見出し画像

#27 飛び込む勇気

今日は私の誕生日。そしてすごく大切な1日になる。ううん、もしかしたら2日間になるかもしれない。

奥さんのいる中山さんにあのときオフィスで抱きしめられてから、ずっとこの日を夢見てきた。時間を気にせずに一緒に過ごせる日を。「また明日」って言って奥さんのもとに帰っていく中山さんの後ろ姿を見なくて済むかもしれない日を。

私がゆっくり、だけど確かに進んでいるこの道はかならず誰かの心を傷つける道だって分かってる。もしかしたら自分の心も壊してしまうかもしれない。でもどんなにつらくても歩みつづけることに決めたから、迷いはない。

私はいま、中山さんがいる岐阜に向かう新幹線の中にいる。今日は土曜日で本当だったら中山さんとは休みの日には会えないけど、今日は私の誕生日だから一緒にいくってわがままを言ったんだ。それくらいのわがまま許されるよね。

座席にゆっくり腰掛けながら、今朝行った美容院での美容師さんとのやりとりを思い出す。

「今日はこのあとおでかけですか? もしかしてデートかな?」

そう言われてはにかむように笑った自分の顔が鏡に映った。デートだとは答えなかったけど美容師さんは私のその様子を見て、帰り際にこう言ってくれた。

「ふんわりめのカールにしておきました。いつもよりかわいくなるように、おまじないね」

私、今日はいつもよりかわいかったらいいな。中山さんにかわいいって思ってもらいたい。たくさん見つめられたいな。

そんなことを思い出しながら一人でドキドキしていたら、手に持っていたスマホが震えた。中山さんからのメッセージだった。予定どおり午前中にお客様と話せ、いま昼食を済ませたこと、午後は現場に移動して設計の細かいところを確認してそのあとまたお客様に報告に戻ること、そんなことが詳しく書かれていた。

予定どおりという言葉にホッとしたけど、同時にちょっと心配にもなった。順調すぎて午後早くに終わったら、そのあとは二人で観光して帰りの新幹線に乗れちゃうのかな。今日中に東京に戻れちゃうのかな。

膝の上に乗っているバッグにはお泊まりのための荷物がたくさん詰め込まれているんだよ。

うれしい気持ちばっかり詰まっていたバッグに何かが加わって、少し重く感じた。

もし、今日は帰れそうだから日帰りで帰ろうって言われたら、私はなんて言えばいいんだろう。帰りたくないって言ってもいいのかな。中山さんの夜を私にくださいって言ってもいいのかな。

怖がらずに飛び込みたいよ。

私は中山さんの愛が見たい。


1023文字

#短編小説 #連載小説 #中山さん #誕生日 #勇気 #バッグ

中山さんはシリーズ化していて、マガジンに整理しているのでよかったら読んでみてください。同じトップ画像で投稿されています。

続きはこちらです。

第1作目はこちらです。ここからずっと2話、3話へと続くようなリンクを貼りました。それぞれ超短編としても楽しんでいただける気もしますが、よかったら「中山さん」と「さやか」の恋を追ってみてください。

『中山さん』シリーズ以外にもいろいろ書いています。よかったら覗いてみてください。



お気持ち嬉しいです。ありがとうございます✨