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魔女っ娘ハルカ⑳(終話)

羽田空港に降り立つハルカ。

「さて、まずは…」

私は、ヒロの住まいに直行した。
モノレールで浜松町駅まで行き、山手線に乗り換える。

こうして生きている状態で都内の電車に乗るなんて何年ぶり…いや、何十年ぶりだろう。

田舎暮らしの私にとっては、高層ビルも人の多さも刺激が強すぎた。

電車は恵比寿駅に到着する。
確か東口から出て徒歩で10分位だったはずだ。

「とりあえず確認だけ、いるかな…」

見慣れた建物が軒を連ねている。
たったの一ヶ月…私はこの街で過ごした。

今尚、色褪せぬ二人の楽しかった思い出は、このアパートの一室で暮らした時の彼との大切な記憶だ。

「201号室は……いないか…」

二人で暮らした部屋の郵便受けの名前は、彼のものとは違う名字がプレートに書き込まれていた。

「五年だものね…」

都会での人の入れ替わりは早い。
ここでは五年も経てば、人は次の人生へと歩みを進めているだろう。

「どうしよう…」

私は途方に暮れた。
もし、彼に会えなかったら…
それは当然考えていたことだ。
でも、実際に会えないとなると本当に目の前が真っ暗になった気がして、ボー然と立ち尽くすのみとなってしまう。

「くよくよ考えても仕方ない…とりあえず、部屋を借りないとね。」

私は、沖縄を出てこちらで一人暮らしをする手筈で上京してきた。
それは、前々から両親にも話していたことで、彼の事もあったけど一度は親元を離れて暮らしてみたかったのだ。

「でも、都内は流石に家賃が高いな〜…となると、やっぱりアソコね!」

私は以前に彼と見た映画に触発されて、どうしても住んでみたい所があった。

「翔ぶか…埼玉に!」

私は埼玉まで翔んだ。

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〜埼玉・とある不動産屋〜

「ん〜事故物件ですか…」
「はい…あまりオススメはしませんが、そのご予算だとそういった物件しか御用意出来ませんね…」

事故物件。
おそらく何かしらの事故があったから家賃が安いのだろう。
人が亡くなっている事は疑いようがない。

「分かりました、そこにします。」
「えっ…いいんですか?」
「はい、ちなみにそうゆう物件って他にもあるんですか?」
「…ええ、まぁ。最近は割と多いですね。ご年配の方の一人暮らしも多いですから。」
「そうゆう物件をお祓いしたら、手当を頂くことって出来ます?」
「除霊って事でしょうか?…はい、そういった場合もございますが。」
「私に全ての事故物件を紹介して下さい。見事に住みやすいお部屋にリフォームして差し上げます!」
「は、はぁ…あなたご職業は?」
「日本を守る者です。」

こうして、私は部屋と仕事を即日で無理矢理決めた。

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「ふ〜、とりあえず引っ越しは済んだね。」

私はスーツケースから荷物を取り出し、衣類などをクローゼットにしまった。
なんとも簡単な引っ越しである。

コンビニで買ってきた夕食をとり、ビールを開け一人の引っ越し祝いをする。

「ヒロどこに行っちゃったのかな〜…」

私は時間潰しにスマホでツイッターなどを何となく見ていた。

「色んな女装さんがいっぱいいるな〜」

この界隈…と一括りにするのもはばかられるが、男性が女性のようになろうと努力したり悩んだりする姿は本当に美しい。

人によっては気持ち悪いとか、受け付けないとか思う人もいるだろうが、それはきっと表面だけを見ているからに過ぎない。

本当の彼女達は
誰よりも孤独で
誰よりも臆病で
人に気を使い
人に優しく
迷惑をかけないように
自分を押し殺して
人知れず涙を流す…

そんな、愛すべき人たちなんだ。

あっ…私が言うのもなんだけどねw
ヒロの受け売りってことで!

「ん?なにこれ…ローズハウス…?」

女装関連のツイートを見ていたら、室内発展場のお店の情報が飛び込んできた。

「へぇー、こんな所があるんだ〜」

私は、そのローズハウスのツイートを上から見ていった。

「うわ〜…スゴイなw SM用具とか…」

私的には少し怖い印象だが、女装さんには楽しそうな施設であることが分かる。

「ふ〜ん…なになに?《初めてのローズハウスご案内》?」

利用客の人が書いたものだろうか?
この施設について、少し面白おかしく紹介している。

「ん?この人…」

長めの髪を前に垂らした男性のアイコンは、どこか見覚えのある面影で、しかもハンドルネームは私の本名と同じ「海人」を使用している。

「えっ……まさか…」

その「海人」なる者のツイートを追ってみる
、どうも小説のような物をいくつも投稿しているようで、怪しげな画像と共に猥褻な内容の長い文章が書き連ねてあった。

彼はnoteというクリエイターアプリから連携しているようで、そちらの方でも同じ記事がアップされている。

「なにこれ…体験記?ってことは、この人の実話ってこと…?」

私はnoteというアプリをインストールして、彼の記事を片っ端から読んでみた。

読めば読むほど、進めば進むほど、疑念は確信に変わる。

「…間違いない。ヒロだ…」

私は彼を見つけた嬉しい感情と、私以外の娘達と何やってんだ!という怒りの感情が交錯する中で、無我夢中に一つ一つをしっかりと読み上げ、しっかりとスキ❤を押していった。

