川に落ちた時、兄は水しぶきをあげ、全身に水をかぶった。流れの勢いに驚いたが、しっかりと踏みとどまった。流に少し押されたが流されなかったことが以外であった。衣服が水をあちこちに大量に含んで、水の重さを感じながら踊り場に上がった。 川の中から弟が流れにぐいぐい押し流されて行くのが見えたが、踊り場に上がると死角になっていて弟はもう見えなくなっていた。どれだけ弟は離れてしまっているのだろう。不安な気持ちで急ぎ走り出すと兄はまもなく弟に追いつくことができた。走れば弟を追い越すが、歩けば
無駄にしたながい時間、一生分の焦燥と苛立ち。 努力のないゆめと薔薇色のデッサンだけは続けたのに。 よわい心が敏感なあたまをズタズタにした。 いまだに醜い欲望だけがよわい心を虐げる。 たたかわず不戦敗だけが積みかさなる。 理由ばかりを考え逃げまわった。 戦火の中のこどものように。 かつて永遠のこどもであった。 成長とともに永遠の青年になった。 自分が知るのはそこまで、そこで止まったまま。 青くさい心のまま、大人の分別さえない。 成長を止めてから鏡はみてない。 自分を映し出
兄と弟は仲が良かった。 毎日遊んだ。ケンカも毎日した。 家では二人だけでいることが多かった。 トランプやカードあらゆるものでケンカになった。 おとうとはいつも兄のそばにいた。 外に出るとき2人は手を繋いだ。 おとうとはまだ2つだった。 夏の日ふたりは麦わらをかぶり外に出た。 兄は水の流れを見るのが好きだった。 澄んだ水が流れるのを見ると孤独が癒された。 兄は水遊びをしようと思い用水路へ向かった。 用水路には農具などを洗う踊り場があった。 そこは本流の水が少しだけ入るように
夏の日吉祥寺でその女にあった。 陽気な女であった。 よくしゃべる女であった お酒をたくさん飲む女であった。 色っぽい女であった。 社交的性のある女であった。 僕らは文学の話で盛り上がった。 詩が好きな女であった。 彼女は僕のことばに大笑いした。 『中原中也⁈ なかはらなかや!よ。何も知らないのね!』 彼女は中原中也が好きな女であった。 僕の戸惑いに女はもう一度なかはらなかや!!と言いい、無学な僕をもう一度笑った。 僕は彼女の天真な勢いを畏れた。 僕の知っていた中也は僕の知ら