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「デュラハン」~第二話 パンドラの箱前編

 「はッ!」
勇翔の拳打を掌で流しながら、そのまま掌底を
胸に放って、態勢が崩れた瞬間に身をかがめて
スッーとその拳の腕の下を潜り抜けると、背後から
下段蹴りと続けて中段蹴りを放たれて、勇翔は
前方に大きく倒された。
「まだまだ甘いですね。この程度で倒れてはいけませんよ」
勇翔は身を仰向けにして、
ほむらが強すぎるんだよ」
彼は勇翔に手を差し出して、立ち上がらせた。

「おーい、勇翔。お、焔も一緒か」
「ええ、少し稽古をしていただけですよ」
財団施設のトレーニングルームに二人はいた。
「仕事が入ったんだが、焔がいるなら君に任せるか」
「いえ、私は少し用がありますので」
「それは残念だ。今回は少し難しい仕事になりそうだ」
焔は興味を示して、どんな依頼か確かめた。
「難易度のランクはいくつです?」
貴田は顏をしかめて、
「それが不明なんだよ。低くは無い事だけは分かっている
んだがね。あの有名なパンドラの箱を手に入れた組織が
あるらしい。売りに出すつもりか、開けるつもりかも不明
だが、開ける前に止めないとマズい事になる可能性が高い」

「ほう、それは面白そうですね。やはり私が行きましょうか?」
黙っていた勇翔は口を挟んだ。
「いや!俺が行く!」
二人は不安そうな顏で勇翔に目を向けた。
「大丈夫だって!安心して任せてくれ!」
「そこまで言うなら任せるが、無理はするなよ。
お前に何かあったら大変だからな」
勇翔は貴田が言ってる意味がよく解らなかったが、
任せてもらえるなら、どうでもいいと思った。
「一人では無理だと感じたら連絡を忘れるなよ。
援護部隊は現地のギリシャ支部が出すそうだ。
ランクはダブルAのダリル率いる特殊部隊だ」

「凄いですね。ダリルの部隊は世界でも勇名です。
それは相当危険なのでは?」
「うむ・・ギリシャ支部のデュラハンが向かったが、
行方不明だそうだ。情報が無いためか現在は
ドローンで様子を見ているようだが、大規模な基地
を建てて中で何が行われているか分からないらしい」

勇翔は話を聞いても、自信満々な顏をしていた。
「勇翔、今日中に出発するから装備を忘れるなよ」
「すぐに準備してくるからジェット機の用意を頼む」
「もうすでにグローバル8000を待機させてる」
勇翔は笑みを浮かべて自分の部屋へ戻って行った。

「勇翔にはまだ厳しいのでは?」
「焔がそう思うならそうなのだろう」
「彼はまだまだこれから更に強くなれますよ。
死ぬには早すぎますね」
「勇翔一人で処理できそうにないのであれば、
手を貸してやってくれないか?」
焔は真剣な眼差しで黙って頷いた。
「分かりました。私は先に現地に行って様子を
見ておきましょう。グローバル8000は二機待機中
ですよね?」
貴田は苦笑いしながら、答えた。
「焔には何でも見通されるな。勇翔を頼む」
「任せください。それでは行ってきます」

「高杉さま、到着致しました」
「ん? もう着いたのか、早過ぎるってのも問題
だね。休む時間もないや」
「いつもお疲れさまです。
お気をつけていってらっしゃいませ」
「ああ、ありがとう。あと高杉さんは
やめてくれない? 勇翔でいいよ」
「では勇翔さんとお呼びしますね」
「うーん。まあそれでいいや、
じゃあまた帰りによろしく」

勇翔が航空機から降りると、ギリシャ支部の人が
待っていた。
「高杉隼人さんですね。お待ちしておりました。
私はギリシャ支部副長のソフィア・サマラと申します。
ソフィアとお呼びください。あ、失礼致しました。
ギリシャ語は大丈夫でしょうか?」
勇翔は笑顔で青い目を見て答えた。
「ソフィアさんの青い瞳は綺麗だね」
彼女は驚いた様子を見せた。
「ギリシャ語お上手ですね!」
「世界中飛び回るからね。15ヵ国くらいは話せるよ」
「凄いですね!それではギリシャ語でお話させて
頂きます。どうぞお車にお乗りください。
詳しくは中でご説明しますので」

「今回はなんか厄介そうだとしか聞いてないんだ」
「ええ。判断に迷う事が多数起こっていて、情報を
集めてはいるのですが、まだ未確認ですが、
ギリシャ支部長の見解は、パンドラの箱を開けた
と見ています」
ソフィアは不安そうな顏つきをしていた。
「中身は当然、誰も知らないんだよね?」
「文献によると、ご存知でしょうが、悪の巣窟の
ような中に希望があるとありますが、比喩的な
表現でしか記載されてない為、分からないのが
実情です」
「箱を手に入れた相手は何者?」
「組織的なマフィアの類ですが、それほど大きな
組織ではありません。何者かが何かしらの理由で
箱を手に入れる為に、人手や道具などを手配して
もらう見返りに、箱の中身を共有するのではない
かと我々は見ています」