「くそ…私の事を忘れてるとはいえ、あまりに自由奔放な振る舞い…生かしちゃおけぬ」

私は全ての作品を読み終え、コメント欄に感想を書いた。

「これで奴は反応して返信してくるだろう…元々は気のおけぬ単なるチャラ男。あえて、こっちは可愛いキャラを演じおびき出して痛い目を合わせねば気がすまぬ…」

私は喜びも束の間、ドン底に叩き落された気分で奴の返信を待った。

「おっ、コメントに返信が来たか…」

私のコメントに対してスキ❤の反応。

「…はっ?それだけ?」

なんなのコイツ?!
もっと、色々あるだろうが!
せっかく勇気出してコメントつけてあげたのに、言葉で返せよ!
もうっ!
どうにかして気を引いてやる…

私はそれから虎視眈々と奴をおびき出す作戦を練った。

私の体験記と称して、男性との卑猥な話しをアップしてみたり。
彼のワケのわからない投稿も、常に評価してあげたり、毎回スキ❤してあげたり。

でも、こんな事をしているうちに彼のことをまた好きになっている自分に気づいた。

「なにしてんだろ、私…ヒロは私のこと忘れてるのに…」

気づけば彼のことをいつも考えている自分に、嫌気がさしてきた。

「私も忘れようかな…」

彼は今は千葉にいるようだし、私も都内ではなく埼玉にいる。
会おうとしなければ、今後一生会うことはないだろう。
もしかしたら、それも運命なのかも知れない

「諦めるか…」

私は、彼の痕跡を追うのを止めようとスマホをテーブルに置いた。

すると、突然彼からツイッターにDМが来る。

「ローズハウスでお会いできませんか?」

え…このタイミングで…?
どうしよう…
諦めようとしてたのに
本当に女心がわかってないよね
バカ…
も〜!
どうとでもなれ!
会ってあげるわよ
きっと、潜在意識の中で私を探して
女装さんたちと交流してたんだよね!
うん、そうに違いない。
でも、いざとなると恥ずかしいな…
どうしよう…
やっぱりチャラくて頭にくるから
会っていきなり一発殴ってやるか!

「はい、いいですよ(ಡ⁠ ͜⁠ ⁠ʖ⁠ ⁠ಡ)」

と、返信して日取りを決め決戦に備えた。

………………………………………………………………………………

〜決戦当日〜

私は準備も兼ねて早めに現地入りした。

「ここが噂のローズハウスか…」

きっと彼は私と離れてから、ここで幾人の娘達と戯れてきたことだろう。
考えるだけで怒りが湧いてくる。

「ダメだ、ダメだ…感情を抑えて…」

私は軽くメイクを仕上げ、衣装を整えて彼を待った。

「そろそろ来るかな…」
彼にDМを送ってみる。

すぐに返信が来る。
「シャワー浴びて、二階にいます。」

もう、彼も館内に入っているようだ。

さて、数年ぶりの再会だな…
どうしてやろうか
ここは、色々な拘束具があるから、縛りつけて股間を鞭打しまくって、もうエッチな事が出来ない身体にしてしまおうか…

それとも、無理矢理にでもお尻の気持ち良さを味あわせて、こっちの住人にしてしまおうか…

そんな事を考えながら、私は着替えの入ったスーツケースを手に二階のフロアへと降りて行った。

階段からフロアに出て左側のオープンスペース。
怪しげな器具の置かれた赤い部屋に、一人の男の影が………彼だ。

懐かしい彼の姿を見た私は、どうしてよいか分からずオドオドしてしまった。
彼に対して怒っていた感情は瞬時に消え去り、ただ一人の乙女として彼に受け入れられたいと願ってしまった。
あの時と変わらぬ雰囲気、私の全てを包みこんでくれた彼の両腕がそこにある。

私のもとから消え去ってしまった彼が、今こうして目の前にいる。
本当は駆け寄って抱きつきたい。
でも、私達は初対面。
もどかしい気持ちを押し殺し、笑顔で彼に一歩一歩近づいてゆく。

