横浜FC戦の備忘録

 大敗です。ぐうの音も出ない大敗です。こういう試合だからこそ振り返ることが大事です。気持ちの切り替えも兼ねて今までと違う感じで振り返ろうかなと思います。気持ちの切り替えと書いていますが、むしろこれだけ殴られるとすがすがしい気持ちではあります。ドMか。

スタメン

 横浜FCの草野は18分で松尾(仙台大在学中の特指)と交代。筋肉系のトラブルの模様。

位置的優位で殴られる岡山

 岡山の442に対して横浜FCは、ボール保持時にCHの田代を最終ラインに落として3バックを形成。いわゆるサリーダ・ラボルピアーナ。CHの片割れである佐藤はアンカーポジションで岡山の第一ラインと第二ライン間にポジショニング。そしてSBの北爪と武田を高い位置に張らせる。SBが大外レーンに入るので、WGの中山と佐野(前述の通り前半早い時間帯に松尾と交代)はハーフスペースにポジショニングする形となる。

 この形に立ち上がりから岡山は苦しめられることになる。4:40、佐藤が岡山の第一ラインを形成するヨンジェと赤嶺の間で田代からのパスを受けてターン、これで第一ラインを突破、そこから右ハーフスペースで浮いた中山に縦パス、大外の北爪とワンツーで岡山の最終ライン突破を図るシーン(田中が対処)。
7:50には横浜の最終ラインにプレッシャーがかからず、フリーで伊野波が運んで第一ラインを突破、そこから大外の北爪へ、またも右ハーフスペースで浮いた中山にパスが通りレアンドロドミンゲス(以下レアンドロ)とのワンツーでペナ内侵入。

 岡山としては第一ラインで横浜のゾーン1でのボール保持を制限し、SHの仲間と久保田で伊野波とヨンアピンに詰める形を取りたいのだが、第一・第二ライン間の佐藤を誰が見るのか(CHが付いていくのか、FWが見るのか)でピッチ上のコンセンサスを得ることができず、ヨンジェと赤嶺で前からプレスに行く形を作れない。結果として最終ラインに詰めれば佐藤が空くし、佐藤を警戒すれば最終ラインから運ばれるという状態になってしまっていた。

 また、ハーフスペースにポジショニングする横浜のWGを誰が見るのか(SHが見るのか、SBが見るのか)という問題も発生。これらの結果として、岡山の選手は横浜の2つのポジションの選手を見ないといけないという、思いっきり認知に過負荷な状態となってしまった。

 1点ビハインドを許した後半の岡山は、以下のようにして守備を修正しようとした。

①佐藤に対して関戸が付いて行く                   ②第一ラインの選手(ヨンジェや赤嶺、中野)が横浜の最終ラインでのボール保持に対して二度追い三度追いも辞さない前追いを敢行          ③それに呼応してSHも前に詰めに行く

 ボール保持志向が強く、アンカーを置き、ハーフスペースを活用しようとする、横浜FCと似たようなチームとの対戦であった京都戦、東京V戦と同じような修正方法である。これによって前半に比べると横浜のボール保持に対して規制をかけてセカンドボールを回収する回数は確かに増えた。

 しかし前述した前半からの認知の過負荷、ピッチに上手く順応できなかったことなどもあって奪ったボールをロストしてしまう場面が頻発。そうなると前にかかった第二ラインの裏でレアンドロやイバが自由を謳歌。前にも後ろにも塞がないといけないスペースのできすぎた岡山守備陣は耐えることができずにあえなく轟沈してしまった。そして4-1と突き離してからの横浜FCはSBもビルドアップに参加させた、横幅を広く使ったボール保持で岡山のプレスを上手くいなして淡々と時間を潰すことに成功した。相手の出方に応じた柔軟なポジショニングを仕込める下平監督、やはり相当優秀。何で昨季の柏レイソルはこの監督をクビにしたんだろうか。

質的優位で殴られる岡山

 上記の位置的優位を生かすサッカーというのは前述した京都戦、東京V戦、そして徳島戦と、今季の岡山は何度か経験済だったはず。なのにどうしてこんなに点差が付いてしまったのか。それがイバとレアンドロを中心とした横浜FCの質的優位であった。どんなに位置的優位を取っても、最後のスコアの部分は質的優位に依る部分は多い。この試合はまさにその典型だったと言ってもいい。

 フィジカルだけでなく足元も相当上手いイバは、シンプルなロングボールに対しても空中戦で濱田や田中に競り勝つだけでなく足元に収めて次のプレーに繋げてしまえる。前から行ってもなかなか奪えない岡山のCBはイバに引っ張られるようにポジションを下げざるを得なくなってしまった。

