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第9話 般若の面の呪い

翌日、刑事の明智は警官を二人伴って海斗から聞いた
般若の面のあった神社へ向かった。

明智は赴任してきたばかりで、抜け道などのような道や
誰もが知っているような伝承等も知らなかった為、
警官を同行させた。

古くからある由緒ある神社だと言う程度しか、
地元民も知らず、特に盗まれた般若の面に関しては、
一年に一度しか公開されずにいたため、誰もが由来等について
知る者はいなかった。

神社までの階段を上がり終え、想像していた建物よりも大きく、
住まいとして不便も無いほど広々としていた。

明智は警官と一緒に、裏手にある玄関のような扉を叩いたが
無反応であった為、警官たちに関係者らしき人物に、神主と話したい事を
伝えて連れてくるよう指示を出した。

暫くして、神主と警官が現れた。
「刑事さん。般若の面は見つかりましたかの?」

「いえ。今は連日起きている通り魔の事件に人手を割いているので、
般若の面の捜索は申し訳ありませんが、人命を優先して
通り魔の事件を優先させています」

「そうでしたか。では何故こちらに参られたのですかな?」
「般若の面が事件に関わっているのかもしれないからです」

事情を知らない警官たちは不思議そうな顔を見せた。

「あの般若の面は何か、いわくつきのモノでは無いかと私は考えています。
まだ捜査を初めて間もないですが、あの面が盗まれた次の日から、
通り魔事件が発生しました。部下にあの面の事を調べさせましたが、
封印された情報なのか、一切の情報は何も得られませんでした」

神主の表情が眉間にしわを寄せて、一気にこわばった。

「各地にある般若の面にも意味があるように、こちらにあった般若の面にも、
私は何か特別な、人間の強い怨念のような意味があったのでないかと考えています」

神主はため息を吐くと、言うべきか言わないべきか、迷うような表情を見せた。

「刑事さんはお若いのに、優秀な方のようですな。
人が笑うような話でも、真剣に考慮し、柔軟な考えをお持ちのようですな」

「私の仕事は市民の安全を守り、犯人を捕まえることです。
その為には、時に柔軟な考えを持たねば解決することは出来ません。
特にこのように不可解な事件は、通常の捜査では解決は難しいと思っています」

「お役に立てれば何よりですが、あの般若の面についての伝承をお話ししましょう」

明智刑事は真剣な眼差しで、神主を見て頷いた。

「あの面は正直、盗まれた時にはホッとしました。
刑事さんの予想通り、通り魔はあの面を盗んだ者でしょう」

「どういうことですか?」

「この神社の神主は代々、呪いを封印する呪を受け継いできました。
あの面を公開するのは、あまりにも危険だからです」

明智は神主の言葉を自分なりに解釈して問いかけた。

「つまりはあの面には、意識のようなものがあると言うのですか?」

「あなたは非常に聡明なお方のようですな。このような与太話をも
しっかりとお聞きになる。私は前の神主より、この話を聞いた時には
苦笑いしました。しかし、すぐにそれが本当の事なのだと知りました」

「その当時、何かしらの事件が起こったということですね?」

「そうです。当時、この神社にいた巫女見習いが、不用意にもあの面に
触れてしまいました。前神主は注意不足だったと後悔していました」

「その面に触れた巫女見習いの方は、どうなったのですか?」

「ここからは何と言っていいやら、実際に体験した訳ではないので……」

明智は、言葉を濁す神主に対して、今回の通り魔の事を重ね合わせると、
つまりは刑事事件に発展したはずなのに、他の事件として扱ったのだと
思った。

事件が起こったのに対して、情報を封印扱いにしたのは、当時は
解決出来なかったと言うよりも、犯人だと証明出来なかった、
法の枠を超越した事件だったのだと理解した。

「その呪術は私にも扱えるものでしょうか?」

神主は全てを話していないのに、
明智の鋭くも柔軟なその理解力と頭脳に驚いた。

「難しいものではありません。ですが、強い精神をお持ちでないと逆に
支配されるでしょう。刑事さんなら解決できそうです」

明智は神主に、般若の面に対抗する術を習い、闇が支配する夜を待つ事にした。

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