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超短編小説

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ショートショートを随時まとめています。※作品は全てフィクションです。
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2022年7月の記事一覧

【超短編小説】 天地革命 エピソード0

【超短編小説】 天地革命 エピソード0

ある時、世界に住む人々だけが重力に反して空に引っ張られ上昇し、

かつて地面と呼ばれていたものは凄まじい音を立てた。

多くの人々が空に吸い寄せられるかのように昇り、

空の境界に到達した瞬間、天と地が180度回転した。

再び重力が元に戻り、気が付くと足元のすぐ近くには雲があり、

頭上には人類がこれまでに築き上げてきた建造物が逆さまの状態で維持され、残骸と化した。

これは後に天地革命と呼ばれ

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【超短編小説】 お疲れーパン

【超短編小説】 お疲れーパン

仕事帰り、お腹がすいた私は駅前にあるパン屋に立ち寄った。

どのパンを買おうかと店内をぐるぐると回っていると、

あるポップが目に留まった。

ポップには【お疲れーパン】と書いてある。

「お疲れーパン?」

すると、近くにいた店員さんが

「お疲れーパン、おいしいですよ」と薦めてきた。

「カレーパンですか?」

「違います、ただのカレーパンではありません。お疲れーパンです。

食べた人には分か

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【超短編小説】 大丈夫だよ

【超短編小説】 大丈夫だよ

「赤血球って、免疫細胞じゃないんだって」

生物の教科書のページをめくると、彼女は独り言のように言った。

「なんか不思議だよね。人間の体には約60兆個の細胞があるんだよ」

彼女はそう言いながら、僕の方に振り向いた。

「そうだね」と僕は頷く。

「なんか大事にしないと。もっと体に優しくしなきゃ」

彼女は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

「決めた。私、体をよしよしすることにする」

教科

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【超短編小説】 食パン

【超短編小説】 食パン

目を覚ますと、パンの匂いがした。

僕は階段を下りて台所に行くと、ママがパンを焼いていた。

「もう起きちゃったの?まだ寝ててもいいのよ」とママは言った。

でも、僕はパンが気になった。

「何パン、作ったの?」

「何パンでしょう?」とママはクイズを出してきた。

「メロンパン?ジャムパン?クリームパン?」

「甘いパンばっかりね。食パンよ」とママは笑う。

「食パンなんて、味しないよ」と僕は悔

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【超短編小説】 言葉箱

【超短編小説】 言葉箱

小さな箱を空に投げた。

すると、箱に収まった数えきれないほどの言葉があふれ出した。

それは、僕がいつか伝えるはずだった言葉のカケラたちだ。

言葉たちはキラキラと輝き、届けたかった人の元へと飛んでいく。

伝えたかったこと。

伝えようと思ったこと。

そして、本当に言いたかったこと。

返事はすぐには返って来ないだろう。

でも、思いが伝わったなら、それでいい。

箱はすべての言葉を届け終え

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