短冊に願いを
小さな笹の枝と短冊を持って、君が僕の部屋にやってきた。
僕たちが一緒に過ごす、はじめての七夕の日。
7月7日。
君はピンクと青のペンを僕の机の引き出しから出しながら、僕に尋ねる。
「なに書く?」
興味深げに僕に聞く君。
「なに書こうか?」
少し考える僕。
僕をじっと見つめる君。
「世界平和かな」って僕がつぶやいてみたら、君はちょっと不満げな顔をした。
きっと君は君の短冊に、「僕とこれからも一緒に過ごせますように」とか「僕が笑顔でいられますように」とか僕のことを書くつもりなんだろうね。僕のことばっかり考えてる君だから。
「私のこと、書いてくれないの?」
僕が「世界平和」と書こうとするそぶりを見せると、それを阻止するように慌てて声をかけた。
ねぇ、短冊は3枚ずつあるじゃない? 「世界平和」も願わせてよ。
「私のこと、書いてよ」
「私はあなたのことを書くよ」
やっぱりね。
君の中は僕ばっかりだ。
そして君はいつも同じだけの僕の愛をほしがるね。
ちょっとめんどうだ。
まず僕は「世界が平和になりますように」って僕の短冊に書いた。
君はすねた顔を見せてから、あとは互いに何を書いているか見えないように背中合わせで書くことを提案した。
君が自分の短冊にペンを走らせている音が聞こえる。
僕も少し考えながら、ほかの言葉も書く。
それぞれの短冊をかわりばんこに笹にくくった。
窓が開いていて、ときおり風が吹きこむ。
笹につなげた短冊がさわさわと揺れる。
君の3枚と僕の3枚。
たまに踊るように絡まる。
君の1枚目「僕とずっと一緒にいられますように」
君の2枚目「僕がずっと君を好きでいてくれますように」
君の3枚目「僕がずっと幸せでいられますように」
思ったとおり、僕のことばっかり。
ほんとにもぉ。
僕の1枚目「世界が平和になりますように」
ちょっとほっぺを膨らませてるだろうね。
僕の2枚目「病気をしませんように」
眉を少し寄せたかな。
僕の3枚目「君の願いがすべて叶いますように」
じっと短冊を見つめて、動かない君。
いま、君はどんな顔してる?
君は最高の笑顔で僕に飛びついてきた。
「ありがとう。大好き」って言葉をつけて。
僕を好きすぎる君ってやっぱりかわいい。
君はもっともっとって望むからめんどうだけど、そんな君を好きな僕もわりとめんどうなやつだ。
ずっと僕だけを好きでいなよ。
僕もずっと君を好きでいるから。
僕が君の願いはすべて叶えるよ。
だって僕にしか叶えられない願いばかりだからね。
だけどさ、今日くらいは僕のことばっかり考えてないで、織姫ちゃんと彦星くんのために祈ろうよ。
今日の夜空が明るく澄みわたりますように。
2人が今日は会えますようにって。