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健康経営のニューキーワード~【第1回】ヘルスリテラシーとは~

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日本経済新聞の記事によると、健康保険組合の4割がこの10年の間に1人あたりの保健事業費を減らしているようです。健保財政の悪化が背景にあるようですが、保険事業費は健康診断などに使われるものであり、保険事業費を減らすことで従業員の健康が維持できなくなり更に医療費がかさむといった悪循環に陥らないか心配です。
企業としては社員一人一人の自発的な健康への取組を後押しすることで、社員自身が長く健康に働けるだけでなく、医療費が抑えられることで持続的に健康保険制度を維持することができるようになります。

そこで、社員の自発的な健康への取組を促す方法の1つとして、近年注目されているヘルスリテラシーというキーワードをお届けします。分量が多いので全2回の記事となります。

【第1回】ヘルスリテラシーとは何か
【第2回】職場のヘルスリテラシーを向上させる取り組み

リテラシーとは

リテラシーという言葉を聞いてまず何を思い浮かべるでしょうか。
”識字率”という単語としてのリテラシーを思い浮かべた方もいれば、ネットリテラシーや情報リテラシーのような言葉を思い浮かべた方もいるかと思います。この記事ではまず、そもそもリテラシーとは何かについて、公衆衛生分野で「ヘルスリテラシー」の概念を提唱したNutbeamの解釈をお伝えします。Nutbeamによるとリテラシーは次の3つに大別されています。
※「⇒」の文章は簡潔にまとめた解釈です。


■基本的/機能的リテラシー
 日常生活場面で有効に機能する、読み書きの基本的なスキル
 
 ⇒用語に関する知識を持ち、文章の意味を理解することができる能力

■伝達的/相互作用的リテラシー
 より高度で、社会的なスキルを伴うもので、日々の活動に積極的に参加して、様々な形の コミュニケーションによって、情報を入手したり意味を引き出したりして、変化する環境
 に対して新しい情報を適用できるスキル
 
 ⇒情報を主体的に収集しそれらの意味を理解することができる能力

■批判的リテラシー
 さらにより高度で、社会的なスキルを伴うもので、情報を批判的に分析し、その情報を日 常の出来事や情報をよりコントロールするために活用できるスキル
 
 ⇒情報を読み取るだけでなく、それらが適切なものか評価分析することができる能力

この分類は能力のレベルに応じて3つに分かれていますが、それらをまとめるとリテラシーとは「情報を正しく入手・理解・分析し、よりよい意思決定に向けて活用できる能力」ということができます。


ヘルスリテラシーとは

ではヘルスリテラシーとは何かというと、実は多くの定義が存在しています。ここではその中でも有名な定義をいくつかをご紹介します。

■Healthy People 2010 による定義
個人が、健康課題に対して適切に判断を行うために、必要となる基本的な健康情報やサービスを獲得、処理、理解する能力

■WHOによる定義
良好な健康の増進または維持に必要な情報にアクセスし、利用していくための個人の意欲や能力を規程する、認知および社会生活上のスキル

■Zarcadoolas Cらによる定義
情報を得た選択によって健康リスクを減少させ、生活の質を向上させるために、健康情報を探し、理解し、評価して利用できる生涯を通して発達する幅広い範囲のスキルと能力

細かい表現は異なりますが、纏めると以下のように考えることができると思います。

ヘルスリテラシーとは健康に関して自分にとって必要な情報を収集・理解・活用する能力でああり、生涯にわたって健康リスクを減少させ生活の質を向上させる社会生活に必要な能力。

ヘルスリテラシーが低いとどうなるか?

さて、研究ではヘルスリテラシーが不十分な人々によって年間3~5%医療コストの追加コストが発生しているとされています。また、ヘルスリテラシーが低い人は高い人に比べて次の傾向があることが分かっています。

・医療費が高くなる
・死亡率が高くなる
・職場でけがをしやすい
・慢性の病気のために入院しやすい
・医学的な問題の最初の兆候に気が付きにくい
・病気、治療、薬などの知識が少ない
・投薬指示の誤解や読み間違えが多い
・予防サービス(予防接種など)を利用しない
・健康状態の自己評価が低い
・他者からのサポートを求めない


例えばインフルエンザの流行する時期に微熱があったとします。この時にヘルスリテラシーの高い人は念のため病院の診察を受け出社が可能か医師の判断をあおぎます(そもそも予防接種を受けており罹患リスクも低いです)。一方でヘルスリテラシーの低い人は少し体調が悪いだけだと考えて出社し、自分の症状を悪化させるだけでなく、周囲に感染を拡大させてしまいます。

イメージがしやすいインフルエンザを例に上げましたが、ヘルスリテラシーが低いことによって様々な健康リスクが生じます。企業にとって従業員の健康リスク増大は生産性低下や医療費増加、代替人員の確保などの追加コストが発生する要因となります。そのため企業にとっても従業員のヘルスリテラシーは重要といえます。

ヘルスリテラシーの評価方法

ヘルスリテラシーが低いことが健康リスクの増大に繋がることをお伝えしてきましたが、次にヘルスリテラシーの測定方法についてお伝えいたします。ヘルスリテラシーの測定方法は欧米を中心に様々な研究が実施されていますが、1つの確立した測定方法がないというのが実情です。なぜなら、ヘルスリテラシーの定義事態が前述のように複数存在しているうえ、ヘルスリテラシーを測定する目的によって測定方法が変わるからです。

また、ヘルスリテラシーに関する初期の研究は識字率の低い国で行われてきたため、識字率の高い日本人には海外での研究による測定方法が適していないケースがありました。そのため、日本では独自にヘルスリテラシー評価の研究が進みました。

今回は日本における一般市民向けのヘルスリテラシー測定手法である「Communicative and Critaical Health Literacy (CCHL)」についてご紹介します。

「Communicative and Critaical Health Literacy (CCHL)」
CCHLは特定の疾患を持たない一般市民に向けて開発されたヘルスリテラシーの測定手法です。前述した伝達的/相互作用的リテラシー(情報を収集して理解する能力)や批判的リテラシー(情報が適切か評価分析する能力)を測定することができます。

オフィスワーカーを対象とした研究では、伝達的/相互作用的リテラシーや批判的リテラシーが高い人ほどより健康的な生活習慣を持ち自覚症状の数が少ない傾向にあると示されています。また、職場のストレスに対しても「積極的な問題解決」や「周囲への援助を求める」対処をとることが多いと示されています。このCCHLは経済産業省の健康投資管理会計ガイドラインでもヘルスリテラシーの測定指標として例示されており、CCHLを用いて測定されたヘルスリテラシーは健康の保持増進や生活の質を守るために必要な能力といえます。

まとめ

”【第一回】ヘルスリテラシーとは何か”というテーマでお伝えさせていただきましたが、ヘルスリテラシーの大切さが少しでも伝わりましたでしょうか。メディアやインターネットを介して膨大な情報が氾濫する現代社会において、1人1人が自発的に健康に関して適切な情報を収集活用する能力は健康リスク低減に不可欠です。また、冒頭でお伝えした健保財政の悪化に加え超高齢化社会における社会保険料に関する社会課題の解決にも繋がります。皆さん1人1人が健康リスクを減らし活き活きと生活することは皆さま自身にとっても社会にとっても非常に大切なことです。そのためにヘルスリテラシーを高く持つことに意識を向けてみてはいかがでしょうか。

次回は”職場におけるヘルスリテラシーの取組”と題してお話をさせていただきます。

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