2019年の指針は見えたか~水戸戦~

スタメン

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 本当に442でスタートした岡山。水戸とはマッチアップする格好。

有馬岡山の自己紹介

 互いにロングボール→前プレで主導権を握り合おうとした立ち上がりの20分間、主導権を取ったのは岡山だった。理由は単純に岡山の前線の質的優位。イヨンジェ・赤嶺の空中戦で水戸CB陣に優位に立ち、水戸の最終ラインを下げることに成功。ヨンジェが最前線、赤嶺が少し下がり目でポジショニングする、昨季序盤戦にも見られたあの形。そこで前からプレスに行きたい水戸の第一、第二ラインとの齟齬でできたスペース(第二ラインと最終ラインの間)を岡山のSHやCHが利用してセカンドボールを拾うことに成功していた。またこの時間帯で、有馬岡山の特徴の片鱗が伺えた。

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ビルドアップ:最終ラインで繋ぐ意識強め

 プレシーズンからやっていたように、GKを使いながらCBの田中とチェジョンウォンが中心となってボールを保持、SBの喜山と廣木が横幅を確保しながら横に大きく動かすシーンが多かった。このときCHの上田と武田はあまり最終ラインに落ちる動きをしないで水戸の第一、第二ラインの間に滞留することが多かった。

 ビルドアップというのは相手を動かし、前列に時間とスペースを与えるのが目的とされているが、このビルドアップで相手を動かすことができていたか、と言われるとそれは正直疑問。意図的にロングボールを増やしていたとは有馬監督談だが、意図的というよりは、最終ラインで横に動かしてもそこから前列(主にCH)のポジションの取り直しが仕込まれておらず、結局前線に蹴る、というシーンも多かった。

4222におけるSHの役割

 岡山のシステムは、攻撃時はSHの仲間と久保田を中に絞った4222となっていたのだが、ここでのSHの役割に特徴があった。一つは中に絞って前線が競り合った後のセカンドボール隊になる役割、もう一つはSHの落ちる動きからハーフスペースでのビルドアップの出口になる役割であった。なお、CHもこのセカンドボール隊に加わる頻度がかなり高かった。

 前者は特に主導権を持てていた前半の20分間に特に顕著だった。ロングボールからのトランジションで素早く拾いに行く形で連続攻撃に持ち込むシーンが何度か見られた。仲間は昨季もそういう意識は高かったが、久保田も意欲的に出来ていた。一方で後者は、ビルドアップがあまり有効でなかったことから回数自体はあまり多くなかったが、何回か決まったときにはテンポ良く展開できているシーンもあった。

守備:とにかくコンパクトに、速く人を掴まえよう

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 442になったことで、一番の注目ポイントだったのが「守り方はどうするのか、とうとうゾーンディフェンスに取り組むのか」というところだったが、この試合を見る限り、どうやらゾーンではなく人を基準にして守るというのはこれまでと変わらない模様。ただ「アグレッシブ」というお題目通り、とにかくボールホルダーに積極的に掴みに行くというのは見受けられた。

 水戸がロングボール中心でシステム上マッチアップする回数の多かった立ち上がりの前半20分間は、全体のコンパクトさを保ちながら素早く人を掴まえる守備ができていた。

 ただ、ルーズボール直後はまだしも、一度水戸ボールに落ち着いてセットした状態の守備強度は極めて怪しいものがあった。これについては試合の流れ上後述。

攻守における水戸の工夫

 前半20分を過ぎてくると、水戸が第二ラインの守備を変更。前から行くのを若干修正して、岡山のセカンドボールに対抗するべく、セカンドボールを拾われていた最終ラインとのスペースを修正した。これによって水戸は落ち着いてセカンドボールを回収できるようになった。

 さらに攻撃でも、ロングボールを蹴るのではなく、ポゼッションによるビルドアップで組み立てる形に変更。特に水戸の左サイドからSBの志知を起点に、中盤(特にSHの木村)のポジションを落とす動きで岡山の守備を狂わせにかかった。

 恐らく水戸の長谷部監督は、立ち上がりの流れで「岡山が後ろから動かしても結局最後はロングボールしかないぞ」、「こちらがボールを動かせば芋づる式にスペースができるぞ」と踏んだのだろう。この読みが的確で、これで試合の主導権が水戸に移ることになってしまった。

 水戸の第二ラインの守備の修正でセカンドボールが拾えなくなり、そこから水戸にボールを落ち着けられた岡山は、ここからセット時の守備の脆さをどんどん露呈していくことになる。

