おとうと(前編)

兄と弟は仲が良かった。
毎日遊んだ。ケンカも毎日した。
家では二人だけでいることが多かった。
トランプやカードあらゆるものでケンカになった。
おとうとはいつも兄のそばにいた。
外に出るとき2人は手を繋いだ。
おとうとはまだ2つだった。

夏の日ふたりは麦わらをかぶり外に出た。
兄は水の流れを見るのが好きだった。
澄んだ水が流れるのを見ると孤独が癒された。

兄は水遊びをしようと思い用水路へ向かった。
用水路には農具などを洗う踊り場があった。
そこは本流の水が少しだけ入るようにかなり浅くなっており、一区画分奔流の外へ作られていた。
そこでは水の流れは止まっていた。
兄は冷たい流れにはやく触れたいと思った。
弟の手を引きスロープになっている踊り場に降りた。


水は豊かで流れも強かった。
脇目も振らず前へ前へ勢いよく流れている。
兄は踊り場で膝付近まで水に浸かった。
近くにある小石やかわらけを拾った。
手を伸ばしそれを水の流れに乗せた。
遠くまで流そうとしたが小石はすぐに沈んだ。
かわらけは倍以上もの間水面に顔を出して流れた。

兄をみていた弟もそれを真似た。

兄は弟の動作に幼なさを感じていた。
弟の小石は全く流れずにすぐ川底に落ちていった。
弟は何も言わずにひたすらそれを繰り返していた。

最初はしっかり兄の手を握っていた。
弟はだんだん熱が入りこの遊びに夢中になった。
慣れてきた弟は兄の手をいつのまにか離していた。
用心深く石を離していた弟は次第に川の流れに手をかざして流すようになっていた。

突然弟は流された。今まで水に触れるとすぐに小石をはなしていたが、そのタイミングが遅れてまともに奔流の勢いを手のひらと二の腕にうけたらしい。
弟は(あっ!)とかすかな声をあげ川にさらわれた。
弟はバランスを失い刹那に兄のシャツをつかんだ。
兄弟は一緒に川に落ちた。その瞬間兄はバケツで水を頭からかけられたように目が覚めた。

まもなく2歳の誕生日をむかえる弟は川底につくこともなく川面に浮かんだまま勢いよく流された。弟が流れていく様を映画の別れのシーンのように兄は見送った。兄は胸辺りまで流れに浸かりながらも、踊り場にすぐ上がることができた。

川からあがると今まで弟とケンカをしたことが思い出された。今朝もケンカをした。さっきも弟に川へ引き摺り込まれた。少しムッとした。弟が居なくなればケンカもなくなると思うとスッキリした気持ちにもなった。すると今度は一緒に弟と遊べなくなる寂しさを想像した。
兄は弟の姿を追い川沿いの道を駆け出した。




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