可能性とDNA~J2第3節 ジュビロ磐田VSファジアーノ岡山~

スタメン

 両チームのスタメンはこちら。

(そう遠くない)未来への可能性を見せた先制点

 試合の立ち上がり5分間、岡山も磐田もオープニングのチョイスはFWをサイドに走らせてのロングボール。岡山のイヨンジェも磐田のルキアンも、身長では180cmを超えており、サイドに流れてのマッチアップする相手SBの身長は170cm前半なので、立ち上がりはボール保持ではなくシンプルな空中戦で起点を作っていきたい、そこから試合の主導権を握っていこうという魂胆からだろう。

 どうしてそうなったのか、個人的には立ち上がりから『自分たちのボール保持VS相手のハイプレス』という構図は避けたかったからではないだろうかと考える。岡山、磐田ともに「もちろん自分たちはボール保持から前進させていきたい⇒だがどちらも自陣のボール保持に対しては相手がハイプレスをかけてくるのではないか⇒そうなると試合の立ち上がりで相手のプレスに捕まって流れを失うのは避けたい」、となるとリスクの少ない前線へのロングボールから試合を始めていこうと考えたのではないだろうか。

 立ち上がり5分間のロングボールの打ち合いが終わりを告げると、徐々にホームの磐田がボール保持による前進を試みようとする。だがそんな矢先の11:45の展開から、濱田によるポープへのバックパスの展開から岡山にファインゴールが生まれることとなる。この岡山のビルドアップの流れ、磐田のハイプレスをひっくり返すまでの流れが非常に淀みなかった。

①:ポープへのバックパスをスイッチに磐田は小川航・ルキアン・山田がハイプレスに向かう
②:岡山はポープからビルドアップをスタート、ポープからパウリーニョに縦パス⇒パウリーニョに対して磐田は山本が詰める
③:パウリーニョはサイドに開いた濱田にダイレクトで展開⇒濱田には山田が詰めに行っている
④:ここで濱田が我慢して(=簡単に蹴り出さないで)山田を引き付け、もう一度パウリーニョにパスを入れる
⑤:パウリーニョは再びダイレクトで叩く、上門がハーフレーンにフリーな状態で侵入してビルドアップの出口になる

 ①~③の流れまでは磐田がハイプレスから上手く左サイドでハメに行くことができていたように見える。しかし、④で濱田が我慢して山田を引き付けたプレーが大きかった。また、パウリーニョが下手に寄らずに中央で山本を引き付ける、そして2度のワンタッチプレーでビルドアップを円滑に進めることができた。これまで書いた一連の流れを図示したのが下図3枚になる。

 このビルドアップが上手く行ってからの展開が下の動画。磐田の左SBである石田は大外に張る椋原に釣られたことで上門への反応が遅れて、すでにターンが完了していた上門に飛び込む形となってしまって剥がされる。こうして磐田の左サイドを上門のドリブルと椋原のオーバーラップで攻略すると、椋原のクロスから清水のゴール。イヨンジェと白井のランニングで磐田のCB2枚とCH(上原)を引っ張り、アーク付近で清水にトラップとコースを狙う余裕を与えたことで生まれたゴールであった。
 この攻撃の始点となったポープ、そして有馬監督と口を揃えて「今までやって来たことが形になった」という内容のコメントを試合後残しており、積み上げてきた(そしてこれからも積み上げていくであろう)攻撃に確かな可能性を示したシーンとなった。

 なお岡山の右サイド攻撃が上手く行った大きな要因として、磐田の左サイド守備の問題、特にSH(山田)とSB(石田)の連係の問題は無視できない。山田がプレスに向かった背後のスペースが空いてしまって、そこを岡山(上門-椋原のライン)に利用される展開は、特に前半はその後もちょくちょく見られることになる。(ex.37:25からのビルドアップシーン)

対フベロ式ビルドアップ

 首尾良く先制に成功した岡山。ここからは磐田のボール保持攻撃に対してどういう選択を取っていくか、ということになる。ここでいう選択とは、簡単に言えばハイプレスに行くか行かないか。実際に岡山が選択したのは後者、ハイプレスに行かない選択であった。まずは、フベロ監督の磐田のボール保持の基本型について。

①:上原が最終ラインに列を下りてSH(松本・山田)が中央に絞ってIH化する、442→352(3142)への可変でビルドアップを行う
②:外に開いたCB(藤田・伊藤)が起点となって横幅を取るSB(小川大・石田)とIH、CH(山本)で菱形を作っての前進、ハーフレーン出口にFW(小川航・ルキアン)やIHが入って前を向く形が理想
③:②の段階で詰まったらサイドチェンジを行う

 前半途中までの磐田はこの基本型に基づいてボール保持を行っていたように見えた。これに対して岡山の非保持は前述の通りプレスに行かない選択を取る。SH(上門・白井)を第一ラインに上げてのプレスを行わず、442のブロックを作って守る形を取るようにしていた。

