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オレがバカだった。〜防げた投資詐欺

2018年
僕にとっては大きな大きな年だった。
結婚して家を出て、父親になる。
好きな人と結婚できて、その人との子供を授かれるなんて幸せすぎる。
周りから見たらさぞ、幸せそうに写っただろう。
でも、嫁には言えない大きな大きな悩みがあった。

お金だった。


普通に暮らしているだけなのに、大して高い買い物はしていないのに、銀行口座は毎月減っていく。
収入以上の生活をしていることを、嫁には言えなかった。

「お金のことは気にしなくていいよ」

結婚当初、格好つけて言ったセリフである。
僕を信じた嫁は出産を期にお金の事情を知らないまま専業主婦となる。
非常に焦った。
今思えばこの時、一言言えれば怒鳴られるだけで済んだのかもしれない。

ごめん、やっぱりお金厳しいから、仕事やめないで
それか節約して…。

どうしても言えなかった。
言えないまま、住宅公園に家族3人で来ていた。

「今年30なんだから家を買うラストチャンスでしょ?35年ローンならちょうど定年で払い終わるじゃん」

そして、ついにお金の事を話せないまま

土地からマイホームを購入してしまう。


アパートの家賃が家のローンに変わるだけ?
とんでもない。
家が変わればそれにあった家具家電が必要になる。
光熱費もあがる。
税金の支払いも増える。
ついに泣きなしの貯金から崩して生活するしかなかった。
そこで考えた。

副業しかない、と。

働いてくれとも言わず、節約してくれとも言う必要はない。
これしかない、と調べてもどれも上手い話はなかった。
なんの資格も知識もないやつがそう簡単に稼げるわけがなかった。

そんな中、全ての始まりであるLINEが届く。
忘れもしない、2020年 春。

資産形成に興味ない?

送り主は会社の先輩であるTさんだった。
Tさんは優しい人でプライベートでも付き合いのある信頼できる人だった。

資産形成?投資?興味があるかないかと問われればない。
でもTさん、はっきりないとも言えず

【投資に回せる余裕がないんですよね】

とネガティブに返事をすると、

【いや0円から始められる資産形成があるんだよ】

何?それってリスクゼロってことじゃないか?
でも、それなりにリターンも微々たるものなんだろうな…
しかしTさんは信じられないLINEを続けた。

【2、3年後にはフェラーリカエルヨ】


なんだとー!

リスクゼロで2、3年後には2、3000万円貯まると言っている。

普通に考えてあり得るだろうか。そんな馬鹿な話あり得ない。でもそれを上回る感情があった。

先輩Tさんが騙すはずがない。

【話聞かせてもらってもいいですか!】

【信用を利用するんだよ】

信用?意味が分からない。

【お世話になってる社長の配信だよ】

どこの誰かもわからないインスタのストーリーのスクリーンショットが送られて来た。
そこにはにわかに信じがたいことが書かれていた。

〜年収300万円の人が10年で一億円貯金できる〜

と。

年収300万円なら10年で稼げる金額の3倍以上貯金できるだと!?

【ぜひ詳しく聞きたいです】

【じゃあ社長の連絡先教えるからそこで話してみて!】

社長の名前は、Мさん。
LINEのアイコンは恐らく本人だろう、どこかの宮殿のような建物をバックに紫のスーツを着てサングラスをしている写真だった。

さっそくやりとりし、Мさんは電話で説明したいとのことで都合を合わせМさんに電話をした。

「はじめまして、Мです」

「はじめまして!Tさんから紹介されたそよたろうです」

「どこまで聞いてます?」

「信用を利用するって聞きました」

「それしか聞いてないんですね、了解です」

Мさんは10年で1億円貯まるからくりを説明しだした。

「僕が紹介する会社にお金を預けると毎月配当が4%もらえるんです。100万なら4万、1000万なら40万。そのお金を皆さん借りて投資してるんです。多分そよたろうさんの場合、恐らく銀行から1000万〜1500万は借りれるはず。それを全額預けてもらいます。もし1000万だとしたら毎月40万配当がもらえます。でも借りてるから返済がありますよね?月々の返済は大体20万円程度です。つまり毎月40万円もらって20万円の返済なら20万円が毎月利益になる。数年後、返済が終わってしまえば…わかりますよね?」

話を聞いて思った。

なるほどー!

と。その手があったかと!
給料+20万円だと〜!
もうお金に困ることなんてないじゃないか!
これはもうやるしかない!

さっそく嫁に報告だ!
きっと喜んでくれる!

