシッターを雇ったりして、急場を凌ぐ家庭も多いようです。

Bさんはまた、日本人男性は浮気をしがちだと語ります。結婚した途端に妻を一人の女性として見なさなくなるため、別の女性に目が行くというのです。実際、自分の妻を“お母さん”と呼ぶ日本人男性は少なくありませんが、米国ではそれはあり得ないとか。そうした扱いを受け続けていることが、日本人の妻たちの女性としてのアイデンティティを失わせ、“息子の母”という立場に甘んじさせていると指摘します。

Bさんは最近、欧米で注目されている「オープン・リレーションシップ」は、日本では普及しないだろうと語ります。「オープン・リレーションシップ」は結婚していても、お互いに合意の上で他の人物と関係を結ぶことを意味し、欧米では長期間にわたる結婚生活に飽きないための方法としてこれを取り入れるカップルが増えているとか。ただし彼女自身は、STD(性病・性感染症)への不安などから、これを自身の結婚生活に取り入れるつもりはないとのことでした。

また米国においては国土が広く、多様な文化や宗教が入り交じっているため、結婚生活のありようもさまざまとのこと。総じて言えば、生活費は夫婦がお互いに半々でシェアするケースが多く、家事・育児については性別に関係なく、それぞれの事情に応じて分担しているそうです。ちなみにBさんの家庭では、Bさんが収入を得る傍ら、夫は料理・洗濯・掃除を含む家事一切を担っているとか。

以上、PART1では米国を取り上げましたが、その婚姻/パートナーシップ制度や結婚生活のありようは、日本とは大きく異なっています。米国在住の日本人の友人によると、米国では結婚にせよ育児にせよ選択肢が多く、社会がさまざまな選択を認めてくれている点は良いものの、個人の自由と利己主義をはき違えているようなケースも少なくないとか。日米それぞれに長所・短所があるのでしょうが、家制度の影響が色濃く残る日本の“結婚”を時代に合わせて変革していく上で、多民族国家である米国に学ぶべき点は多いのではないでしょうか。


★世界の結婚の今は、【PART2 フィリピン編】に続きます

執筆:
コラムニスト/西村道子 Famieeプロジェクトメンバー

マーケティングリサーチ会社でダイレクトマーケティング等にかかわる調査・研究に従事した後、1989年に「お客さまとの“対話”を重視した企業活動のお手伝い」を事業コンセプトに(株)アイ・エム・プレスを設立。インタラクティブ・マーケティング関連領域の出版物の発行&編集責任者を経て、2015年に「インタラクティブ・マーケティングまとめサイト」を立ち上げ、編集長に就任。現在はB2Bを中心としたコンサルティングを行う傍ら、マーケティングや異文化コミュニケーションに関するコラムを執筆している。2021年よりFamieeプロジェクト・メンバー。

一般社団法人 Famiee
https://www.famiee.com/


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