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魅了する男と世界で一番幸せな男【第3章】

あの丘で久しぶりにすごした後、街に戻ってきた。
もう空には星が煌き始めていた。

俺達は街のイルミネーションをみて回った。日が落ちて暗い夜の街の色とりどりの光は、昼間とは違う美しさがある。街全体が輝いていた。

ケーキや食べ物を買って、莉音の家で今からクリスマスパーティーをすることになった。

あの丘の帰りに、今日は莉音の家に泊まってクリスマスのぎりぎりまで2人でいたいと言われ、自宅に寄り泊まる準備もしてきていた。

莉音は一人暮らしだった。俺は莉音のことをほとんど知らなかった。1人暮らしと聞いて、鼓動が早くなった。本当に2人きりで俺は緊張していた。

莉音の部屋は綺麗で、俺と莉音の2人分の食べ物がテーブルに並んだ。シャンパンで乾杯し俺達は2人のパーティーを楽しんだ。

クリスマスプレゼントを莉音に渡すことにした。
「莉音……メリクリ……プレゼント……」

俺は莉音に綺麗に赤でラッピングされ金色のリボンがしてある箱を差し出した。

莉音は嬉しそうに笑いお礼を言ってプレゼントを開けた。

俺が選んだプレゼントの中身は、ラピスラビスのピアスだった。

「綺麗……でもピアスの穴空いてないから、開けよっかな……」

俺は莉音にバッグから取り出したものをみせた。
「俺もあける。片方ずつ開けよう。もってきたから」

俺はピアッサーを2つ準備していた。お互いひとつづつあけてピアスを片方ずつしようと思っていた。

莉音は嬉しそうに何度もうなづいた。

俺達はお互いに片方ずつピアス穴を開けあった。
お互いの誕生石のラピスラビスのピアスを俺は準備していた。

「莉音似合う……」

「斗愛も似合う……」

蒼色の石がお互いの耳で光る。
お揃いで2人ともなんだか恥ずかしくなった。
すると、今度は莉音がプレゼントを出してきた。

莉音のプレゼントは、シンプルなチェーンネックレスだった。

制服の中にもいつもつけていられるようにと、お揃いだった。俺達はネックレスをつけあった。

またなんだか恥ずかしい気持ちになり俺達はネックレスのこともピアスのことも言わなくなった。

ただ、お互いを見て言わずとも目に入ってくるアクセサリーたちは、お互いを想って選んだことが伝わり恥ずかしさも暖かさも感じ、眩しいものだった。

真夜中もすぎ、俺達は風呂に入りベッドに横になる。

俺は布団でいいと言ったのに、莉音が自分が布団でいいといいだし、話しあいの結果、結局修学旅行の時みたいに一緒に寝ることになった。
莉音のベッドはセミダブルで修学旅行の時より少し広かった。

一瞬俺はドキドキしていたが、莉音は普通におやすみといい電気を消して横になっていた。

俺はドキドキしていたが、暗闇で静まり返った空間を味わい少しだけ安堵した。

ーー寝た?動いてない。大丈夫だ。

自分に言い聞かせて寝ようとした。

しかし、眠ようとするが、同じ布団に入っている莉音のことが気になって眠れない。

ーー莉音はもう眠ったのか?寝息が聞こえる。

莉音にバレないようにゆっくり莉音の側までいき莉音の顔を眺めていた。

白い肌、金色の髪、耳のピアスは白い肌によく似合う。お揃いのネックレスを見て莉音が可愛くてしょうがなくなった。

莉音に触りたくて触りたくて、莉音に気づかれないように頬に軽くキスをする……。

キスをするとまた欲がでてもっともっと触りたくなる。

俺はぐっと我慢し、また莉音が起きないようにゆっくり莉音と離れて目を閉じる。
今日は歩き疲れたのもあり、莉音の匂いにつつまれ、そのまま眠ってしまった。

朝目が覚めると莉音が横にいて、お互い微笑む。温かい気持ちになる。
最高のクリスマスになった。

***

冬休みのあの日から莉音はまた祖母のいる海外に帰った。休みの間は会えなかった。

そうして、冬休みが明けた。
あと3ヶ月で受験生になる。俺は建築士の夢があるから、大学も受けるように考えていた。

久しぶりに莉音に会うので緊張していた。
あのネックレスも見えないように毎日している。今日も制服の下にしていた。ピアスは、肌色テープで隠して、俺は莉音が来るのを席で待った。

