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魅了する男と世界で一番幸せな男【第2章】

修学旅行も終わりまたいつもの学校生活が始まった。
莉音とは今までと特に変わらない。

時々2人きりのときは熱っぽい目で俺を見ているが、教室ではいつもの柔らかい雰囲気をだしていた。

今日は部活も休みで、菖蒲に別れ話をしようと思い一緒に帰る約束をした。

菖蒲のクラスが終わるのを待ちテイクアウトで飲み物を買い、よく2人で行った公園についた。

公園は秋の色に染まり冬が近づいているのを知らせるかのように、時折風が吹く。

「斗愛久しぶりにここに来たね」

「今日は菖蒲に話しがあって……」

「何?え……?」

菖蒲は、不安そうな顔で俺を見る。その顔を見たら、俺は少し苦しくなったが、正直に話した。

「ごめん。別れてほしい……。好きな人ができた」

「……誰?」

「……それは言えない……。俺が悪い。ごめん……」

菖蒲は泣いていた。
菖蒲が泣き止むまで俺は横にいた。

男が好きなんて正直に言えなかった。少なくとも俺のクラスでは、受け入れてもらえないことを知っていたから。

俺だけじゃなく莉音にも迷惑がかかる。菖蒲は泣いていたが結局承諾してくれて、俺のもとを去った。

いつのまにか日も落ち、先程より冷たい風が身体を通り過ぎる。人肌が恋しくなるそんな風が吹いていた。

***

あれから数日たった。風は冷たいが、陽ざしが暖かいそんな日だった。

たまには屋上で昼ごはんを食べようと莉音を誘った。莉音は喜んで俺についてきた。

俺は菖蒲と別れたことを莉音に報告する。
莉音は、びっくりした顔をした。

「何で別れたの?」

「……好きな人できたから……」

「……え?誰……?」

心配そうな顔で莉音は俺の返事を待つ。

「……莉音……」

莉音は返事をきくと俺をすぐに抱きしめた。

俺は、誰かに見られてないか焦ってすぐに離れようとしたが、全くびくともしない。

「嬉しい……斗愛……。俺……我慢してたのに。そんな言葉聞くともう押さえきかなくなる……」

「俺……男好きになったの初めてだから、どうしたらいいかわかんないけど……。俺も好きだから抑えなくていいよ……」

2人しかいない屋上で、心通わせたキスをした。
莉音は好きな人には男を出す。俺しか知らない莉音。

俺は莉音のキスに一生懸命ついていく。
莉音にキスされている時に垣間見る俺を見下ろす冷たい目にまたゾクゾクした……。

あの目で見られると何でもいうことを聞いてしまいそうになる……。

俺は縛られる……。

ちょうどチャイムが鳴り莉音は、残念そうに俺を解放してくれた。
そんな莉音がまた可愛いと思った。

***
街はクリスマス一色になっていた。イルミネーションが街のいたるところにきらめき、人工的な色で街は色づいている。

学生の俺達は期末テストというイベントが、クリスマスよりも先にあった。

俺と莉音はテストの成績で勝負した。
勝った方がクリスマスに一緒に過ごすプランを決めるというものだった。

もともと莉音の方が成績は良かった。俺はハンディをもらって勝負にのぞんだ。

結果は、莉音は学年1位をとり俺は惨敗だった。俺もそんなに点数は悪くない学年20位以内だったが、莉音はケタ違いだった。

莉音は性格もいい、顔いいも頭もいい運動もできる。莉音ほどいい男を俺は知らない。

ーー莉音は魅力的で、性別関係なく惚れない方がおかしいんじゃないか……

俺は男でも莉音を好きになって当たり前だと思った。

前は、あんなに自分の正直な気持ちを打ち消し、あらがっていたことを思い出し可笑しくなった。

俺は鼻で笑った。
そんな俺を莉音は見ていた。

「何で笑ったの?」

「いや……莉音に敵うはずなかったと思って……」

「今回、斗愛と勝負してたから、一生懸命俺も勉強したから……。何しようかすごく楽しみで、勉強にも力はいっちゃった。」

莉音は、なんだか恥ずかしそうに告げた。
その莉音の顔を見た俺は莉音を愛しく思えて頭を撫でた。莉音は、頬を赤くしていた。

最近、莉音の羞恥している顔を見るともっと人前で虐めてしまいたくなる衝動にかられる……。

机に肘をつき、莉音を見ながら笑みをこぼし話す。

「莉音の勝ちだから、莉音がクリスマス考えるんでしょ?何でもいいよ。楽しみにしてる……」

「何でもいいんだよね?」

「もちろん。俺は負けたわけだし、莉音のいいなりで……」

莉音はすでになにか妄想しているのか、また顔を赤くしている。莉音の耳もとで小さい声で話す。

「莉音……何想像してんの?顔赤いけど……エッチ……」

珍しく莉音は、俺に指摘されて羞恥に耐えきれず机に伏せた。

ーー莉音……本当にエッチなこと考えてたんだろうな……。どんな……?えっ……エッチ……?