 そして岡山の第二・最終ライン間を自由に行き来するレアンドロ。レアンドロにボールが入って慌てて武田や関戸が詰めに行っても軽くあしらわれ、結局前を向いてプレーをされてしまっていた。2人行ってもファールで抑えるのが精一杯というほどにキレており、特に第二ラインが空きやすくなった後半は、ライン間で受けては自ら運んだり、長いレンジのパスを簡単に通したりすることで攻撃のタクトを自在にふるっていた。

 そしてもう一人個人的に驚きだったのが、右WGの中山。スピードのある選手だということくらいの認識だったのだが、狭いスペースで受けても前を向ける視野と技術があり、対人で当たり負けしないフィジカルもある。68:13からの4点目に繋がる、右サイド狭いスペースで廣木に体を預けての北爪へのレイオフ、そこから反転してレアンドロのパスに素早く抜け出した一連のプレーが象徴的だった。

質的優位で殴れなかった岡山の光明

 これまでの岡山は劣勢時にヨンジェと仲間の質的優位で流れを引き戻し、主導権を握り返すという試合をしてきた。しかしこの試合では、立ち上がりのヨンジェの裏抜けをヨンアピンに何度も止められたことで前半の早い段階で前線へのロングボールを諦めざるを得なかった。

 左SBに起用されたジョンウォンが攻撃でで全く機能しなかったので、右SBの廣木を起点にした右回りのボール保持から右サイドでのオーバーロードor左サイドの仲間へのサイドチェンジでボールを運びたいところだったが、整理された横浜FCの442は仲間へのサイドチェンジを上手く誘導しているようであり、武田から仲間にサイドチェンジが通っても仲間1枚に横浜FCの選手が2枚付く状態が多かった。それでも何度かシュートチャンスまで持っていける仲間は流石だったが。

 後半開始から選手交替をせずにバックラインのポジションチェンジを行った有馬監督。変更は以下の通り。

・田中⇒右SB
・ジョンウォン⇒左CB
・廣木⇒左SB

 このポジションチェンジでポゼッションに関われる選手がSBに入った(田中は言わずもがな。廣木は左に入ったときにはポゼッションに関われるようになる不思議な選手)ことで、中央レーンを使ってゾーン3に入れる形を単発ながら作れるようになった岡山。
後半開始早々の45:25には久保田のレイオフを受けた田中が中央レーンから下りる動きをした赤嶺にパスを入れ、中央レーンで赤嶺の落としを受けた武田が仲間に展開する形。
立て続けに46:04には左大外の廣木から中央の武田にパスが入り、ターンした武田が最終ラインからの抜け出しを図ろうとした赤嶺に縦パスを入れる形。

 そして得点シーン。60:36から、岡山後方でのボール保持からバックパスを受けた一森が左大外の廣木に展開、横浜FCの中山と佐藤が詰めに来たところを中に入るドリブルで剥がし中央レーンでフリーになった中野(58分赤嶺と交代で入った)へ、横浜FC最終ラインと一騎討ちになる形でヨンアピンが南のブラインドになったところを冷静にコースを突いたシュートで得点。

 勿論中野のシュート技術の高さ、相手との駆け引きの上手さあってのゴールであったが、外を起点にボールを運び、相手を外に広げて中央にスペースを作ることで生まれたゴールでもある。この得点シーン以降こういう形が見られなかったので再現性にはいささかの疑問。しかし大敗の中でもヨンジェや仲間の質的優位で殴れない時の光明は確かに見えた。この光明、絶対忘れないようにしたい。

雑感

・これまでのゲームでも生まれていた課題を相手の質的優位によって顕在化されて大量のマイナス得失点を重ねてしまったという試合。これまでの課題というのは大きく2つ。

①442守備での各ライン間でポジショニングする選手を掴み切れず、前線からのプレスが利かなくなる
②コンパクトな陣形を組んだ相手守備に対して、ヨンジェや仲間の質的優位を使うスペースがなくなると攻撃が手詰まりになる

この試合では①の課題に関して、これまで通りの「後方のリスクを冒してもマッチアップを前から決める」という対策に岡山の第二ラインの背後にレアンドロやイバが入ることで殴り返され、対策の対策を打たれたことで打つ手がなくなってしまったという意味でも完敗だった。

・結果から見るとジョンウォン左SB起用は攻守ともに明らかな失策。長崎戦や町田戦のように球際勝負がやたら強調されるような試合でなかったので、純粋なポジショニングの問題やビルドアップの問題が顕になってしまった。今後を見据えての起用だったらしいが、その今後に何があるのか。有馬監督の次の手に注目したいところ。

・1試合で右SBを3回変更したり、60分足らずで立て続けの攻撃カードを切ったりするなど、明らかな劣勢になったことで、有馬監督が環境を変えることで流れを変えたいという監督なんだなというのがハッキリしたような気がする。良い悪いの問題ではないが、やはり今までの岡山の監督にはなかったタイプ。

・折り返しに近い段階でこういう試合になってしまったことを良い虫の知らせと捉えたい。大敗に凹んでいる間もなく次の試合が控えているのは良いことだと捉えよう。


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