「そんな上手い話あるわけないでしょ!詐欺だよ詐欺」

ちなみに嫁も僕と同じくお金の知識はない。

「だからTさんからの紹介だから大丈夫だよ!それに実際Tさんもやってて儲かってるって言ってたし」

「知らないし。もし、そんな変な投資やるなら勝手にやってね。その代わり絶対こっちには迷惑かけないでね!」

話にならない。
迷惑だと?本当は好きな物いくらでも買ってやれるのに!まぁいい、嫁が理解してくれなくても生活が楽になるのは変わらないんだから。
Tさんが騙すわけないだろう。

嫁の忠告も虚しく僕はすっかりウキウキ気分でMさんに連絡し、例の会社のKと言う人物をLINEで紹介された。
ちなみにこの時、自称起業家のМさんのSNSをフォローしたのだがとんでもない人物だった。
射殺されてしまった某総理大臣を始め、超大物有名人とのツーショットがチラホラ、高級車に収まらずヘリコプターでランチに行くという豪遊ぶり。
とんでもない人じゃないか。
こんな人が詐欺なんてするわけない。

さっそくKと電話で話し、2つの行動を指示された。

①指定したメッセージアプリをインストール
②CICの開示

だった。
1つ目は簡単だ。
理由はLINEだと個人情報流出のリスクがある。
履歴が残らないメッセージアプリで今後やり取りをするためだった。

2つ目はなんのこっちゃ、聞いたことがなかった。
調べるとCICとはクレジット情報のこと。
それを開けば今まで借入した履歴、支払いが滞ったことがあるかなど全て見れるものだった。
幸い、今まで車の購入でしか借入したことはなく、支払いができなくなったことはない。それを確認したかったらしい。

そして、そのCICのデータを確認してもらいついにその例の会社のKと地元のホテルのレストランで待ち合わせることになる。

「そよたろうさんですか?」

待ち合わせ時間を少し過ぎた頃、後ろから声をかけてきたのはスーツを着た身長は180はゆうにあろう体格の持ち主で腰が低く、丁寧な印象の好青年だった。

「Kさんですか?」

「いえ、私はAです。Kはすぐに来ます。本日はよろしくお願いします」

すぐにその後ろからキャリーバッグを引きながら中年の小柄な男性がこちらに歩いてきた。
Kは赤が目立つチャラチャラした服装でヒゲを生やし頭は真っ白。営業職とは思えない風貌だった。

「はじめましてそよたろうさん。じゃああっちのレストランで話しましょう」


テーブルを挟んで左側にK、右側にAが座りふたりともパソコンを開く。
Kはとても落ち着いた話し方で常にニヤつきながらフレンドリーに接してきた。

「今日は資産形成のシミュレーションと金融機関に借入の申請をするまでやりましょう。夕方までかかりますが大丈夫ですか?」

Kはさっそく名刺を差し出してきた。

怪しげな真っ赤な名刺にその会社の名前とKのフルネームが書かれていた。社名は

資産形成コンサル会社のF。

ここへきて初めて名前を聞いた。

Aの名刺はまだこのF社に入ったばかりらしく名刺がなかった。
聞けばAは20代前半で入社したばかり。
ついこの間までラグビーをやっていたらしくガタイがいいのも頷ける。
正反対にKはよく見ると小柄で弱々しい体格だった。

「この会社のホームページを調べても特に何をしているかって詳しく載ってないんです。なぜなら誰でもコンサルできるわけじゃないので」

世の中にはそもそも借り入れできない人も多くいる。そういう人には何も力になれないと。

「私達は世の中を変えたいんです」

え?  

「収入に余裕ができて自分の理想の生活ができれば次は世の中のためにお金を使いたくなりませんか?」

たしかに!この会社めっちゃいい会社じゃん!
Kは白紙とマジックを取り出しサラサラと慣れた手つきで説明を始めた。

「そよたろうさんの場合、1300万円くらい借りれると思うんです。そしたらコンサル料として100万円いただきす」

残り1200万→毎月の配当の4%→48万
月々の返済予想→25 万円

大体5.6年で返済が終わる→また借りれる
2400万円預ける→毎月96万円の配当

全て返済に充てればすぐそのまま配当をもらえる!