 岡山が特に強く意識していたのが中央~ハーフレーンのスペースを消すこと。まず第一ラインの2枚(イヨンジェ・清水)が磐田の最終ラインから山本に入るコースを消し、SHは3バックに詰めに行くことよりもCH(パウリーニョ・上田)と連係してハーフレーンに入るコースを消すことを優先。磐田が最終ラインからサイドに広げるパスを出したとき(=CB→SBへのパス)は、SHが詰めに行くが、その時はボールサイドのFWがハーフレーンへのコースを埋めるために下がるようにしていた。

 このようにした岡山の非保持時の狙いとしては、磐田に最終ラインからの外回りをさせること。最終ラインからの各駅停車のパスによるサイドの切り替えならば十分に岡山のスライドが間に合い、コースを消してプレッシャーをかけることができる。磐田が我慢できずにボールを前に入れれば、コンパクトに守っているためセカンドボールを回収しやすくそこからのボール保持に切り替えやすいということである。岡山のこのやり方は、前半の飲水タイムが入る前後、25分くらいまでは上手く行っていた。

対フベロ式ビルドアップ、暗転

 25分過ぎから磐田は、442を堅持する岡山のブロックに対して第一ラインの脇にポジションを取る頻度を高めていく。岡山の非保持時の狙いからすると、ある程度第一ラインの脇と大外の2つのスペースは捨てざるを得ない。そこでまず磐田は、藤田や伊藤や上原が岡山の第一ラインの脇のスペースでボールを受けられることを確認した。
 次に岡山が大外のスペースを捨てているのを利用して、FWやSHが中から外にカットアウトする動きを増やし、サイドの高い位置を取る回数を増やしていった。

 「ハーフレーンは起点にできないが、相手が外を空けているなら、外→外でボールを運んでいこう。岡山がこれを嫌がって外のケアに向かうならばハーフレーンのスペースも出来てくるだろう」というフベロ監督の考えがうかがえる。そんな狙いが見えたのが41:00の磐田の決定機に繋がる、藤田の第一ライン脇から運ぶドリブル→右のハーフレーンで松本がパスを受け、ペナ内の小川航にパスを通した形であった。

 前半の岡山は磐田の外→外展開に対して、やり方や狙いを大きく変更せずに応戦。右サイドは比較的上手く守れていたが、左サイドは大苦戦。特に左SBとして初スタメンの松木が対面の相手(松本)の守備の対応と守備時のポジションを守ることで、前半で既にいっぱいいっぱいの状態になってしまっていた。

失点まで時間の問題、のち退場

 外→外の展開を見せることで前半のうちに同点、勝ち越しへの大きな手掛かりを掴んだ磐田。後半になってSBがやや低めのポジションを取り、SHが大外に流れてポジションを取る、大外に2枚入る形でビルドアップを行っていくようになる。CBとCHの4枚のビルドアップ隊は岡山の第一ライン脇のスペースに入れ代わり立ち代わりポジションを取る形は継続。

 一方で後半の岡山は非保持時の動きとして、サイドに出るボールに対してのアプローチを強めていこうとしていた。サイドからの前進ルートを阻んでいきたいという意図がうかがえる。当初の狙いとして外は捨てていたとしても、あれだけ外から運ばれてしまうとやはり無視はできないという有馬監督の修正だろう。そうなると岡山は低めにポジショニングする磐田のSBにSHを当てていきたいところだが、やはりハーフレーンにつながるスペースを空けたくないからか、強く詰めに行くことができずに狙い通りにできているとは言い難かった。岡山は52分にサイド守備の強化から清水→関戸を投入し、上門をFWに上げる。

 岡山の第一ラインの脇のスペース、そしてSHが深追いできないサイドのやや低めのスペースを占有した磐田は、前述のスペースを起点に外に展開し、進めなければ中に戻す、そして逆サイドに展開する形を繰り返すことで徐々に岡山の442ブロックを縦横に広げ、ペナ付近まで押し込むことに成功。前半は左→右への展開がほとんどだったが、後半は逆に右→左に展開する形も増やすことで岡山の442守備を文字通り左右に揺さぶっていく。こうなると前半からのフベロ監督の目論見通り、ハーフレーンのスペースも次第に磐田が占有するようになっていく。押し込んでからの磐田の形はファーへのクロスメイン。ファーの選手が折り返すことで、ペナ内での岡山が選手たちの視野を変えていく狙いがあったと思われる。

 こうして磐田のボール保持によって守備ブロックを広げられて、コンパクトな状態を保てなくなった岡山。マイボールにする位置が自陣ゴール前であることもあって、奪ってからCHやSHに当てて時間を作る形を出そうにも、磐田のネガトラの前に奪ったボールをすぐに奪われる展開が続いてしまっていた。特に上田やパウリーニョに入る形は相当にチェックされていた。
 58:15にはハーフレーンを起点に山本がファーへのアーリークロス→小川が折り返してルキアンがポスト→山田が詰める形で決定機もポープが何とかセーブしてしのぐ。
 磐田は60分、ハーフレーンで受けてから大きな仕事ができる大森を山田に代えて投入。岡山から見ると失点は時間の問題と思われた。

