秋の空
朝、家を出る前の一番忙しいタイミングでスマホが鳴り始めた。点滅とともにブーブーと震えている。
右手で歯磨きをしながら、左手で今日必要な書類の確認をする。そんな慌ただしい瞬間。
こんな朝から電話をしてくるのはきっと悠人だ。
「ちょっと待ってー」と鳴り響くスマホに声をかけて洗面所に走る。うがいをしたあとに口元に歯磨き粉がついていないかを鏡で確認する。「はいはい、待って」とまた独り言を言いながら。
スマホとバッグを掴み、キッチンの時計に目をやり、髪を手で整えながら、大急ぎで玄関に向かう。
駅まで歩いて10分の距離だけど、電車が出るまであと7分。これはわりと大変だ。
鳴り続けるスマホ。ジリリーンでカウントすると6回目くらいかな。切れる前にとりたい! エレベータでスマホの受話ボタンをやっと押した。
「ごめん! 悠人! なに?」
耳にスマホを押し当てる。エレベータの鏡でもう一度身だしなみをチェック。
「朝からごめん! でも空、見てみ!」
悠人の明るい声が飛び込んできた。
空? エレベータが開いてマンションのロビーを出た瞬間に空を見上げた。
すっごい晴れてる。雲ひとつない見事な青空。
気持ちいい秋晴れだ。
「いいお天気だね!」
慌ただしい気持ちがふっとんで、晴れやかな声が出た。
「今日も頑張れよ! じゃあまた」
「うん、ありがとう!」
今日は午後からちょっと憂鬱な会議があるんだけど、頑張れそう。しんどくなったらオフィスの窓から空を眺めよう。悠人の「頑張れ」も思い出そう。
足を大きく踏み出した。
お気持ち嬉しいです。ありがとうございます✨