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2024 J2第9節 愛媛FC VS ファジアーノ岡山 の振り返り


スタメン

 両チームのスタメンはこちら。

3トップ対4バックの目算

 ファジアーノ岡山は普段の試合から立ち上がりはGKのブローダーセンも含めてバックラインの選手たちが自陣でリスクを冒さずにロングボールを使い、10分を過ぎた辺りで一度バックラインから保持する形を試みる。だがこの試合ではその最初の試みで躓くこととなってしまう。ブローダーセンが自陣でのFKを繋ぐ形で始めたところから、CHの田部井に向けられたモノだったのかシャドーの太田に向けられたモノだったのかが曖昧だった田上の縦パスを愛媛FCの選手が引っ掛け、セカンドボールを回収した松田がスムーズに前を向いた形からペナ外からのミドルシュートを決めて愛媛が先制に成功する。

 この試合、オリジナルフォーメーションがオーソドックスな4-4-2である愛媛に対して、グレイソン・木村・太田の3トップを起用してきた岡山。試合前の木山監督の考えを推測してみると「おそらくプレッシャーのかけ合いになるだろうから、愛媛のミドルゾーンを空かす形で3トップにボールを入れて、フリックなりダイレクトに抜け出す形なりで愛媛の最終ラインの背後を取りに行く」という意図を持っていたのだろう。実際に岡山は、シンプルに3トップにボールを当てる展開からセカンドボールを拾って前進するというよりはダイレクトに愛媛の最終ラインの背後に抜け出そうとする形を試合の立ち上がりから何度か見せていた。

 木山監督にとって誤算だったかもしれないのが、愛媛が思ったよりもプレッシャーをかけに来なかったこと。愛媛は2トップの松田・石浦が岡山のバックラインに対してそこまで強くプレッシャーに行かずに、4-4-2のミドルブロックで最終ラインもあまり高く設定しているわけではなかった。こうなると岡山としては前述した3トップに展開しての狙いを出すのが難しくなる(⇒①背後のスペースが狭くなりGKの辻が処理しやすくなるため ②谷本・深澤が3トップに出されるボールを回収することに意識を向けやすくなるため)。愛媛がプレッシャーをかける形を見せなかったのは早い時間帯に先制することに成功したからなのか、岡山にボールを持たせても問題ないと判断したからなのかは分からない。もしかしたら愛媛の石丸監督にとっても誤算だった(⇒本当はもっと高い位置からプレッシャーをかけたかった)のかも分からない。

 前述の理由からミドルゾーン付近でボールを保持する時間が長くなった岡山。バックラインから保持する時の形としては左から田上-柳(育)-本山の3CBに藤田・田部井の2CHというオーソドックスな形であることが多かった。4-4-2のミドルブロックで縦横コンパクトに守ろうとする愛媛に対して、岡山の攻めはまずは3トップが愛媛の4バックを意識させるようなポジションを取るところからスタートしていた。CFのグレイソンが愛媛の2CB(森下・小川)を引き付けて、シャドーの木村・太田が愛媛のCB-SB間に立つことで愛媛のSB(尾崎・前野)の意識を内側~中央に絞らせる。そうすることで岡山は末吉・柳(貴) のWBを大外でフリーにさせる形を作ろうとしているようであった。

 まずは中央を閉じて守る愛媛に対して岡山はバックラインからサイドに展開する形が多くなる。そうなると当然岡山のWBをフリーにさせるわけにはいかない愛媛は、サイドへの展開に対してオーソドックスにSBが付いていく形が多くなっていたのだが、岡山はバックライン or CHから大外への展開で愛媛のSBを引き付けたところで3トップ(特にシャドー)が愛媛のCBをサイドに引き出して、そこでできた内側のスペースを使ってニアゾーンを取っていくのを攻めの狙いとして持っているようであった。大外で起点を作り、ボールサイドのCH-WB-シャドーの連携で大外~内側のエリアを前進、そこからニアゾーンを取っての折り返し or ペナ角からのクロスという二択を作るというのが形だろうか。特に岡山の右サイドでは、藤田-柳(貴)-木村の3枚を中心にそういった狙いがうかがえる攻めを複数回見せていた。ただ、愛媛のやり方との噛み合わせの問題というよりは岡山の事情という意味で、この試合での岡山の攻めが愛媛にとって本当に脅威になっていたかと言われれば微妙なところであった。