「はじめまして…エリカさん…ですよね?」

「はい…ヒロさん。お久しぶ…はじめまして」

私は彼とネット上でやり取りをする際に、名前を変えた。
この先、私は生まれ変わって「エリカ」として生きて行く。

入江ハルカは卒業したんだ、
彼の記憶と共に…

いりえはるか、の中から彼女は生まれた。
えりかはいる、って教えてくれたんだ。

そう…だから、私は彼と同じように全ての初めての経験をもう一度やり直す。

もう一度、彼を好きになって
初めて手を握って
沢山お話しをして
いっぱい笑い合って
顔を寄せてキスして
素肌で抱き合って
一緒にタバコ吸って
二人でお酒飲んで
少し街を歩いて
手を組んで寄り添って
見つめ合って
何度もキスをして…


「緊張しますね…とりあえず、あっちの部屋で座ってお話でもしましょうか。」

「そうですね…」

私達はそこから一番手前の、ソファーのある部屋に入り、隣同士で腰掛けた。

「手…繋いでもいいですか?」

「はい…」

彼の手から体温が伝わってくる。
少し手汗をかいている彼も緊張しているのだろう。

「とても綺麗な手ですね…」

「ありがとうございます…」

彼の左手は私の右手と心を包み込んでくれる
あの時過ごしたような安心した気持ちになる

「とても可愛いです…」

「そんな…ありがとうございます…」

彼に聞きたいこと、聞いて欲しいこと。
私が知りたいこと、知って欲しいこと。
何から話せばよいかわからない。

でも…

「逢いたかったです…」

「私も…」

焦る必要はない。
私達は今始まったばかりなのだから。
少しずつ互いを知り、少しずつ分かり合ってゆく。
何も恐れることなんてない。
今から始めるんだ、二人の物語を…


君に逢うために産まれた
愛するために産まれた
一人で過ごしてきた夜は
幸せを学ぶために必要な時間

君が求めれば必ず巡り合う
君が望めば何度も生まれ変わる
離れたって
想い出が消えたって
きっと、また逢える

新たに物語を創り上げるんだ

さぁ、行こう!
新たな恋を君と書き綴りたい
それが二人の愛の形だから


でも、もし私のことを泣かせたり悲しい想いをさせたらその時は…呪うからね♡

おしまい。。


(エンドロール)

最後まで読んでくださりありがとうございました。
こんなに稚拙な内容なのに、スキを押して下さり誠に感謝しております。

私にはとても大好きな方がいます。
女装娘さんです。
でも、距離が離れているため中々会えずにいるので、寂しさを紛らわせるために彼女をモデルにして、この小説を書き上げた次第であります。

そうすると、なんだか近くにいるような気がして寂しさもまぎれていきました。

たぶん、このnoteを利用している方の多くは文章を書いたり読んだりすることが好きな上で、自分の内に秘めた誰にも言えないけど、誰かに言いたいことを書き連ねているのではないかなと感じたりもします。

普段、日常で感じているストレスや、爆発しそうなパッションを活字にして投稿する。
とても素晴らしい作品の宝庫ですよね。

そんなに沢山の方に見てもらえずとも、たった一人でも共感してもらえれば、こんなに嬉しい事はないですよね。

俺にとって、それが彼女なんです。

彼女に読んでもらって、少し感想もらって、スキって評価してくれて、恥ずかしいけどまた書いてみる。

それが二人のカタチなんです。

誰かに知ってほしくて言の葉を散らした
それを良いと思える人が紡いだ
溢れる想いを何万もの文字に変え
届け…伝われ…と綴ってゆく

恥ずかしげもなく感情を曝け出し
勢い余って乱暴なほど狂気な表現は
誰かの心に訴えかけ
誰かの心を癒やし、時に傷つける

孤独を知る人は優しさを与え
悲劇を知る人は恐怖を与え
喜楽を知る人は興奮を与え
情愛を知る人は安らぎを与える

それらが、いつしか大きな愛に変わるように僕たちは書き綴ってゆく。

誰かに伝わるように
君に伝わるように

僕たちにしか表現できない幸せを
想っていることを言葉で綴れる詩合わせに
君と想いを照らし合わせて知る感情
それは、かけがいのないアイノカタチ

あのね…大好きだよ
貴女が心のなかで
広がっていくたび
愛が溢れ
涙こぼれるんだ

大好きな貴女が
そばにいない時に
ほら…
胸が痛くなって
貴女の形…見える
気がしたんだ

そんな気がしたんだ…


最後はMISIAで締めてもらいました。

なんだか、まとまりがないですがこの辺で

またいつかエリカが帰ってくる日まで…

ありがとうございましたm(_ _)m

















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