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魔女っ娘ハルカ⑰(小説)

俺達は滋賀県を出て、成田に到着した。

「さて、ウチに帰ろうか。」
空港駐車場に停めておいた車に乗り込み、帰路につく。

「大丈夫?疲れてない?」
「まぁ、流石に色々あって疲れたけど大丈夫だよ。」
「ウチに帰ってゆっくり休もうね」
「うん。」

ハルカは取り戻した宝玉をバックに入れて、大事そうに両手で抱えている。

「良かったね、取り戻せて」

「うん。おばあちゃんとの約束だったから…」

「俺、蛇に変えられた…」

「ビックリしたねw!でも、助けてくれた…」

「そうだね…ねぇ、おばあちゃんってどんな人だったの?」

「ウチのおばぁはね〜厳しいけど優しかったな…」

「修業みたいなのとか?」

「それもそうだけど、私がね学校で馬鹿にされたりいじめられた時とか泣いて帰ると、『泣くんじゃないよ!』って叱られた…」

「あら…」

「でも、その翌日に学校に行くと私にイヤな事をした子が謝ってくるの。」

「へぇー、一晩で改心するんだ。」

「はっきりは分からないけど、おばあちゃんが何かしたんだと思う…」

「え…魔術とかで…?」

「いやいや、普通に向こうの家に行ったり、電話したりとか…」

「なるほど」

「私の前では厳しくして、裏で守ってくれてる感じがしてた。」

「大切な孫だものね」

「あと、自分がどんなに辛かったり悲しくても強く生きなさいって…」

「うん…」

「人を助けられる様になる為には、心を鍛えないといけないよってね。」

「そうか…」

「人に優しく接して、その人の笑顔を見て、それを自分の力にしなさいってね…」

「難しいね…」

「難しいよ〜!だから、どうしょうもない時は一人で海を見に行ってた。そうすれば、気持ちは落ち着くから…わかるでしょ?」

「………わかる」

「ヒロも、独りで海眺めてたもんね〜w」

「え…なんで知ってるの?」

「さぁ〜なんででしょ?w」

「…見てたの?」

「おウチ着いたら起こしてね〜おやすみ…」

「…はいはい」

俺達は疲れ切った身体で帰宅し、食事もそこそこに気がつくとベットで横になっていた。



翌朝、目覚めるとハルカの姿は家中のどこを探してもいなくなっていた…

テーブルの上にはハルカからの書き置き。

「少し出掛けてくるね」

俺は突然の事に驚き、そして急激に寂しくなった。

「ハルカ…」

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〜南房総・海岸〜

ハルカは一人で海の朝焼けの空を見ていた。
 

「キレイ…」

私はヒロの住まいを出て、一人で海を見に来ていた。

流石に昨日の出来事は身体にも心にも負担がかかった。
あの洞窟内は様々な負の念が渦巻いていて、あの場を離れても尚、不安感や恐怖が拭えずにいた。
ヒロの近くにいて、その負の念が悪い影響を及ぼしてもいけないと思い、夜が明ける前にウチから飛び出したのだ。

私は浜辺に座り、しばらくボッーと朝日を見ていた。



私は海の近くで生まれ育ち、自然に恵まれた環境で生きてきたので、たまにこうして自然と触れ合わないと心のバランスを崩す。

誰もいない浜辺を歩く。


原岡桟橋

ヒロはこんな海を見て生きてきたのかな…
もっとたくさん見たい、彼の見てきた海を。

私は千葉の海を北上することにした。


月の沙漠

凄い砂浜。
月とラクダに乗った男女のモニュメントが置かれてる。


御宿の海岸

だんだん日が上がってきたな…
人もチラホラ出てきた、サーフィンしにきたんだ。


「あー、気持ちいい〜!」

一人でビーチラインを旅するのも悪くない。
本当は彼と来たかったけど、今日はゆっくり休んでて欲しい。
昨日も大変だったからね。


清水渓流

ちょっと内陸に入ると、こんなところもあるんだな〜。
なんか素敵…
ハートが横向きになってる〜!

本須賀海岸

やっぱり水があるところは心が洗われるようで、気持ちが良い。

水は形を持たないから、スッと隙間に入ってくれて余分な物を流してくれる。

自然な流線を描き、早く力強く、ゆっくり優しく、私を癒やしてくれる。

流れに逆らわずに、ただ導かれるままに…

だから、たどり着けたのかな。
彼の息吹を感じる。

最北まで、あと少しだ。
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〜千葉県北東部〜

「着いた〜!」

屏風ヶ浦

「スゴい地層むき出し?!笑」

きっとヒロも見たことのある風景。
好きな人の痕跡を追っている気がして、なんか照れくさい…
でも、なんか幸せ。

ビーチの脇にある階段に腰掛け、彼のことを想う。

この後、私は使命をはたすために今一度、里へ帰る。
私達はその後どうなるのだろう…

所詮、私は幽霊。
ずっと一緒になどいられるわけはない。
なら、もうすぐお別れなのかな…

そんな事を考えてたら…涙が出てきた。

あくびをしたからだ。

辛い先のことは考えない。
今を大切に
彼との時間を大切に
きっと成るように成るさ
きっと…きっと……ね…

くぅ~…くぅ~……ぐー〜
私は朝早かったので昼寝してしまった。

ちょっと寝ますね…おやすみ…

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〜夕刻・銚子マリーナ〜

「…はっ?!寝すぎた!」

辺りは日が落ちてきて、薄暗くなっている。


「全然、観光してないじゃん!ヤバい、急ごう!」

私は急ぎ足で近隣の観光スポットを周った。


犬若岩

「わー、お犬さんの形してる〜!」

その昔、源義経一行が兄・頼朝の捜索から逃れるために、この海岸から舟を出した。
その際に、前途多難な航海であるがゆえに旅の友の忠犬と別れなければならなかったそうな…
しかし、この忠犬は待っている。
己の姿を大きな岩と変え、愛すべき主の帰りをいつまでも、いつまでも待っているのである。


