VINTAGE【故郷からの仕送り】⑱
大きい段ボールが届いた。
コメ・梅干し・タケノコ……
どうやって料理すればいいのか……あいかわらず自炊しているとでも思っているのだろうか……特にタケノコはどうしようもない。調理法も分からない。
……そうだ。VINTAGEのみんなとおすそ分けしよう。
自家製の梅干しは自分が食べきれる量だけを確保して、コメも半分に分けた。
「こんにちは」
休日のVINTAGEは夕方に行く。毎週月曜日が休みなので閉店まで居座るのが日課だ。(といっても、行けばいつでも閉店までいるのだが)
「これ、実家から送ってきたので、よかったらどうぞ」
「わぁ!」
マスターが声を上げた。
「自分では調理の仕方が分からないので良かったらもらってください」
「本当にいいの?」
「どうぞ。遠慮なさらずに。Sさんもどうですか?」
カウンターで考え事をしてるSさんに梅干しを見せると、マスターが
「じゃあ、小分けにしておくわね」と厨房に持って行った。
「君は食べないのかい?」
Sさんが自分に話しかける。
「いえ、自分の分は家にとってあります。一人では食べきれないので持ってきたんです」
「そうか。地元の味とか、懐かしく思うんじゃないの?」
そう訊かれると、少し自分は気まずそうに
「地元の思い出っていいものばかりじゃないですからね。特に自分は苦々しいことばかりです」
「思い出したくないってこと?」
「そうですね。美味しいものは美味しいですけど、それに伴ってついてくる記憶が邪魔ですね」
「……ふぅん……」
Sさんは少し考えるように煙草を吹かす。
「さぁできたよ」
マスターが厨房から出てきた。小分けに袋に入れられた梅干しとタケノコ、そして福島産の古米。
「これはあたしがもらっていくね」
厨房からお菓子作りのMさんが出てきた。
「どうぞ」
笑顔でその日は暮れていった。
何のことない、いつもの週末だった。
翌週の火曜日
僕はまたVINTAGEに向かう。いつもの日課だった。
「おいしかったよ!」
店に入るやいなやマスターが声をかけてくれた。
「そうですか。それはよかった」
「いいもの食べてるじゃない。地元に帰ったらこんなにおいしいものがあるなんて、やっぱり帰った方がいいんじゃないの?」
笑顔で自分を迎える。すると、まもなくSさんが自転車でやってきた。
「梅干しで食べる量が増えちゃってさ。また太っちゃうよwww」
笑いながら自分に話しかける。
「でも、梅干しって市販のものは減塩になっているのに地元の梅干しはそんなことには気を使ってないので、普通に保存食で、体には良くないかもしれないですよ」
僕はSさんに向かってそう言った。
少し彼は考えて自分に話し始めた。
「梅干しがそんなに塩辛いと、たくさん食べる必要はないよね。だからいいんじゃないの?1度に3,4個食べるものじゃないから、これくらいの塩分でもいいんだよ。昔の人は考えているよね」
ハッとした。ものの見方を変えるだけで時代遅れの梅干しが実は機能的であったことに気づく。自分も時代遅れの梅干しに穿った見方をしていたと気づいたのである。
あんな閉塞感に苛まれた場所にも少し機能的なものがあったのだと感心した。かといって、戻りたくはないがwww。
その日のコーヒーにはタケノコの和え物がサービスで付いた。とても不思議な組み合わせだったが、自分の中で少しうれしいと感じたもう一人の自分がいたのである。もちろん気が付かないフリをしたのだが。
福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》