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日経ビジネスインタビューを終えて:3Cとクルマ/住宅すごろくの時代


先日、旧知の日経新聞記者の定方さんから連絡があり「幸せな働き方」に関する特集を組むことになったので話を聞きたい、とのことでした。

定方さんと私の最初の接点は、2012年に私が職場復帰支援(リワーク)の無料スマホアプリを作った際、取材に来ていただいたのがきっかけでした。

弊社は「全ての人々が健康かつ幸福に社会参加する世界を創る」を経営理念としており、私じしんも臨床医や産業医として幸せと健康について考える機会がしばしばあるため、今回のインタビューは喜んでお引き受けし、月島のオフィスに来ていただいて1時間ほどお話する機会があったので、今回はそれについて書こうと思います。

インタビューを前に、自分の幼少期から学生時代に至るまで、主として高度成長期からバブル期に「幸せのカタチ」を表象していた「モノ」や「住宅」のことが思い出されました。

しかしそれらは、昨今の「幸福学」ブームの中では多くが「顕示的消費」とされるもので、何というか世の中が直線的に、世代を経るごとに豊かになることが当然視されていた時代のたまものだよなぁ、と懐かしくもいくぶん感傷的な気分になってしまいました。

私の大学生時代はバブル崩壊後だったけれど、ファッションやライフスタイルにはバブル期の余韻があり、今考えると学生なのにちょっと異常なくらい服にお金をかけていたり、卒業旅行に海外に行くのはごく普通だったのが、社会人になる前後からファストファッションが台頭し、少なくとも服やクルマや腕時計などは、顕示品としての役割が急速に色褪せていったことは皆様ご存知の通りです。

古い話ですが、昔の家庭は3種の神器(3C:カー、クーラー、カラーテレビ)を買うべく夫婦(当時、奥さんは専業主婦がメジャーでした)が力を合わせて頑張ったようだし、またその後もクルマすごろく(カローラでスタートして「いつかはクラウン」を目指す)や住宅すごろく(賃貸アパートからスタートして“夢のマイホーム”庭付き一戸建てを目指す)など、人生のわかりやすいロードマップがあって、確かにゴールに近づくにつれて生活満足度も増していったと思われることから、とりあえずは「幸せ≒豊かになること≒安定企業や役所に就職すること」と見做して問題なかったと思われます。

その文脈では、終身雇用で年功序列制で、春闘でのベースアップが維持可能な安定企業に入ることさえできれば、豊かさや幸福を得られる可能性は大幅に高まったため、受験勉強の主たる目的は当然に、大企業や役所に就職するのに適した学歴を得ること、となっていました。

当時はG7に代表される先進国間で競争していれば、概ね満足のいく「豊かさ≒幸せ」を享受できたところ、バブル経済は崩壊し、かつ旧共産圏国家や旧途上国が競争相手として浮上して、かたや日本はとうの昔に経済成長を終え、少子高齢化が進んで長期停滞し、これから先も親世代以上には世界経済の中でプレゼンスを発揮することが難しそうな雰囲気となっています。

「終身雇用・年功序列の組織の中で、そこそこ勤勉に働いていれば経済的に報われ、身の丈に合った幸せを手に入れられる」との社会との黙契は失われつつあり、経団連会長やトヨタの社長からも終身雇用維持の困難さが語られる時代です。

幸せな労働者、のロールモデルに綻びが生じている以上、「幸せに働く」ことや「日々の労働を通じて幸福を見いだす」ための方法論を、私たちの手で更新して行かざるを得ないのは明らかです。これは私のライフテーマであり、だからこそ起業に際し「全ての人々が健康かつ幸福に社会参加する世界を創る」を経営理念として掲げたのです。

さて、定方さんが担当する日経ビジネスの連載も第2回が掲載されたようです。2月4日のトークイベント「どう働く?-哲学的視点で考えるー」の聴講に、私も申し込みました。働くことに哲学的考察が求められる時代なのです。

コメント 2020-01-28 231819

さて、ここまで書いてきて、私は「幸福と承認欲求」に関して興味が湧いてきました。そのつれづれは、またいずれ。

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