 一つ目は「右サイドではある程度形ができていたが左サイドではそういう形を作ることがほとんどできていなかった」ということ。左ワイドの末吉が一度ボールを受けたらまず自分で仕掛けるタイプであるということもあるが、左のシャドーがメインであった太田が最初のポジションでボールを受けることができてもそこから前を向いたり相手のCBをサイドに引き出すようなアクションを起こしたりすることがなかなか難しく、ワイドで受けた末吉が孤立してしまう形が多くなっていた。右サイドのようにシャドーとWBで連携を取ってスペースを作っていこうとする形がないと、そこからCHが関わっていくのは難しい。それでも何度か田部井はニアゾーンを取ろうと走り込むアクションを見せてはいたが、単発であるのは否めなかった。

 もう一つは「サイドからの攻めにおいてバックライン、特にサイドCB(田上・本山)の押し上げが不足していた」ということ。これは両サイドでの攻めに言えることであるが、この試合での岡山はCBの3枚が近い位置で留まっていることが多く、本来のサイドからの攻めにおける攻撃の始点の役割、そしてそこからのボールサイドでのサイドCB-CH-シャドー-WBの4枚での関係性を作る形が非常に少なかった。サイドCBの攻撃の関わりが少ないと、愛媛としては自陣での守備においてSH(窪田・茂木)をいざという時のプレスバックに向かわせることができるようになるし、ボールを回収してからのカウンター攻撃の尖兵となることもできる。実際に愛媛は、自陣でボールを回収したところで石浦を中継点にそこからSHを走らせるカウンターの形で何度かシュートに持って行くことに成功していた。

 それでも岡山は愛媛のトランジションに対する振る舞いは概ね悪くなく、藤田・田部井の2CHと逆サイドのWBがすぐに内側に絞ってプレッシャーをかけてセカンドボールを回収する形を作ることができていたし、最前線の松田に当てようとするボールに対しても柳(育) を中心に最終ラインが迎撃することができていた。こうしてミドルゾーン~愛媛陣内で二次・三次と保持すること自体はできていた岡山であったが、攻めが閉塞気味であったもう一つの誤算としてグレイソンで起点を作る形がなかなかできていなかったところがあった。要因としては、①木村のようにサイドに流れたり背後に飛び出したりするアクションよりも起点を作ることを優先する太田のアクションと重なることが多かったこと ②愛媛のCB、特に森下が最大級に警戒し、加えて2CH(谷本・深澤)と挟むようにプレッシャーをかけていたことがあるだろう。前半は愛媛が1点リードして折り返すこととなった。

背後狙いと愛媛のシステムチェンジ

 HTで木村→ガブリエル シャビエルの交代を行った岡山。後半は初心に帰ってか、まずは3トップ(WBも含めてであるが)がダイレクトに愛媛の最終ラインに当てる形から背後に飛び出す形を狙うようになっていた。そのため後半立ち上がりの岡山は3CB-2CHが自陣寄りのミドルゾーンでボールを持ったらあまり手数をかけないでボールを前に展開する形を増やしていたのだが、この振る舞いは愛媛の後半になってからのやり方と悪い形で噛み合うこととなってしまっていた。

 愛媛は後半から4-4-2のミドルブロックではなく右SHの窪田が最終ラインに入る5-3-2のミドルブロックを敷く形を取るようにしていた。前半の4バックではどうしてもズレがあったのを5バック気味にすることで岡山の3トップ+WBを前で捕まえて、ボールを引っ掛けたところでのセカンドボールに対しても前半の2CHではなく茂木が加わって中盤が3枚になることで回収する形を作りやすくなるという狙いだろう。前述したようにバックラインやCHからのダイレクトな展開が増えて縦に間延びしやすくなっていた岡山の事情もあって、後半になっての愛媛は自陣でボールを回収してからのカウンターで岡山のゴール前までボールをスムーズに運ぶ形を多く作ることができるようになっていた。

 岡山もさすがにこのままだとまずいと判断したのか、60分辺りで仙波・吉尾を投入。グレイソン・齋藤(太田との交代で途中投入)が2トップ気味になって愛媛の最終ラインの背後を狙う大方針は変わらずも、シャドーのシャビエルが下りることで藤田・仙波の中盤の+1となる役割となり、一度中盤でボールを落ち着かせることで全体を押し上げて縦への間延びを防ごうとする狙いがあったのだと思う。左ワイドに入った吉尾がボールを落ち着かせることで左サイドCBの本山を押し上げさせる形を作っていたのが地味に良かった。