いつもの変わらない柔らかい雰囲気の莉音が教室に入ってきた。莉音は、相変わらずキラキラしていた。

俺は莉音を見るなり微笑みかけた。

「おはよう莉音。久しぶり……」
「おはよう斗愛。帰ってきたよ」

お互い元気そうで安心した。あの日からあってなかったからどんな顔をしていいか悩んだが、学校というこの場所では、距離をおいていたので、都合が良かった。

俺達のことを知られないように……。

久しぶりにあったはずなのに、嬉しくてしょうがなかったはずなのに、突然俺は莉音との今の関係が急に不安になった。

付き合っているわけじゃない。でも俺はこんなに好きで……。

両思いだけど保証なんかないし……

俺はなんだか莉音を自分のものにしたくなった。
独占欲が芽生え始めた。

莉音に下校時に聞いた。

「俺達の関係って何だ?カップルとかいろいろあるじゃん?何だろな?」
「……好きな人かな?」

やっぱり俺の聞きたい言葉じゃなかった。ちょっと俺は落ち込んだ。

「斗愛どうした?」
「なんでもないよ」

それから、なぜか2人の間に始めて気まずい雰囲気が流れていた。

莉音は俺の顔を何度も見て心配していた。
俺は悲しくなり、名前がつかない関係に卑屈になっていた。

思ったことを素直に言い過ぎると、嫌われてしまいそうで、考えれば考えるほど、だんだん何も言えなくなっていく……。

相手の言葉を聞かなければ何もわからないのに……

自分だけが好きすぎると恋の天秤は傾きすぎてうまくいかない。そうなると、今までうまくいっていたことまでもうまくいかなくなる……

そんな時に事件は起こった。


俺は、スマホを落とした。

スマホを拾った奴らが、俺のスマホを拾って騒ぎたてた。俺は、修学旅行の後ろから莉音を抱きしめてる写真を壁紙にしていた。
それを見られた。

俺のクラスの認識事項がまたぶりかえした。見た奴らが、俺と莉音にひどい言葉を投げかけた。

「お前ら男好きだったんだな。キモい」
「最後までやったの?どんな感じ?」
「菖蒲とお前付き合ってたくせに、お前どっちもいけるのか?」

心ない言葉は、俺にも莉音にも深くささった。
俺のせいだった。
莉音と俺は今もやもやしている、そんな中起こってしまった。

俺は否定することも何もできなかった。

莉音が口を開いた。

「俺達付き合ってないし。別にただ後から抱きしめてるだけで、なんでBL になるわけ?意味わかんない。だいたい海外とかでは、別にBL でこんな差別みたいなこと言われないし。」

普段怒らない莉音が怒ると迫力がありみんなびっくりして、教室が一瞬静まりかえった。
俺も何もいえなかった。ただ、悲しい顔で莉音を見つめていた。

莉音はそのまま帰っていった。
みんな莉音があまりにも怒ったから、俺に謝ってきた。

「なんかごめんね。確かに女とつきあってたし、男好きじゃないよね?ごめんね」

「ただ抱きしめてる写真なんてふざけてとったりするわ。確かに」

「たとえBLだとしても、別にいいよね。この時代自由なんだから。ちょっと好奇心でた。ごめんね」

代わる代わる誤りにきた。俺は莉音に助けられた。

だが、莉音は俺のためにBL を否定していた。
莉音も俺も男が好きだ。みんなに嘘を通した。

何もできなかった自分に腹が立った。
次の日に莉音に謝って仲直りしようと思っていた。
莉音は次の日から学校に来なくなった。

連絡も取れない。

1週間たち、担任から莉音は転校したと聞かされた。

俺は愕然とした。
涙もでないくらい悲しくて落ち込んだ。

俺の首には莉音からもらったネックレスが制服の下で隠れて光っていた。

***
莉音は俺を守って転校したんだと思う。
莉音は何も言わずに姿を消した。あいつの家にも行ってみたが、引っ越して誰もいなかった。

俺は莉音を心の奥にしまいこみ生きることにした。
高校3年生になり、建築士になるため工学部を受験し大学に入学した。

大学では、高校とは比べものにならないくらい沢山の人がいたが、莉音をいつもどこかで探している自分がいた。

女からも沢山声をかけられたが、付き合うことも煩わしく本気になれなかった。

だからといって男と付き合うことも考えられなかった。
莉音だったから男でも好きになったと気がついた。

時々俺は、今莉音はどこにいて、どうしているのかを考えた。俺のことなんか忘れて、もう彼氏を見つけて幸せにしているんだろうな。
毎回考える度に胸が苦しくなり莉音に会いたくなった。

