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「一夫多妻制でもいいのに」 妻編

私はパートのない日はかならず2時にワイドショーを見る。

ワイドショーは世の中の動きがよくわかるからだ。ついでに立派そうな人のもっともらしい批評も聞けるのでなんとなく知識が深まる気がする。

よくでてくる不倫の話題なんかも他人事だと思っている。

なにも変化のない普通の日々を普通の主婦として生きている。

子供に恵まれなかったけれど、夫とは結婚以来15年、そこそこうまくやっている。

くだらないギャグを言うのが好きな夫の、そのくだらない感じがけっこう好きで毎回「ふふ」と笑ってしまう。

こうしてこの先もこの人とのんびり生きていくんだと思っていた。

●私は今でも女

なのに出会ってしまった。

自分が女なんだと意識してしまう男性に。

パート先の社員さん。

仕事で私がわからないことを丁寧に教えてくれる人。

入り口のドアを開けて先に私を通してくれる人。

まさか自分がこんな気持ちになるとは思わなかったけど、いつしか彼を目で追うようになった。

出勤前の服選びに時間がかかりはじめ、お化粧道具を増やし、ジュエリーがほしくなった。

新しいキラキラしたものを選びながら思い浮かべるのはいつも彼の顔。

彼はどんな服が好みなんだろう。スカートかな? パンツかな?

ジュエリーは大人っぽいのがいいのかな? 

賢そうな女性が好き? 甘えてくる女性が好き?

私のこと、少しでも意識してくれているんだろうか。

●甘くて苦しくて艶かしい

これは危険だと思いつつも、恋する気持ちをコントロールするのは何歳になっても難しいと思い知らされる。

ほぼ15年近くお休みしていた恋心がこれほど甘美で苦しいものだったとは。

奥さんがいても構わない。

ただ少しでも私を抱きしめてくれるだけで私は震えるほどの幸せに包まれるだろう。

あぁ、この国が一夫多妻制だったらよかったのに。

忘れていた自分の中の女の部分。

いつから忘れてしまっていたんだろうか。

それも、もう思い出せない。

●観察と比較

それからは夫をいつも以上に観察するようになった、という変化が私の中で起こった。

それは「比較」という観察。

歩き方や立ち方、笑い方、言葉遣いや知識量、人との距離感、そして特に私への接し方。

そういったものすべてを彼と比べるようになった。

そして夫と離れて私は生きていけるのか? ということを何度も考えるようになった。

経済的な問題もそうだけど、なんというか心の安定みたいなものだ。

ともに築いてきた夫婦関係は、それなりに強固なものになっていて、これを手放す勇気が自分にあるのだろうか。

●もう戻れない

1ヶ月もしないうちに気持ちの歯止めは効かなくなった。

じっと彼の目を見て彼の口を見て、彼の手を見た。

どうしてこの人はこれほど私を情熱的にするのだろう。

これほどの好きを抑えることができない。

いや、抑える必要はない。

本能に従えばいい。

そう、恋に罪はない。

都合の良い考えが頭の中に浮かびつづける。

自分の気持ちを肯定してしまう気持ちが芽生えてからは、その不道徳さを不道徳だと感じなくなった。

そうして家を出た。

●夫が来た

夫が来たのはそれから数ヶ月後のことだった。

突然の訪問にかなり驚いたし、言葉がでなかった。

瞬時に何かを悟った顔をした夫はドアを閉めて去って行った。

あぁちょうどいい。お別れを言おう。

追いかけて呼び止め、

別れを告げる。

少し震えているような夫の唇を見ながら、私はあの人の唇と比べた。

1375文字

#短編小説 #妻 #家庭 #別れ

私の処女作「一夫多妻制でもいいのに」を妻側目線で書いてみました。

夫目線の記事へのリンクは以下です。よかったら覗いてみてください。




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