「ダリルは?」
「彼の部隊は組織のアジト近くで待機中です」
「それなら、ダリルがいる近くで下ろして。
何かヤバそうな感じがするから非戦闘員は
近づかない方が良さそうだ」
「分かりました。では迎えを寄越すよう
伝えます」
勇翔は資料に目を通しながら頷いた。

「着きました。それではお気をつけて」
「伝説の箱の正体を後で教えてあげるよ」
勇翔は悠々とした表情でソフィアに伝えた。
彼女は心配そうな顔つきで頷いて、
その場から去って行った。

突然、素早い動きでスッと前方から
ナイフを持った男が襲ってきた。
勇翔は咄嗟に後ろに身を退いたが、
背後からも気配を感じて、緩急を
つけて高速でしゃがんで一周の足払いを
二人にかましてやった。
前後の両人はそれを軽々と一瞬浮いた
ような動きで、そのまま前後から蹴りを
入れたが、勇翔は両手を使ってガードした。

「お前ら何なんだ? 本気も出して
無さそうだし、目的は何だ?」
二人は顏を合わせて、首をかしげていた。
「ボスに試してみろと言われたから
仕掛けただけだ」
悔しそうな顏で言葉を濁した。
「ボス? ダリルの事か?」
「そうだ。ボスは認めているが、俺たちは
16歳のデュラハンの力量を図っただけで
悪気はない。悪かった」
ガキ扱いされて不機嫌な様を見せていたが、
悪い気はしなかった。
「ま、仲良くやろうぜ。デュラハンさんよ」
三人は車に乗って待機場所まで向かった。

車からでも見える大きな仮施設の前には
ダリルが待っていた。
「勇翔、久しぶりだな。
歓迎ぶりはどうだった?」
笑顔でダリルが出迎えた。
「悪くない部隊のようだな。動きも良かったし、
さすがはⅡAのダリル部隊って感じだったね」

「しかし、国家の精鋭並みのダリル部隊が掩護を
するなんて、一体どういう訳だ?」
「うちのデュラハンの援護にランクワンAの部隊を
就かせたが、誰一人戻って来なかったからだ」
「パンドラの箱が開いたっていう事か?」
「うちの班の偵察部隊を出したが、誰一人
戻ってない。恐らくられたんだろうが、
相手が国家政府なら、情報を得やすいが、今回は
秘密組織が絡んでいるから厄介でな。
うちのエクストリーム財団が、その道のプロから話を
聞いたところ、ランクAの部隊どころか、
デュラハンが出張るような大きな秘密組織では
ないらしい。エクストリームが言うには、
組織に何者かが手を貸していると見ている」

「ただ秘密組織としては小さめだが、
当然それなりに元軍人や傭兵を雇っている。
簡単に奴等の根城までは行けないだろう」
勇翔は何度か頷きながら話を聞いていた。
「それならフォーメーションは俺が先頭で、
背後と両サイドはダリルに任せるよ」
「ああ、しっかり援護するから安心してくれ。
それと、コイツはうちの支部からの贈り物だ。
受け取ってくれ」

そこには一式の防弾仕様の装備とアーミー仕様の
新型波刃ナイフが台の上に置かれていた。
勇翔はナイフを手に取って、刃にそっと触れただけ
で、指先から血が舞った。
「・・・・コイツは凄いや」
「そうだろ。これは特殊合金で出来ている上に、
超微振動タイプだから触れるだけで、お前の指先の
ようになる。扱い切れる者が少なくてな。
今回の協力の御礼にと支部長からの贈り物だ」

「有難く頂くぜ」
勇翔は目を輝かせた子供のように喜んだ。
装備も取り替えた時に、今まで使っていた
ものよりも遥かに軽くて、まるで羽のようでもあり、
それに加えて柔軟性もありながら、
硬さもある素材だった。
「これは・・・・一体何なんだ?」

「そのナイフと同じ合金で出来てる」
ダリルは自信満々で答えた。
「ああ、そうだった。それを創った
研究所の所長さんから、あの時はありがとうと
伝えてほしいと言っていたぞ」

「ああー、あの時の研究員のじいさんか」
「思い当たるふしがあるようだな」
「俺も御礼を言っていたと伝えてくれ」
ダリルは微笑みながら頷いた。

「じゃあそろそろ行くか。シェイク!
皆を集めてくれ。出発する」
「分かりました!」

「よーし、揃ったな! これから勇翔を
中心に防衛フォーメーションを組んで行く。
俺たちダリル部隊は、勇翔を目的地である
敵の拠点まで守るのが任務だ。
いいか、敵は得体の知れない強敵である事
だけは確かな事だ。既に犠牲者は大勢出ている。
いつも以上に気合を入れていくぞ!
分かったら車に乗り込め!!」

デュラハン:あらすじ
デュラハン:人物紹介、組織関係図、随時更新、ネタバレ
デュラハン:敵、敵対組織、人物紹介、ネタバレ
第一話:始まり
第三話:パンドラの箱 中編


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