![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/140363036/rectangle_large_type_2_dcc9112c4f779967cf4534e94a0249f3.png?width=1200)
Photo by
hisou1021
【超短編小説】 饅頭を齧る女
これは旅先で会った女の話だ。
その女は右手に饅頭を持ち、こちらを見ながら饅頭を一口齧った。
まるまるとした白い饅頭であったが、小さい口を器用に動かし、運んでいく。
それは頬張るというよりは齧るが適当であった。
まるで私に見せつけるかのように饅頭を美味そうに食べた。
女は饅頭を食べ終えると「ふー」と息を吐いた。
もう腹が一杯になったに違いない。
そう思った矢先、女は鞄から赤い饅頭を取り出した。
まだ食べるのか。余程、お腹が空いていたのだろう。
女は人目を憚ることなく、今度は赤い饅頭を食べ始めた。
そんなに喰うということはよほど饅頭が美味いに違いないと考え、女に尋ねた。
「お前さんや、その饅頭はどこに売っておる?」
女は饅頭を食べるの止めると、こう答えた。
「これはワシがこしらえた饅頭じゃ。どこにも売っとらん。お主も食べみるか?」
「嗚呼、喰ってみたい。どんなものか気になって仕方ねぇ」
女は饅頭をちぎると、私に向かって放り投げた。
「ほれ、食べてみんさい」
私は饅頭を口に入れると、すぐに地面に吐き出した。
不味い。
湿った砂利のような味がする。
「こんなもの、よく喰えるな」と顔を上げると、
辺りには女の姿は無かった。
ただ唯一、女が先程まで座っていた石には
「土神」の文字が刻まれていた。(おしまい)