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スタートアップで取締役会資料はどのように作るべきか?

過去CFOや管理部長・経理担当等として在籍・関与してきた企業でのコーポレートの経験や、現在スタートアップ企業の支援をさせていただく中で、改めて取締役会資料の作成・運用の難易度が高いなと感じ、筆者の経験を踏まえ一度取締役会資料の作り方について整理してみることにしました。内容が事務局的なのか経営層の話題にもなりづらいようで、なかなかネットで探しても事例が出てこず。なお本記事についてはこれが正解、というものではありませんので、あくまで一つの参考としてご覧いただければと思いますmm

取締役会報告資料の作成を担当しているけど何となくシックリこない、そもそも取締役会でどういう議論がされているか分からないから作り方も分からない、もっと良い資料にしたいと思っているけどイメージが湧いていない、といった方に少しでもお役に立てれば幸いです。

(注)大前提、スタートアップやベンチャー企業を対象にしている点と、筆者の主観が混ざっている点を御理解の上、ご覧いただけますと幸いです。また法定の正確な取締役会の運用方法については弁護士等、専門家の方とご相談ください。

取締役会で交わされる議論を理解する


まず取締役会で議論されるのは大きく2種類で、①会社法で定められた報告・決議事項と、②経営や事業に関する事項です。①に関しては株式に関することであったり、株主総会の招集や代表取締役の選任など法律に従い実施されます。ここは専門的な部分で今回の記事に載せると情報が溢れてしまうので(ネットで探せばたくさん出てきます)①は割愛して、②の事項について掘り下げてみたいと思います。

まず取締役会で経営や事業についてどのような議論が交わされているかですが、会社によって様々で「これ」という正解は特に無いと思います。その上で、一例として以下のような内容が議論されているケースが多いように思い、まずは一度列挙してみます。

下図は取締役会でどう議論を進めるか(横軸)× 何を議論するか(縦軸)、という構成になっています。

取締役会の基本機能の一例

取締役会で議論するために重要なこと

取締役会で議論をするために重要なことは主に以下の3つです。

a.  事実を正しく理解し、前提を揃えて議論の土台を合わせる
b. (1を経て)より良い策を見出す、意見を交わす
c. (2を経て)決定する

社外役員やオブザーバーとして株主の担当者が出席しているケースがあるかと思いますが、社内の取締役(※厳密にはCXOや執行役員・部長等または執行役として活動する取締役)とは異なり、月1回のみ取締役会へ参加している場合が多く、前月からアップデートされた情報等について理解が追い付いていないことが基本です。そのため良い議論を進めるためにも「事実を正しく理解する」というのは議論する上で大切です。もっとも、社外役員が全ての情報を網羅的に把握するのは難しいので、取締役会で議論したい内容を厚めに説明すると良いと思います。

なお、以下では社外役員がいるケースを想定して記載していきます。社内の役員のみで構成される場合は前提情報を揃ってさえいればいきなり中身の議論から入って良いかと思います。

月1回参加の社外役員が把握している
最新の情報は、1ヶ月前のケースもあるので注意

取締役会の参加者全員が重要な経営または事業に関する事項について概要を掴み、その次により良い策を見出し、決定事項があればそれについて決定をする、というのが大きな流れです。

事実を正しく理解して議論の土台を合わせ、
より良い案を見出し、決定する

取締役会で議論される内容

取締役会で議論される内容については会社によって様々あると思いますが、代表的なものは以下の4つかと思います。

  1. 会社全体に関すること、総括

  2. 経理・財務に関すること

  3. 事業に関すること

  4. 組織に関すること

1. 会社全体に関すること、総括

いきなり詳細・各論に入らず、最初は全体・総論から入ります。例えば社長・CEOから会社全体の進捗や課題など総括した内容について説明を行い、会社や事業全体としてこの1ヶ月の間に何が起きたのか振り返ることで、参加する社外役員もスムーズに状況把握できるようになります。

より良い議論をする為にできるだけ会社事業で起きている課題を列挙します。課題といってもあくまで経営レベルでの課題ですので、イシューとなる重要な課題のみ挙げるようにします。社内で意思決定する際に悩むポイントや不可逆的な意思決定を伴う場合の客観的意見を問う場合など、予め社外役員等の意見を確認したり、課題について建設的に議論を交わしていきます

2. 経理・財務に関すること

数字関係で重要になるのは、未来のキャッシュフローや予算実績差異についての分析です。特にスタートアップなど資金繰りが厳し目な会社においては、未来のキャッシュフローがどうなるのか幾つか想定されるパターンを元に計画を策定しないといけません。資金調達をするにも株式関係となると3〜6ヶ月程度はかかりますし、それだけ事前に危険を察知する能力が必要になります。今後1-3年先の事業計画を把握し、具体的に資料で未来を予測・シミュレーションしておくとベターです。予算実績差異については、未来の予測の精度を上げるために重要となるので、当初の想定から足元で何がズレたのかを正しく把握し、PDCAを回しながら予測精度を改善していくことが重要です。

