ドキドキが止まらない
小説を書いているという彼が、ある日私にこう言った。
「俺の書いたの、読んでみない?」
恋愛小説だと照れくさそうに話す彼。かわいい。
「うん、読んでみたい」
そう答えると、彼はスマホの画面を開いて私に渡した。
「これなんだ。あー、緊張するなぁ」
私もちょっとドキドキして画面に広がる文字を追った。どんな素敵なストーリーなんだろう。
・・・ん?
え・・・?
どゆこと?
変な汗が出てきた。読み進めれば読み進めるほどざわざわする。
あなたは私の斜め上から見下ろしていて、一緒に画面を覗きながら、たぶん私の言葉を待っている。「すごくいい」とか「切ないね」とか、何か褒め言葉を期待している気配を感じる。
もっとドキドキした。
いや、これは恋のお話にドキドキしたという意味ではなく、混乱して心臓がバクバクドキドキしている。彼の書いている文章の意味がさっぱり分からない。何を書きたいのか、この文の主語は誰なのか、話の流れも分からないし、描写も美しくもなんともない。あーどうしよう。こんなもの読みたいと言わなければよかった。
ドキドキが加速する。
あなたからのあの質問を恐れて、ドキドキはどんどんふくれあがる。
「ど・・・」
最初の一文字に心臓が飛び跳ねる。
「どうかな?」
あー言われちゃったよ。なんて答えたらいいんだろう。彼の顔を見られない。どうしたらいい? だけどこのまま黙っているわけにもいかず、意を決して顔を上げたら目をキラキラさせたあなたの顔がまっすぐに飛び込んできて、私は震えるように口を開いた。
「・・・なんか・・・すごすぎて・・・」
言葉にならずに、口ごもる。なんだろ、じんわり涙が出てきた。そんな私を見てあなたも目をうるうるさせた。
「うん、ありがとう。そんなに感動してくれるなんて、うれしいよ」
力強く、あなたが私を抱きしめてくれた。
喜ぶあなたの腕のなかで、私は思う。次の小説をまた見せられたらどうしたらいいんだろう。
ドキドキが止まらない。
お気持ち嬉しいです。ありがとうございます✨