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超短編小説

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ショートショートを随時まとめています。※作品は全てフィクションです。
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2024年5月の記事一覧

【超短編小説】 饅頭を齧る女

【超短編小説】 饅頭を齧る女

これは旅先で会った女の話だ。

その女は右手に饅頭を持ち、こちらを見ながら饅頭を一口齧った。

まるまるとした白い饅頭であったが、小さい口を器用に動かし、運んでいく。

それは頬張るというよりは齧るが適当であった。

まるで私に見せつけるかのように饅頭を美味そうに食べた。

女は饅頭を食べ終えると「ふー」と息を吐いた。

もう腹が一杯になったに違いない。

そう思った矢先、女は鞄から赤い饅頭を取り

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【超短編小説】 夜中物語

【超短編小説】 夜中物語

夜の静けさが好きだ。

真っ暗で何の音も聞こえない。

でも、だんだんと空は青になっていく。

わたしたちは笑った。

声はガラガラで、

すぐにでも眠りたい。

「明日、声、出ないかも」

「もう、今日だよ」とツッコまれながら、

飲みすぎて、歌いすぎて。

冷たい空気が身体を纏い、意識を保たせる。

こんな日常が続けばいいのに。

「じゃあね」と手を振ったら、

「おやすみ」と返したようだった

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【超短編小説】 形成

【超短編小説】 形成

人間はこれまで生きてきた中で経験したことを元に形成されていく。

過去にしがみつき、そして、また新たなものを取り入れ、形成していく。

そう、形成なくして生きていけぬ。

それが私の生き方だった。

積み上げたものを簡単には壊すことなど出来やしない。

そういうジレンマの中にいる。

私を形成するもの。

それは一体、いつから芽生えたのか。

それが私を蝕むようになったのはいつ頃の出来事なのか。

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