なお、財務三表(P/L、B/S、C/F)についてはトレンドでの把握や財務体質を見るために作成自体は必要ではあるのですが、過去の数字であって未来を予測するものではありませんので基本的に振り返りに留まる程度の活用になるケースが多いです。先程の「a.  事実を正しく理解し、前提を揃えて議論の土台を合わせる」目的として使われるイメージです。経理の担当者であれば財務三表が取締役会の表舞台に立つ重要な場面と考えると思いますが、実際の経営の場面ではそこまで重視しないケースが多いことは理解しておくと良いかと思います。
※私も昔経理担当だったので、当事者としては「え?そうなの?」と思ったりします(笑)

3. 事業に関すること

プロダクトやサービス内容、またマーケティングに関する事項やKPIの進捗状況・顧客に関する事項について議論します。プロダクトやサービスのロードマップや進捗状況の振り返り、顧客獲得に関しての戦略や方針についてより良い策がないかを議論していきます。

事業のトレンドが分かるようなKPIの推移や過去との比較(前年同期間比較、全期間比較など)、その他主要な係数や顧客の声の分析結果について確認を行い、事業開発に繋がるようなアイデアを模索したり、場合によっては資本・業務提携の模索なども行います。

ちなみにKPIを資料に載せる際は単に数字や比較表だけを載せるのではなく、なぜその数値になったのか、未達の場合の原因は何で、達成の場合の要因は何で、と必ず理由を付して社外役員が説明なしに見てもパッとわかるようにする必要があります。

4. 組織に関すること

新しい人材の獲得状況や、既存組織において人材が高いパフォーマンスを発揮できているかどうか、退職者の退職要因の分析等について議論します。人材の獲得については正社員とは限らず、業務委託や外部の顧問なども含めてどうすれば会社に必要な人材(知見)の獲得を加速させられるか、意見を交わします。

既存組織の状態については、人事制度の運用状況やMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の浸透度合いを定性・定量的に確認します。定量評価については、組織診断のツールやサーベイなどを活用して定期的に報告するようにします。

退職者の退職要因を正しく把握し経営陣が適切な改善策を検討することも必要になります。社外役員が客観的に事実を把握できるよう、会社が反省すべき点についてできるだけ詳しく正しく報告するようにします(個人に起因する話やプライベートな話はセンシティブな情報のため割愛してください)。

取締役会資料を作る上での注意事項

ここから取締役会に提出する資料を作成する担当の方の目線で記載してみます。これまで説明してきた内容である程度察しているかもしれませんが、事実だけ纏めて提出するだけでは不十分ですし、議論するための資料を作成するにも前提情報がないと不十分になります。数字集計結果だけを提出するケースも良く見られますが、こちらはどのように議論すれば良いかを取締役会に委ねている時点で不十分になります。

取締役会資料のNG・OKラインの一例として、以下に記載してみました。

取締役会資料のNG・OKリスト 一例

体感値ではありますが、よくある事例として、実績集計したけど意志が込められたコメントがない、というのが一番多かったように思います。皆さんの会社でも数字だけの羅列や財務諸表中心、というケースは多いのではないでしょうか?取締役会当日に口頭で補足でも良いのですが、資料は事前に送られるケースが通常で、更に読み手も時間がないので(役員となると当然忙しい人が多い)数字を一つ一つ見ることはできません。実績を集計した場合は、

  • 集計した中で一番重要な数字は何か考え抽出する。集計したといっても全部の数字が重要な訳ではないので、経営上トピックに上がりやすい数字を常に把握しておき、それを抽出する。経営陣が見たい数字は言っても数えられる程度。

  • なぜ当月その数字になったのかコメントを記載する。予算差異はどうなっているのか、今の数字が続くと未来にネガティブなのかポジティブなのか、要因を言語化する。

辺りを忘れずに取り組めば取締役会での議論も徐々に良くなると思います。これらの延長線+αで会社の課題感や取締役会で議論したいイシューを整理したり、資料内にコメントやイシューのサマリーを当たり前に用意できるようになれば、取締役会の議論も徐々に良くなり担当されているみなさんの評価もきっと上がるはず…です!(お約束はできませんが笑)

おわりに

今回はどのように資料を作れば良いかについて、取締役会で行われている議論から資料作成者の方がなるべく理解できるよう記事化してみました。具体的にはこういう資料を作ります、みたいなことまで触れられませんでしたが、ニーズがあればいつか書いてみようと思います。

冒頭にも書きましたが、取締役会資料の事例はあまり世に出回っておらず会社ごとに情報が留まっているケースが多いと思います。担当の方もどう資料を作成して良いか日々悩んでいると思いますので(実際には実務が忙しすぎてそれどころでないケースもありますが笑)、またいつかお力になれるような記事が書けたら良いなと思っています。

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私が創業した株式会社plumではIPOコンサルティング(IPO準備支援)や経理業務の支援・経理の組織づくりだけでなく、資金調達支援や人事制度の立案/運営支援など、コーポレート領域に関わる業務について幅広くサポートを行っております。スタートアップから上場企業まで幅広くサポート実績ございますので、お仕事のご相談がございましたら原田までご相談ください。
今回のような取締役会の運用改善なども是非ご相談くださいmm

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