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第10話 忌まわしき真実

明智は神主から詳しい伝承を聞き、ゴツゴツと荒い石段を下りながら
、呪いの面の伝承の話が頭から離れずにいた。

あの神主は言っていた。
まるで生きているかのように視線を感じる事があると。

年の瀬に公開するのは、人も多く、世間では智慧《ちえ》の伝説のある
“般若の面”の神社として知られており、公開しない訳にはいかなかった。

明智は自他共に認められるほどの切れ者だったが、神主の話はあまりにも
突拍子も無かったが、現実と照らし合わせると、彼は納得せざるを得なかった。

この事件は自分が解決し、以前封印したように、今回も事件性を変えてから
報告書を書かないと、自分が精神鑑定を受ける羽目になると思った。

神主の話を思い返す度、彼はゾッとするほど背中が冷たくなった。

あの般若の面は古来より伝えられてきたモノで、
怨念の塊でしか無いものだった。何より神主の《《あの》》忠告の
意味が解らなかった。

❝呪術で怨念を封印した後、絶対に般若の面の目は見ないように❞

戦国時代、大名たちは支配地を広げる為、日夜闘いに明け暮れていた。
国々の豪商たちは、国に大量の資源を援助する一方、裏での動きに関しては、
見て見ぬふりを続けて均衡を保っていた。

この地にも表顔は非常に優しく、大名への寄付金で、目を蔽《おお》いたくなるほどの悪趣味極まりない事を、表には絶対に出ない凶行を、裏の顏でしていた。

豪商たちは金貸しもしていた。金を借りに来ると言う事は、つまりは生活が出来ない為であり、生活ができないと言う事は、金は返ってこないという事になる。

彼らは金貸しの豪商を紹介し、離れた場所にある村々の豪商から金を借りていた。
そして決して、自分の民たちには一切金は貸さなかった。

一度や二度は貸すが、三度目に借りにきたその地の民には、
ある提案をするようにしていた。

その提案とは、今の居住区から離れ、新天地で、豪商の所有している森での伐採作業で、借金を返しつつ、簡素な家と家族の食事は約束されていた。

殆どの森々は豪商たちが買い占めていた。金鉱や銀鉱も無い、無価値に等しい森々を
献上金の見返りとして、豪商たちに与えられていた。

そしてそれらの森々への出入り口には、質素な小屋と非常用として、
鉄砲を置いていた。

雇われ人たちの家族は、低地にある平地に構えた大屋敷を居住地とし、
家族ごとに部屋があり、これまで以上の暮らしへの夢を見た。

15歳以上の男たちは全員、森の奥深くまで案内され、質素な建物であったが、
食事はしっかりと働けるようにと、肉や白米など豪華な食事を日々出された。

危険な作業の為、腕や足を伐採の作業中に失う者もいた。

当然、作業は出来なくなり、一家をただで養う訳も無く、
近隣の村々の豪商たちはその家族のいる地へ足を運び、悪趣味な遊びをしていた。

それは大名も誰も知らない悪魔の所業であった。

働くことが出来なくなった家族を、全く別の森にある大きな建物に連れていき、
豪商たちだけの楽しみである、賭けを行う為の屋敷であった。

遊びという遊びをやり尽くした者の楽しみは、実におぞましきものだった。

まずは、夫婦と子供たちに1~人数分だけの数字を付けられる。
そして1~5のくじ引きが入った箱から豪商の配下にくじを引かせて、
家族の人数に対して、その引き当てたくじ引きの数字をかけ合わせる。

そしてその数字の数だけ、生きている状態の頭、両腕、両足のいずれかの五体を
再び豪商の配下がくじ引きをし、最初に数字を付けられた者が、
引いた紙に書いてある場所を、制限時間内に切れ味の鈍い斧で斬り落とす。

制限時間を過ぎれば、全員が飢え死にするまで地下にある頑丈な牢獄に
入れられるというものであった。

豪商たちはそれを上から見下ろし、賭けをして楽しんだ。

何も知らない家族は、不安に思いながらもついていき、気づけば上から
見下ろされ、生き残る為の遊びを教えられた。

そして生き残る事が出来れば、真の永住を約束された。

誰にも知られず、この悪夢のような行いは昔から続けられていた。

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