コンサル料100万だなんてこんなに安く感じた100万円はない。
理想の生活を夢見た。
好きな車に乗って今よりもっと大きな家に住み、子供にも嫁にも好きな物を買ってやれる。
こんな幸せな生活はない。

「配当金なんですけど、毎月月末におもてなし会というパーティーをやってましてそこに参加していただいてお渡しになります。芸能人とかも毎回呼んでます」


え!
一気に雲行きが怪しくなった。
何を隠そう、F社の事務所は東京。
嫁の理解を得られないまま毎月東京に行くなんてハードルが高すぎる。
実際にTさんは何度か参加していてお笑い芸能とのツーショットも見せてもらったことがある。

「それはちょっと厳しいです。毎月東京に行くのは…」

「大丈夫です!そのために我々がいます。おもてなし会が終わったあと地方の来れないお客様に配当金をお渡しに行くので!」

待てよ?ひとつの疑問が生まれた。

「振り込んではもらえないんですか?」

そっちのほうがお互い遥かに楽だと思うんだが…。

「振込はやってないんです」

Kはその理由を教えてくれず話をそらした。
この時、もっと深く聞いていれば…。

F社は毎月おもてなし会を開いて客を無料で招待する。
そこで配当として客に

現金手渡し 


で配当を渡す。
そこに、参加できない客のためにわざわざ地元まで来てくれて配当を

現金手渡し

で届けてくれるらしい。
わざわざ来てもらって申し訳ないがそれしかない。

「これ以上話が進んでしまうと途中で辞めてもコンサル料の100万円はかかってしまいますがどうされますか?」

「やります!」

問答無用である。

ここでAにバトンタッチ。
金融機関にいよいよ借り入れの申請をしていく。
やり方はAが僕名義でwebから申請してくれる。
そのあと僕に確認の電話がくる。
その時に借り入れの理由を

結婚式の資金のためと偽って対応

するように指示された。
そのため、電話で聞かれても大丈夫なように
結婚式はいつ、どこで、いくらかかるのかを決めるように言われた。

嘘をつかなければならなくなった。

嫌だった。
でもこれも、いずれ世の中のためになる、必要悪だ、と自分に言い聞かせた。

そしてその場で次から次へと借り入れの申請をした金融機関から電話がかかってくる。

そしてついに、借り入れすることができる金額が決定した。

10社
合計1300万円

毎月の返済額は27万円

になった。
10社の中にはCMでやっている消費者金融、聞いたことのないネット銀行等あった。

KとМの予想通りの金額だった。
1300万円ということは…
100万円手数料をF社に払い
1200万円F社に運用してもらい
その4%→48万円もの配当金が毎月もらえることになる。
返済額を毎月20万円上回る!
 一気に生活が変わる。

「では、各金融機関からカードが届くと思いますのでそしたらまたお会いしましょう」

1ヶ月後、全てのカードが手元に届く。
季節はすっかり夏になっていた。
13枚のカードを握りしめまた同じホテルのロビーに待ち合わることになった。

今回はKだけだった。
アロハシャツを着て前回以上に派手な格好をしていた。

「では、今日は出金作業になります。そよたろうさんには近くのATMに行っていただき現金を引き出してもらいます」

その合計金額、1300万円である。
緊張が走る。

コンビニのATMだと一度に降ろせる金額に限界がある。何度も何度も操作し、現金を引き出してKに持って行った。

Kはお札を数える機械にセットする。
渡すとき、手は震えていた。

「お気持ち分かりますよ。皆さんそうですから」

別にF社が信じれなくなったわけじゃない。
単純にこんな金額持ったことがなかったからだ。
テレビでしか見ないようなお札数える機械に札束を入れ一万円札がものすごい勢いで舞い綺麗に揃う。

「それでは1300万円、確認できました。この契約書にサインをお願いします」

Kが出した契約書は全て英語だった。

わかったのは、預ける金額の1200万円と言う数字と外人の名前だった。

「英語なんですか?」

「えぇ、投資先が海外の会社ですから」

この時、他に何の説明はなかった。
どこの国のどんな会社なのか、過去の取引はどうなのか。
聞こうともしなかった。
貰えるものが貰えるならいい、と。
英語の契約書なんて、訳すわけない。

「ではまた連絡しますので」

Kからメッセージが来たのは中旬だった。

【以下からお選びください。
今月のおもてなし会
①参加する
②不参加 配当を地元で配当受取
③再来月以降に配当受取】

との内容だった。
もちろん②と返事をする。

【ではまたおもてなし会以降連絡します。連絡が直前になってしまうことと、場所はこちらで指定させていただきますのでご了承ください】

こちらの都合は無視ですか…。
まぁわざわざ届けてくれるなら文句は言えない。

26日が過ぎ、少し焦り始める。
これで貰えなかったら返済ができない。

【お待たせいたしました。明日の15時から21時の間でご都合をつけて某喫茶店にお越しください】

急すぎるー!
これが毎月続くのか…。
でも休みの日だから妻の許可さえもらえば取りに行ける。

「あのさ、この間Tさんに紹介してもらった投資のやつ、今日お金貰える日なんだけど行ってきていい?」

「ええ!?本当に貰えるの?」

「うん、待っててね」

指定された時間と場所に行くと、Aがいた。

「あ、どうも。」

「お久しぶりです。では配当になります」

おお!白い封筒だぁ…
この中に48万円も…。

しかし、封筒に書いてあった金額は予想とは程遠い額だった。

144万円!?