俺も莉音が妄想していたことを想像すると俺も、好奇心と羞恥とがいりまじり俺も机に伏せた。

その後2人とも顔を見合わせて笑った。

俺達は付き合ってだとかそういう約束めいたものはしていない。でもお互い気持ちは分かり合い、通じ合っていた。それでいいと思っていた。

クリスマスを一緒に過ごすこともなんとなくお互い決めていたことだった。

俺は、学校以外で莉音と過ごすことが始めてで、楽しみだった。そして、莉音のクリスマスプレゼントを何にしようか悩むことが楽しくてしょうがなかった。

冬休みにはいり、いよいよクリスマスになった。
莉音と俺は駅のコンコースで待ち合わせをしていた。

街は沢山のカップルで溢れている。俺達もその中の一組だと思うとなんだか嬉しくなった。

今日は街も一段と騒がしく色んな音が溢れていた。
ちょっとおしゃれをしてきたつもりだったが、前から歩いてくる金色の髪のおしゃれなイケメンはまっすぐに俺の前まできて笑顔になる。

「待たせてごめんね。斗愛……おしゃれしてきてくれたの?カッコいいよ。ありがとう……」

「勝手に俺が少し早かっただけだから、莉音は遅れてないだろ。これからどこ行くの?」

「ふふ。とりあえず今から電車乗ります。だから集合場所駅にしました〜」

莉音はにこにこしながら、俺に電車に乗るように言う。座席に座り景色を見ながら話す。

「今から水族館に行きます。有名な建築家さんがデザインしてオープンしたんだって。知らない?斗愛は魚よりも建築の方が興味あると思って」

俺はそれを聞いて目を丸くした。

最近オープンしたばかりの水族館は、有名な建築家が作ったおしゃれなデザインで、生き物の見せ方がまた斬新らしい。

新しいタイプの水族館として最近有名になっていた。俺が建築好きなのを覚えていてこの場所を選んだんだろう。

ーー俺が喜ぶことだけを考えたんだろうな……

俺は莉音の想いが嬉しくなり、横に座っている莉音にもたれかかり、耳もとで周りに聴こえないように小さい声で言った。

「ありがとう。すごく嬉しい。莉音……俺はお前と過ごせれば、ただ座っているこの時間だけでも嬉しいし楽しいんだよ」

莉音は恥ずかしそうに笑い、俺の頬にキスをした。

俺も莉音も誰にもバレてないかそわそわしながらも、相手に少しでも触れていたいそんな気持ちだった。

水族館についてすぐに目を奪われた。

水族館の玄関はwoodを使った骨組みが素晴らしい建築物だった。水族館の中もwoodと緑がふんだんに使われており、照明が工夫され、ガラスばりの水槽が映える構造になっていた。
俺は莉音に興奮しながらまた建築について話しだす。

莉音は、俺の喜んでいる顔をみて終始笑顔だった。

水族館を出ると水族館の敷地内にイルミネーションがデザインされていた。ペンギンが中に放されており、俺達は、ペンギンと一緒に写真をとってもらった。

また一枚莉音と2人だけの思い出ができて嬉しかった。この時の俺達は、周りの目とかそういうのはどうでもよかった。

水族館の後はまた電車に乗った。帰る前にまた寄る所があるらしい。俺の地元の駅についた。

「ん?ここで降りるの?俺の家の駅なんだけど……?」

「知ってる……」

莉音は、俺の顔を見て声を出して笑う。

「え?俺の家?」

「ふふふ。違う……まだ秘密」

俺は意味がわからず、思い当たる事もなく、莉音に何度も聞くが教えてくれなかった。

段々山に登っていく。莉音はここの土地勘があるのか?と不思議な気持ちで莉音についていった。

到着したのは、俺が昔からよく遊んでいたあの丘のブランコがある俺のお気に入りの場所だった。

「え?ここ?莉音なんでこの場所知ってるの?」

莉音は、熱い眼差しで俺を見つめて話しだす。

「俺の思い出の場所だから斗愛を連れてきたかったから……」

「え?」

「俺昔ここで泣いてたら、知らない男の子がきて、大丈夫だよ。かわいいよ。って言ってくれて。数日だけだったけど遊んだんだ。別れまぎわに、ずっと僕のこと好きだよ。って約束してくれたの……」

俺はびっくりした。莉音の話しの内容は、俺には光景も話しの内容も覚えがあったから。

だって俺の初恋……あれは女の子だったし……でも、この場所は誰にも言ってない。本人しか知らないはず……。

「え?もしかして莉音だったの?あの子?」

「……そうだよ。姉達が俺を女の子みたいだって服とか着せて遊んでて、友達に気持ち悪いってイジメられた後だった。親戚の家にきてたから、数日しかこの街にはいなかったんだ。
斗愛からあの時の話しを聞いた時はすごく嬉しかった。俺ももちろん覚えてたから。
あの話聞いた時は、あの時の女の子は俺だって告白するつもりはなかったけど、今両思いになって、どうしてもあの時の子は僕だっていいたくなったんだ。
昔の俺のこと気にしている斗愛が嫌だった。俺が昔の俺に嫉妬してまって……。斗愛に昔の俺よりも今の俺の方がいいって思ってほしかったから」

俺はびっくりしたが、何となく莉音の話しを聞いて腑におちた。

「莉音だったんだ……。そしてまた莉音好きになったんだ俺……どれだけ莉音のこと好きなんだろう。
俺は莉音の姿が好きなんじゃなくて中身が好きなのか……どんな莉音でも好きってことがわかってよかった」

俺は心から笑った。

「斗愛……」

俺はあの時の場所で莉音を抱きしめキスをした。

もう出会えないと思っていた女の子は莉音で、また奇跡的に出会えた。そして奇跡的に心も通じた。

今日でまたここの思い出が塗り替えられた。


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