見出し画像

ユーミンの3枚

つい1週間前、ユーミンの名盤『時のないホテル』をアルバム1枚まるごとカバーして発表したバンドを観て、大変感動した。
しかもそのバンドは4人編成でシンセも無い。
音を究極まで絞り、アレンジも大変だったろう。
その影響かこの1週間ユーミンばかり聴いている。
このブログは19年前に書いたものだが、今でも考えはそんなに変わっていない。もちろん、ユーミンは未だに現役だし、最近のアルバムでもこれは!と思わせるものもあるが、3枚に絞ると私はこれになる。
2024年3月


★『ミスリム』(1974) 荒井由実

 荒井由実のデビューアルバムは『ひこうき雲』である。もともと加橋かつみのスタジオミュージシャンとして音楽業界に入ったユーミンは、その洗練された作曲センスをキティレコードに認められ、レコードデビューする。バックミュージシャンはキャラメルママ(細野和臣、林立夫、鈴木茂、松任谷正隆)。デビュー作らしく初々しいヴォーカルと緊張感が漂っている。その緊張感を持続させつつ、少しだけの余裕とユーミンとしてブレークする寸前の勢いがセカンドアルバムの『ミスリム』から感じ取ることができる。バッキングはデビュー作と同様にキャラメルママ。そしてコーラスアレンジには山下達郎が参加している。
 そしてサードアルバム『コバルトアワー』は、荒井由実の最大ヒットである「あの日に帰りたい」の4ヶ月前に発表され、それと共に大ヒットアルバムになった。四畳半フォークと呼ばれた時代からニューミュージックへの転機にもなる歴史的なアルバムともいえる。その意味で『ミスリム』は誰にも翻弄されていない、荒井由実の等身大のアルバムではないだろうか。1曲目の「生まれた街」のセンスの良いアレンジはキャラメルママの真骨頂であるし、「瞳を閉じて」や「やさしさに包まれたなら」のメロディーラインなど丁寧に作られたアルバムである。

★『時のないホテル』(1980) 松任谷由実

 結婚し、あっさり荒井姓を松任谷姓に変え、松任谷由実として2~3作を発表した頃のこと。聞き手は変化を求める上で「荒井の方が良かった。いや、松任谷になって洗練された。」などと比較を始める。しかし、名前を変えただけで音楽性なんて簡単に変わるものではない。
 18歳で音楽業界に入り、大学卒業間もなくファーストアルバムから親交の深かった松任谷正隆と結婚。かなり狭い世界の中で一般的な男女間の作品を創作している、といえる。もちろん独自の調査や優秀なブレーンがいるのだろうが、音楽性・世界観と言う意味でデビューからこの『時のないホテル』までが僕の中では「荒井由実作品」だと思っている。    
 なぜならこの頃までの作風が「少女の一途な気持ち」や「彼を振り向かせるためにちょっとだけヤキモチを妬かせる」など少女から女に変わるティーンエイジャーから大学生あたりがモチーフとなり、それが聞き手のターゲットになっているからだ。そしてこのアルバムは、そんな世代の一つ上を狙った物語性を前面に打ち出し、ハードボイルドと死生観で時空の流れを表現し昇華した形と捉えられないか。
 この後の『SURF & SNOW』『水の中のASIAへ』『昨晩お会いしましょう』『パールピアス』とは明らかに異なり、その後の詩の世界はどちらかと言うと現実味のあるOLの気持ち等の内容が増えていく。つまり、聴くターゲットの変化を感じ取りユーミン特有の「男を手玉に取る(?)」くらいの強い女性像を歌う作風に変化していった。そして最終的にユーミンはメガセールスの女王として君臨していく。
 そういう意味で『時のないホテル』は荒井由実の完成形として認識できるのではないだろうか。作風も内省的な曲が多く、賛否両論あるが、ひとつひとつの曲の水準は非常に高く、いまだにコンサートで取り上げられている曲も多い。「よそゆき顔で」「5cmの向こう岸」「水の影」の詞は秀逸である。

★『昨晩お会いしましょう』(1981) 松任谷由実

 1981年発表のこの作品は、2000年までの約20年間を突っ走る魁となった作品で、完成度が高い。
何故2000年かというと、2000年以降はドリカムや若手アーティストへの世代交代が騒がれ、ユーミンの作風が定まらない様に感じるからだ。そして、プロデューサーを松任谷正隆から外人へ変更し、一層混迷し、セールスが激減したことも大きいのでは。…セールスの伸びないユーミンはありえないことなのだ。
 話を戻すと、リゾートミュージックの『SURF & SNOW』、アジアの原点回帰である『水の中のASIAへ』を経て、たどり着いた『昨晩お会いしましょう』は、それ以降のフォーマットとなる作りとなっている。
 1流のミュージシャンとスタジオ、環境面においても最高の状態の中でユーミンワールドが構築された作品。そしてニューミュージックというカテゴリーからユーミンというジャンルを作り上げた作品である。
 この『昨晩お会いしましょう』以降の作品にはそれぞれのテーマがあり(OLのつぶやき、輪廻転生、任侠恋愛、リゾートミュージック、愛の戦争、宇宙観など)、その時代時代の男女間の定番を作り上げてきた。それは荒井由実時代には無かったことである。
そして1997年の『Cowgirl Dreamin'』まで17年間17枚連続でアルバムチャート1位を記録する。
 『昨晩お会いしましょう』は松任谷姓になってから全然シングルヒットが記録できなかった汚名を返上した「守ってあげたい」も収録されている。シティポップからブラコン、さまざまなポップスが彩る。
「カンナ8号線」「夕闇をひとり」「A HAPPY NEW YEAR」など秀作が並ぶ。

2005年6月16日
花形

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?