その横に48×3と書いてあった。

「利益が見込めましたので3ヶ月の配当のお渡しとなります。次回は3ヶ月後ですね。またよろしくお願いします」

なーにー!
ということは毎月取りに来なくて済む?
こんなにありがたいことはない!
帰り道はニヤニヤをこらえるのに必死だった。
本当に貰えた…詐欺じゃなかった!
金持ちを増やして世の中を変える…めちゃくちゃいい会社じゃないか!
この金額で嫁を黙らせてやる!

「詐欺じゃなかったろ?」

寝っ転がる嫁の前にバサっと札束を落とした。

「何これ!」

「だから貰えたんだって。まぁこれから手数料は払って行くんだけどね」

借金スタートとは言えず嘘をついてしまった。

「なんで手渡しなの?今の時代おかしくない?」

「うーん、よくわからない」

「は?どういうビジネスでこんなに儲かるの?」

「さぁ、それもよくわからない」

「いきなりこんな金額手渡しで貰えておかしいと思わないの?絶対893絡んでるから!何も知らないで変なこと始めて!」

呆れた…お金を貰っても詐欺だと?貰ってるんだぞ?本当に疑り深い性格で困る…。
まあいい。3ヶ月に1回少し時間を作ればいいだけ。本当にやって良かった!

自分の中でルールを作った。

月の配当の48万円のうち、5万円をお小遣いとして使い、残りの43万円は返済に回す。

初めての返済で驚いたことがあった。
それはとりあえず月の返済は全13社最低限の金額にしたのだが元金がほとんど減っていない。
詳しい計算は分からないが完済まで何十年も掛かりそうだったので追加返済をすることにした。
平均的に返済するのではなくTさんアドバイスの元、金利が高いものを優先して返済を早く終わらせた方が得と言われ、その通りにした。
そして

給料+5万の生活は金銭感覚を確実に狂わせていく。

まず、自分の欲しいものはネットで買うのはもちろん嫁にも欲しいものがあれば買ってあげて子供のおもちゃも買ってあげる。

外食も増える。
美味しいものも食べれるし嫁も食事の準備片付けをしなくて済むから断る理由なんてない。
嫁から今日はあれ食べたいこれ食べたいと言われることも増え、休みの日=外食の生活になっていった。

家族の笑顔が増え、幸せだった。

暇さえあれば本棚の奥に隠してある白い封筒の中身を数えてニヤつく。
お金に困ることは今後の人生ないだなんて…。

季節は流れること3ヶ月、またKから同じ内容のメッセージがくる。
また直前に配当を受け取る場所と時間を指定され、取りに行こうと思った時だった。

「じゃあちょっとお金貰いに行ってくるから」

本当に直前の連絡だったから妻への報告はさらに直前になってしまう。

「ええ〜!?買い物行きたかったんだけど!」

「ごめん!すぐに行ってくるから」

「ダメ!夕方にしてもらって!」

「いや、それはできないんだよ」

「なんで?こっちは客でしょ?言う事聞いてもらってよ!」

今回来ているAにダメ元でメッセージを送ってみた。

【すみません、夕方にしてもらうことはできないでしょうか?】

【もう北海道に向かってしまいます。もしご都合が悪ければまた来月でも大丈夫ですがどうしますか?】

来月じゃだめなんだ、今月末には返済が待っている。

【なんとか予定通り行きます】

怒った妻を強行突破して家を出て待ち合わ場所に向かい、Aから全く同じ封筒を受け取って帰ってきた。

妻には申し訳ないことをした。1万円札でも渡そうかな…

「ただいま」

「なんで現金手渡しなの?」

「だから向こうの都合があるんじゃないかな?」

「絶対おかしいから。もう辞めてほしい」 

えええ…

「それはできないよ、契約があるんだ」

「そんなやばい会社と繋がってる人とは一緒に暮らせない。出て行く」

買い物どころではなく、本当に子供を連れて出て行ってしまった。
少しずつ理解してくれると信じていたのに…。
先輩Tさんにすぐに電話した。

「急に電話すみません、実は…」

「大変だなあ」

「どうも現金手渡しがおかしいと…なんて説明すればいいんでしょうか」

「F社の投資先が海外だから銀行振込にするにはまず海外の銀行口座を作らなきゃいけないんだ。それには50万かかるらしいよ。そらに振込手数料も…。F社が仲介になってくれてそれらを払わなくて済んでるんだよ」

