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今日も寒いね。

君が「さむいぃぃ」って言いながら、バタバタと僕の部屋に飛び込んできた。

冬が苦手という君はコートに頭ごと入り込むような丸まり方をしながら、その上から大きめのマフラーをぐるぐると巻いて、手袋をした両手をせわしなくこすりあわせている。なんだかせっかちなリスみたいだな。僕はクスッと笑って読んでいた本をテーブルに置いた。

君は真っ先に僕に向かってやってくる。

コートもマフラーも手袋もどれ一つ体からはずさずに僕の体とこたつテーブルの間に滑り込む。それから数秒後には「あったかいぃぃ」って声を出す。

そう、こうなるって分かってたから僕は君の声が玄関から聞こえてすぐに本を読むのをやめたんだ。本を持っていたら君を抱きしめられないからね。「うぅぅ」と言いながらくっつく君を僕は大切に抱きしめた。君はじっと、こたつの暖かさと僕の体の暖かさを味わっているようだ。

冷えた君を僕が暖めてあげる。

君はしばらくしてやっと手袋を外す。裸になった手をもう一度僕の背中に回す。まだちょっと冷えた手の温度が背中に伝わった。

「ほら、そろそろ手を洗っておいで」

いつものように僕はゆっくり君にそう言った。

「お湯でる?」

「うん、お湯はすぐに出るはずだよ」

君はそろりと僕から抜け出す。やっとコートとマフラーを脱いでハンガーにかける。洗面所に向かう君の後ろ姿を僕は目で追いかけた。丸まっていた背中はシャンと伸びて寒さを感じなくさせていた。

水の音を聞きながら、僕は本を持ち直す。

さて、どこまで読んだっけ。君がくれたローズマリーの花のシオリを外しながら、読みかけのページを開く。数行、目を通したところで君の声が聞こえた。

「ねぇ、紅茶が飲みたい」

僕はやれやれ、と本にまたシオリを戻して立ち上がる。

ポットのスイッチを入れてから、カップにアールグレイのティーバッグをセットした。お湯が沸くのを待っている間に君が僕のほうに来て、僕の胸にくっついてきた。

僕にくっつくのが好きな君。君にくっつかれるのが好きな僕。

いつもの君と僕。

いつもどおりの幸せ。

「ほら、お湯が沸いたよ」

僕の胸から顔をあげた君の唇にそっとキスをした。


#短編小説 #掌編小説 #冬 #日常 #恋人



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