結局、俺は莉音を忘れることができなかった。あの時のピアスも、あのネックレスもはずすことができなかった。

***

大学卒業し就職した。夢である建築士に合格できた。
まだまだ未熟だが、毎日一生懸命仕事をしていた。

ある日付き合いで飲み会に行った後、先輩に連れていかれ、3軒めでゲイバーに連れて行かれた。
だいぶん酔っていたから、バーのマスターがカウンターで俺の相手をしてくれていた。

俺は熱くなりネクタイを外し、上のボタンをはずす。
首もとのネックレスが見えたが、酔っているからそんなのどうでもよかった。机にふせている俺にマスターが言った。

「水少しのんどくといいよ。……?あんたの首のネックレスずいぶん年季がはいってるわね。」

「好きな人から……大切な人から高校生の時に貰いました。もう会えないんですけど……どこにいるんだろ……。会いたいな……莉音……」

水をもらい、ここ数年間のだれにも聞いてもらえなかった想いをもらした。酔ってるからなのか、もう会えないとあきらめているからなのか、あまり知らないマスターについ話してしまった。

マスターは、話しを聞いていたが、しばらく考えた後、どこかに連絡をし、眠っている俺の背中をさすり耳もとで囁いた。

「一途に思ってるといい事あるわよ」

俺は眠くなり店のカウンターで机にうつ伏せになり眠ってしまっていた。

どれくらい眠っていたんだろう……。俺を優しくゆする人がいた。

「斗愛……起きて。斗愛大丈夫?」

大好きな莉音の声に聞こえた。何年も聞いてないのにだいぶん酔ってしまったと思いながら目を覚ました。

俺を起こしていたのは、大人になった莉音だった。
金色の髪、白い肌、大人になった莉音は柔らかい雰囲気が少しとれ男らしくなっていた。
首には少し古びたあのネックレスが光っていた。

俺はびっくりして、莉音を見つめた。

「莉音……?莉音?何で莉音がいる?」

「久しぶり。斗愛。男前になったね。マスターが教えてくれたの。あんたが言ってた好きな人が今ここにいるかもしれないって。
前、俺がしてるネックレスを見せたことがあって、いろいろ話したの。斗愛のネックレスとピアスをみてもしかして……て思ってマスターが電話してくれたんだ」

俺は涙が溢れた。

「莉音……会いたかった……ごめんね。あの時俺がいけなかったのに……俺は守ってやることもできなかった。俺だけ守ってもらって、莉音がいなくなって後悔した。
もう遠慮とか、そういうのなしで、俺は自分に正直に生きようって……。だから莉音にまた会いたくて、莉音とずっと一緒に生きて行きたい。もう莉音以外じゃ駄目なんだ。莉音と離れてわかった。
莉音と一緒に居たいよ……」

莉音は、涙をこらえながら斗愛の話しを聞いていた。

「斗愛……俺も会えなくなって辛かった。俺も斗愛以上に好きになれる人がいなくて……。
あの時は斗愛を守りたかったし、斗愛は女子も愛せるのに俺が縛りつけてもいいのか悩んだ。だから関係を聞かれても、斗愛の本当の気持ちきくのが怖くなったりして、結局好きなのにあやふやにして逃げたんだ。  
でも、俺ももう斗愛がいないと生きていけない……」

斗愛と莉音は客がいなくなったバーのカウンターで抱きしめあって泣いた。

マスターは微笑んでいたが、聞こえないふりをしてくれていた……。

***

俺と莉音は一緒に暮らすことにした。

莉音という1人の人と出会い俺の人生は変わった。

この出会いがなければ俺は男の人を恋愛対象にみなかったと思う。だからといって、この出会いがなければよかったとは全く思わないし、出会いがあって逆によかったと思っている。

こんなに愛せる人との出会いに感謝しているから…

いくつもの奇跡が出会いをつくった。
でもその出会いも運命だったと今では思う。

何年も使い続けたネックレスもピアスも2人を繋ぎ止めてくれた大切な鎖となった。

この世界で1番の幸せが何かと問われるならば、
俺は間違いなく愛し愛されることだと答えるだろう。

この世界で1番の幸せを俺は味わっている。

人を愛する気持ちは異性じゃないと駄目なのか?
人を愛するのに制限があるのか?

俺と莉音はこれからもお互いを求め愛し合う……。
俺のたった1人の恋人。

今日も目が覚めればすぐ横に愛しい人の顔があり、
幸せをかみしめる……。

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