なんとなくわかったような気がする。
あとは妻が納得してくれるかどうか…。

「そんなに配当を取りに行くのを怒るのなら俺がそよたろうの分も受け取ってまた時間あるときに渡す感じでもいいよ」

「本当ですか!でもそれはさすがに悪いですよ…」

「全然問題ないよ」

「じゃあ本当に最悪の場合お願いするかもしれません…」

「いいさぁ、また奥さん理解してくれたらまた一緒におもてなし会行こうよ!」

「はい、またいつか!」

Tさんは本当に優しい人だ。
ここまでしてくれるなんて…。

【迎えこれる?】

数時間後、妻のお母さんからLINEが入った。
実家が歩いていける距離にあるから妻の家出先は全く心配していなかった。
つまり話は妻のお母さんにもう渡っているということ。
お母さんまで理解してくれるか…。

【すみません、すべてお話します】

車ですぐ行ってまずお母さんに謝った。

「すみませんでした」

Tさんから紹介されたことから話そうとすると

「夫婦の話だからうまくやってね」

と、意外にも説明を求めてこなかった。
問題は怒っている妻の方である。
連れ返した帰り道、さっきTさんから聞いた現金手渡しの理由を説明をしたが…

「もうやめて欲しい」

「え…」

「やめないと警察に連絡するよ旦那が変なビジネスしてるって」

「待ってくれよ、別に違法じゃないから」

「じゃあやめてよ!私は嫌なんだから!」

「わかったわかった!もうお金取りに行かないよ…」

理解どころか怒りが増すばかりでとても説明する気にはなれなかった。
いくら月々利益があるからって借金スタート…しかもその額4桁。
さらに火に油を注ぐ。
子どものためにも妻とは仲良くしなければ。

怒りの勢いには勝てず言ってしまった

「もうお金取りに行かない」

もちろんそんなわけにいかない。
月々の返済は当分続く。
隠れてお金を受け取るしかない。
方法は 

①仕事終わりのタイミングで受け取る
②仕事を休んで黙って東京に行く
③Tさんに受け取って預かっててもらう

しかない。
返済が終われば別に焦る必要はない。
ただそれまでは何がなんでも受け取るしかない!

そして、3ヶ月単位の受け取るタイミングはなんと運良く
①の方法で受け取ることに成功した。
ありがたいことに毎回本当に近くまで来てくれるので仕事終わりに受け取ることができ、少し家に着くのが遅れる程度だったので嫁に怪しまれずに済んだ。
あとはちょっと
「髪切り行ってくる〜」
と言ってついでに取りに行けたりもした。
嫁は本当にやめたと思ったか、何も聞かれることなく受け取り続けることができた。
毎月の返済も多少手間だが13社も慣れてしまえば数分で終わるので仕事帰りに毎回行い、帰りが遅いねと変に疑われることもなかった。


だが、3か月ペースでわざわざ来てくれているAとKの割合は半々だったがその中で気付いたことがある。

AとKの人間性の差に。

若く誠実な第一印象のAは、そのままの人物だった。
場所と時間を決めるときも、
「何時から何時までの間ならいますので好きなタイミングで取りに来てください」
と言ってくれて行けば必ず先にいて待ってくれていた。

一方、Aのそれには困った。
「20時15分から20時半の間に、お越しください」
と、前日連絡が来るのである。
しかも、その時間になんとか行っても必ず数分遅れてくる始末で、さらに遅れてすみませんの一言を聞いたことがない。

客なめてんなぁ〜とは、思いつつわざわざ届けてくれる身、何も言えなかった。

そして、F社からアンケートを答えてほしいと言うメールが届いた。
その時に
【このような時期ですのでマスクの着用をお願いしたい】
と、要望をしたことがあった。

そう、時は2020年から2021年。
世間はコロナで騒ぎ誰がどこに行ってもマスクを義務付けられる時代に、

Kのマスク姿を見たことがなかったのだ。

正直、ただでさえ都会の人と会うのは抵抗があるのにいろんな人と会って全国を飛び回る人達である。
家族にでも移しでもしたら…。
直接は言えないのでメールにて会社に言わせてもらったが最後までマスク姿を見ることはなかった。
会社が何も言わないか本人が無視していたのかは不明だが…。

まぁでも、約束通りの金額は貰えていたし

「ありがとうございましたー」

と、さっさと帰ってくれば問題ないだろう。
貰えるものが貰えれば人間性は二の次だ。

そして、F社を信用してしまった僕は

さらに借金をしてしまう。


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