復興シンドローム【2014/11/15~】③

「おい、はやくしろよ」
怪訝そうなドライバーから投げか蹴られる一言に慣れることはない。通行証と身分証明証の確認作業・同時に車両ナンバーと通行証に記載されているナンバーをチェックしなければならない。それなりに時間がかかる。朝の通勤時間帯はもちろんのこと混雑する。
「はい、すいません。」
事務的な挨拶でその場を凌ぐと、名簿に目をやる自分の額にはじわっと汗が浮かぶ。復興関係の仕事は早い。7時朝礼・7時30分朝礼は当たり前だ。原発近くの復興の看板が掲げられている地域は特に早い。毎日何かに追い立てられるかのごとく仕事が詰まりに詰まっているそうだ。
「こいつらもそうだけど、出稼ぎにはこの街はうってつけだろうな……」
同僚の隊員が話す。
「自分は福島県出身ではないけれども、福島がなかったら今頃自分はどうなっていただろうって考えるだけでぞっとするよ。あまり大きな声で言えないが、原発事故様々だww」

きっと自分が被災地出身だと知らないのだろう。普段は気にもとめないが、「原発様々」と言う言葉が少し心の底に響いた。このような食い詰め人が多くこの県、この地域に集まってきている。帰還困難区域を通って、居住制限区域へと仕事に向かう人々のほとんどが土建業のような服装。時折、町役場の職員らしき人もここを通る。そして、毎日ここを通過する車の中にはTEPCO【東京電力】もいた。ミニバンに数人肩を寄せて乗り、分厚い通行証の名簿を出す。特にクレームはないし、名簿も身分証確認も文句の一つも言わず見せてくれる。自分にとってはマナーの良い通行者ではあるが、東京電力だけあって気まずさもひとしおだ。そもそも自分がここにいることだって原発事故のおかげである。名簿を確認しているそのときだ先ほどの隊員が運転席側に声をかける。身分証を確認している間、雑談でもするらしい。毎日ここを通過している車両らしく、ドライバーとは顔なじみのようだ。自分が身分証確認をしている間

「もう一発、どかんとwwお願いしますwww」

ふとその隊員に目をやった。原発事故のことらしい。不謹慎極まりない台詞だ。話す場所が場所だけに洒落にもならない。とても長く感じられた閑談の後、自分は車両を退域させた。

そして、通過車両がどちらもいなくなったときに出来るだけ冷静に話をした。

「原発事故がもう一回起こればいいってことですか」
その隊員は少し笑顔を見せながら次のように返した。
「そうすれば、ここの仕事もしばらくは続くでしょ。線量が上がって危険手当も増額されるかもしれないし。自分らの食い扶持も長持ちするってことだ。どうせ借金漬けで、老後は生活保護貰って暮らすんだ。今のうちに稼ぐだけ稼いでおかないとな」

「へぇ、借金ですか……」

彼の顔はふと暗くなった。
「ちょっと家庭で支えきれない借金をこしらえてしまってな。今はバラバラに暮らしているんだよ。福島での仕事がなかったら、今頃とっくに首をつっていたはずだ。本当に助かったよ」

あまりに真剣に話すものだから、すっかり怒りも消え失せて、哀れみの気持ちとどうしようもないやるせなさでいっぱいになった。

福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》