 この交代がばっちりハマった形で試合が動いたのは66:15、ハーフレーンで受けた大森が、CB(田中・濱田)の間を抜けだした小川航にワンタッチのスルーパス→アーク付近で田中が小川航を倒して一発退場。いわゆるDOGSO(決定的な場面の阻止)の要件を満たしたケースである。ちなみにDOGSOの詳細は下動画で。

 これで得たFKを上原が直接決めて磐田が1-1の同点に追いつく。ここから磐田が嵩にかかって攻めてくることが予想される中、岡山としては1人少ない状況でどう試合を進めていくか。

DNAは受け継がれる

 飲水タイムを挟んで後の71分、岡山は上門→後藤で田中が抜けたCBを補充。岡山は一人少なくなったので、イヨンジェを前線に残しての441で残りの約20分間を戦うことになる。

 ここからの試合の流れは、ペナ付近まで引いての籠城戦術、いわゆるバスストップを行う岡山に対して磐田がどうこじ開けるのか。その一点に集約されることとなった。磐田はCHもバイタル付近までポジションを上げてアーク付近でボールを保持、岡山のブロックを中央に寄せて完全フリーの大外からSBが回り込んでグラウンダーのクロスを入れる形からチャンスをうかがう。80分、小川大→投入直後のルリーニャの形は狙い通りだったが、ルリーニャのシュートはまさかの枠外。

 10対11になってからの磐田は前述の小川大→ルリーニャの形を含めて都合四度は決まってもおかしくない形があったのだが、岡山はポープのファインセーブ、濱田のゴールライン上のクリア、他の選手たちも相手にまとわりつくような守備を見せてしのぐ、しのぐ、しのぐ。441のブロックで耐える岡山はボールホルダーに自由を与えないように、ボールサイドのSHが最終ラインに入って441→531に可変させてペナ幅に4枚を残す形を維持していた。とにかく中央を割らせない、ペナ内・ゴール前では自由を与えない執念、気持ちの伝わる守備は、まさに岡山が受け継いできたDNAである。監督が代わっても伝統のタレのごとき受け継がれる味と言っていいだろう。

 88分には岡山が松木→野口、上田→山本、イヨンジェ→斎藤と、体力の補填とカウンターの目を残すためのカードを一気に切る。磐田もルキアン→藤川とカードを切るが、最後までスコアは動かず。1-1の引き分けでタイムアップ。

総括

・中(=ハーフレーンを起点にする形)を上手く使って動かせないならば、相手が空けている外から動かして広げていけばいい、という、自分たちがボール保持できる時間を味方につけた試合運びは本当に見事だった磐田。やはり昇格筆頭候補。慌ててゴール前に放り込むことなくサイドチェンジを繰り返し、大外から背後を取る形を見せることで、徐々に占有するスペースを増やしていく様は、まさに真綿で首を締めるかのよう。上田やパウリーニョらに対するネガトラでのカウンタープレスも機能し、25分以降の前半、そして後半はほぼ全ての時間帯を磐田のゲームにしてしまった。だからこそ、ルリーニャの決定機逸を筆頭に2点目を取れなかったのは痛恨であったとも言える。

・田中が退場し、10人になってしまってからの441による「絶対に失点しないぞ!」という気持ちの伝わるブロック守備は感動すら与えるものであったが、そもそもそういう展開になってしまったのは、岡山が磐田のボール保持→前進に対して有効な阻害手段を終ぞ持つことができなかったからだと言える。後半途中にパウリーニョが高い位置に進出して、磐田の後方に時間を与えないようにする動きが何度か見られたが、後が続かず単発に終わってしまった。

・前半の先制シーンもそうであったが、「ボールを持つ形になれば」磐田相手でも、GK+CB2枚によるボール保持からSBやSHがビルドアップの出口となりつつきちんとポジションを取ってボールを運び、前進していく形を再現性をもってできるようになっているのが確認できたのは良いトピック。特に今季初先発の椋原のサイドで、SBに徳元や増谷がいたときとそれほど遜色のない形を作れていたのは大きな収穫。右でも精一杯だった松木に左SBをさせたのは、さすがに有馬監督も無茶振りだったか。

・磐田のような昇格筆頭候補相手にも、どれだけボール保持の時間を取れるか。そのために相手のボール保持を阻害する(できるだけ高い位置での阻害)形を多く作れるか。特に超過密スケジュールになる今季はそれができるかどうかで最終順位が決まってきそうな感じである。この試合みたいに揺さぶられ続けてバテバテになるような試合は、できるだけ減らしていきたいところである。

試合情報・ハイライト

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