長崎町・西宮神社

「夜に見る鳥居って…怖い。」

君が怖いなら、皆んなも怖い。
海からは善からぬモノも渡ってくるからね。
ここを守るため鳥居は結界として存在する。


君ヶ浜・犬吠埼灯台

「あの光はここへの道しるべなんだよね…」

幾人の海の旅人が、この光に導かれてここに訪れたのだろう。
幾多の漁師が、航海の帰り路をこの光に頼ったのだろう。
昔は何人も帰ってこれない男達がいた。
そして、その男達を待つ人がいた。
港町の宿命…
彼らの魂は今なお生き続けている。

「いや〜遅くなっちゃったな。どこか近くでキャンプでもしようかな…」

私は隣町の海岸道路沿いのキャンプ施設に一晩泊まることにした。


太陽と海・キャンプ場


「結構、利用客いるな〜!」

陽気も暖かくなってきたのでキャンプ場は、キャンパーで賑わっていた。

私は端のほうの空いたスペースで一休み。
隣の人達がバーベキューをしてる。


「…お…美味しそう…」
ちょっと一本だけ…
ソーセージ…焼き鳥…美味いよ〜!
あはっwww
ごめん、もう一本だけ…
あっ、ビールも…
た…たまんない…
最高!www

勝手に隣のキャンパーと交じって夕飯を御馳走になる。
腹が減ってるから人見知りなど関係ない。

「…ん?このソーセージ味がしないな。」

「(ヤバい…)」

「この焼き鳥も塩が足りないんじゃない?」
「あれ?俺の開けたばかりのビール、なんの味もしないんだけど…」

「(さて、そろそろ寝るか…)」

私は一通りの食材で腹を満たし、眠りにつくことにした。
勝手に寝袋を拝借して…

………………………………………………………………………………

〜日の出・飯岡海岸〜

「ん〜…良く寝た〜」

私はキャンプ場から浜辺に出てみた。

とても朝日が綺麗だった。


「さて帰ろうかな。エネルギー充電完了!」

私は千葉の海から栄養をたっぷりといただき、彼のもとへ飛んで帰った。

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〜ヒロとハルカの住まい〜

「ヒロ…」
ベットで寝ているヒロを見ている。

「チュ…」
頬にキスしてみた。

「ふふ…」
ヒロが笑った。

「(もう一回)…チュ、あっ…」
ヒロの目が開いた。

「ハルカ…どこ行ってたんだよ〜!」
私の身体をヒロが強く抱き締める。

「ご、ごめんね!ちょっと海を見に…」
私はベットに引きずり込まれた。

「それなら、俺も一緒に行ったのに…」
ヒロに身体をがんじがらめにされる。

「あ…あん…ちょっと〜…今日はお仕事じゃないの?もう、時間でしょ。」
もう身動きが取れない…

「ハルカが居なくなったと思って、死ぬほど寂しかったんだからな!」
あらあら…

「ごめん…もう勝手にどこか行ったりしないから。ごめんね…」
可愛いな…ヒロ。

「わかった、じゃあ仕事行ってくるから待っててね。」
はい…。

「うん、ちゃんと待ってる。」
なんか、奥さんみたい…

「じゃあ、行ってくるよ。」
いってらっしゃい、旦那様。

「お早いお帰りを…」

「帰ったら可愛がってあげるからな…」

彼は私のおでこにキスをして、慌てて着替えて仕事に向かった。


「……はぁ。」

この幸せが辛い。
彼が一つ無くなるだけで、辛くなる。
いつか壊れてしまうのだろうか…
大切な人を失う悲しみは、心を失くすことに他ならない。
ならば、いっそのこと無かったことに…

ハルカなんていない
ヒロなんていない

全ては作り物の有り得ない世界。

愛なんて知らない
愛なんて要らない

ずっとそうだったじゃない。
ずっと…ずっと私達は信じてなかった。

こんな妄想の中だけのラブストーリーを書いたって、私達は決して結ばれることはない。

でも、
でも…

好きなんだよ
どうしようもないくらいに好きなんだ。

君が男だろうが女だろうが関係ない。
幽霊だって妖怪だってかまわないんだ。

性別なんてどうだっていい。
姿、形も気にならない。

私は君が好き
君は私が好き

私は君で
君は私…

足りない事を補い合って
互いに必要として
寄り添って
重なる…

私が陰ならば
君は陽として

時に、私が月ならば
君は照らす太陽として

君が疲れたのなら
私が支えて
私が寂しければ
君が抱きしめて

そうして二人の想いを紡いでいたい
いつまでも忘れないように…

いいでしょ?
お願いします
神様…

続く。。



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