①:サイド深くからボールを運ばれた時のプレス

 この試合、水戸のSBがボールを持った場合は基本的にSHの選手がプレスに入る形となっており、明らかに出遅れた状態でもプレスに行っていた。恐らく有馬監督から、とにかく行けというように指示されていたのだろうが、この状況的に劣勢なプレスから水戸のSBに時間を与えてしまう形が頻発していた。

②:SHがプレスに行った際のスペースのカバー

 岡山のSHが水戸のSBに当たりに行ったとき、そのSHが空けたスペースを誰が見るのかが徹底されていなかった。442の場合普通はCHが横スライドするのだが、そのスライドが遅れる若しくはできていないというシーンがいくつも見られていた。人を基準にして守るので、その辺りは組織的に仕込まれていない可能性がある。

③:相手にポジションを動かされた後の全体のカバー

 ①、②という部分的なカバーができていないので全体のスペースのカバーができないのも必然。水戸のSHが中に絞ってポジションを落とす動きにCHが釣られてしまって、そこの釣られたスペースを誰が埋めるのか、というのも管理されておらず、中央レーンのバイタルエリアで水戸に前を向かせてしまうシーンも多かった。正直3バック(5バック)時の人海戦術で最後を守る、という意識が抜けていない、という印象を受けた。

 これらは失点シーンを含む水戸の決定機にとても顕著に見られた。失点シーンは下動画の2:37より。

先祖返り?

 水戸に主導権を握られて以降、徐々にポゼッションから動かす形が見られなくなっていった岡山。要は主導権を取り返すことができなかったということである。特に先制されてからは前線が張りついてしまい、単調なロングボールを連発。CHも前に絡みたいのか後ろのポゼッションを落ち着けたいのか曖昧で、全体が間延びしてカウンターを浴びる形に。

 押し込んではいるものの全体的には水戸に脅威を与える攻撃は出来ていなかった。結局決定機になっていたのはヨンジェや仲間、途中出場のレオミネイロらの強引な個人技で囲まれても個人で何とかしていたプレーのシーンというのが何とも前政権時を思い起こさせる切ないモノがあった。

今後の見通しについて

 立ち上がり20分間の内容を考えると、如何に前線に良い形(≒相手のクリアが難しい態勢)でボールを入れることが出来るか、そこで後方からセカンドボールを奪いに行ける人数を確保できるか、というようなチームを作ろうとしているのかと推測。今流行りの言葉で言うと「ストーミング」ということになるのかな。ストーミングについては下記事を見てほしい。

 その中で安定してストーミングを行うためにも、ビルドアップを使って前線に入れるというのもしたいのかな、ということは伝わったが、ビルドアップ時の最終ライン-中盤(主にCH)のリンクのされていなさから、この試合を見る限りで前線に入れる形というのは、主にヨンジェに対してのロングボールを入れるという前政権と変わらないものであった。

 早いところ最終ライン~中盤でのビルドアップ経路(相手の第一ラインを突破して第二ラインを動かす形)だけでも整備が見られればと思う。SHが落ちる形から展開したビルドアップには可能性を感じた。

 より見通しがやばいと感じるのは442で一度セットした状態からの守備。相手ボールがサイドに行った状態で、SHが寄せに行くのは良いとしても、そこの空いたスペースは「CHが横スライドしてカバーするのか、それともSBが縦スライドしてカバーするのか」、さらに「次に空いたスペースは誰がカバーするのか」というスペース管理が徹底されていないというのは、精度とか連携とかという話ではなく根本的な組織管理としてかなりマズイ。ゴール前で耐えればいいじゃないかといったところで、結局この試合でも耐えきれずに失点してしまっているわけで。

 今の形でセットされた状態でも「アグレッシブに」行こうとすると、少なくとも第二ライン(SH-CH-CH-SH)の選手は「速くて」、「強くて」、「奪えて」、「運べて」という選手を買って来ないと務まらない気がする。

 そんなことは土台無理な話なので、なんでもかんでも行かないとか、SHではなくFWが横にズレて寄せるとか、CHが中央レーンから出ていく形を抑える、といったさしあたっての手当をしておかないと、この試合での失点シーン(+決定機シーン)は今後どの相手からも狙われる形になるという危惧は強い。

最後に 

 開幕戦で水戸という、しっかりと442による攻守が組織されたチームに組織力の差をレッスンしてもらえた、こちらの粗をしっかりと出させてくれる相手とやれた、というのは良かったと思う。チームとしての見通しは決して明るいとは言えないが、この試合を良い材料にしてもらい、最終節ではこの相手と組織としても五分以上に渡り合えるチームになってくれる事を期待します。

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