 中盤でボールを落ち着かせて、そこからサイドCBが押し上げる形を作れるようになってきた岡山は、シャビエル→グレイソンへのダイレクトな展開を見せつつ5-3-2気味で中央を閉じる愛媛に対してWB-サイドCB間のスペースに抜け出す形をメインにしてサイドから切り崩そうとしていた。その形で右ワイドに入った末吉が折り返しを愛媛の選手にぶつけてCKを獲得したが、そのCKから岡山は最初の同点ゴールを奪うことに成功する。ショートCKで始めたシャビエルがファーサイドを狙ってクロス、ファーにいた本山の折り返しが深澤に当たってオウンゴールで1-1。

籠城戦を崩すには

 スコアを振り出しに戻すことに成功した岡山であったが、その直後に愛媛にセットプレーを与え、深澤のFKから小川の勝ち越しゴールを許すことになる。深澤のインスイングのボールはスピードも曲がりも非常に良いボールではあったが、前節の横浜FC戦での福森のプレースキックもそうであったがあまりにもあっさりと自分たちが守るべきエリアを横切られすぎではないだろうか。だが愛媛に2度目のリードをもたらしたゴールの直後、岡山の左サイドで吉尾がパク ゴヌ(茂木と代わって途中投入)にカニバサミのようなタックルを受けてパクは一発退場。軸足にダメージを受けた吉尾はルカオとの交代を余儀なくされることとなってしまった。良いプレーを見せていただけに長期欠場とならないことを願う。

 リードしている状態で数的不利、残り時間はおよそ15分とATということもあって、愛媛は自陣ゴール前での籠城戦を敷くこととなっていた。岡山はシャビエルがフリーマンになりながらの4-2-4のようなフォーメーションでこの籠城戦を崩しにかかる。4-2-4とは書いたが4バックとは名ばかりで、末吉と柳(貴) はワイドの高い位置を取るので実質柳(育) と本山との2バックである。

 岡山は愛媛のBOX内に放り込むというよりは、再び左に入った末吉の仕掛けを見せ金に、シャビエル-仙波-藤田の3枚に本山が加わるような形で愛媛のバイタルエリア付近でボールを保持、左サイドから5枚のうち誰かがニアゾーンに侵入する展開から折り返す形をメインにすることでグレイソン・齋藤・ルカオ・柳(貴) のパワーを放り込みからの起点に使うのではなく、シンプルに得点に使おうとしていた。ここで藤田や仙波がシャビエルに頼るのではなく、シャビエルを使って愛媛の選手を引き付け、仙波が持ち運ぶ形だったり、2人のパス交換による形だったりで愛媛のBOX内に侵入するプレーが見られていたのはとても良かったと思う。

 末吉の打開とニアゾーン侵入、左サイドからの切り崩しという名の岡山の力攻めが愛媛の籠城戦を崩したのはATに入ってからであった。シャビエルの左足での浮き球パス→ルカオのバイシクルでの折り返しに齋藤が頭で合わせた形でCKを奪い、その右CKのセカンドを藤田がシュートを打って再びCK獲得、左CKで仙波が素早くショートで始めてのクロスに対して再度齋藤が頭で合わせて岡山が2-2の同点に追いつくことに成功した。愛媛のゴールを含めて4点中3点がセットプレーからのインスイングのボールによるものであった。

まとめ

・イレギュラーな展開が多くなって本来の狙いとは異なる振る舞いを強いられていたこの試合までの135分(大分戦の後半~横浜FC戦の90分)を経た中ではあったが、チームの構造としては本来の「攻守両面での縦志向」「3トップとワイドとの関わりによる攻撃」というものを意識して振る舞うことができていたように思う。愛媛のやり方と噛み合わせた上での意図自体は決して悪くはなかったと思うが、本文でも書いたようにやはり精度不足による攻めの停滞感は否めないところであった。両サイドの攻めのバランスやバックラインからの押し上げをもたらせる存在としての鈴木の不在、シャドーのアクションの量と質を両立できる存在(⇒木村は量はこなせるが質がもう一声)としての岩渕の不在、そこにシャビエルや齋藤といった質と量とをもたらせる選手が復帰途上ということも重なって、攻めの停滞感を生み出してしまっているのだろうと思う。

・そんな中で、シャビエルと齋藤がいよいよ本格的に復帰してきたのは非常に大きなトピック。量と質とをこなせるシャドーの人員が増えることによって、木山監督による3トップの人員再編が行われるかもしれない。

・岡山にとって思い通りに行かないことばかりであった連戦の中で、藤田・末吉・本山のフル稼働には本当に頭が下がる。ただピッチに立ち続けているというだけでなく、クオリティを大きく落とすことなく維持できているというのが非常に素晴らしい。特に本山の集中力を切らさなかった被カウンター対応は、この試合での最低限の勝ち点を取りこぼさないで済んだ、まさにMOM級の役割であったと思う。

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