2019年ファジアーノ岡山振り返り企画~アグレッシブを考察する 前編~

 2019年の振り返り企画第2弾、今回は有馬体制1年目でよく使われていたワード、"アグレッシブ"について考えてみようと思います。和訳すると「攻撃的、侵略的」という意味を持つこのワードですが、2019年のファジアーノ岡山ではどういう意味合いをもって使われていたのか。今回はサッカーの4局面ごとの考察で今季の岡山を振り返り、最後に有馬監督にとってのアグレッシブとは何だったのかについてまとめていきたいと思います。

※サッカーの4局面とは
サッカーのプレーを分析する際に、攻撃・守備の2局面で分けるのではなく『攻撃』『攻→守の切り替え』『守備』『守→攻の切り替え』4局面で分けること。基本的にこの4局面が順番に推移してゲームは展開されるものと考えられている。野球と違って攻撃と守備の権利がハッキリ変わることがないサッカーに関しては、この考え方はもはや定番となっている。この4局面をさらに細分化することで、そのチームがどうプレーするのかを見ていくことができる。詳細は『モダンサッカーの教科書』にて。


2019年ファジアーノ岡山基本メンバー

 まずは2019年の岡山の基本メンバーを下図に示す。基本的に出場試合10試合以上の選手を記載することとする。見ての通り、今季のオリジナルフォーメーションは442。

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 負傷者が出た場合を除いて、基本的にスタメン、ベンチ入り、そして交代選手を固定化して戦ったシーズンであった。特にシーズンを折り返して22節以降は、中盤以下のスタメン記載の選手とイヨンジェがスタメンとしてほとんど出ずっぱりとなった。35節以降、特にラスト4試合になってスタメンの疲労と負傷者の多発によって固定化の弊害が如実に現れ、チーム内での競争力が来季以降の課題として突き付けられたと言える。

 ここからは、それぞれ4局面ごとに今季の岡山を振り返ってみたいと思う。まずはあらゆるチーム作りの基本となる『守備』の局面から。

1:『守備』

基本コンセプト:第一ラインから相手のボール保持にプレッシャーを与えることで、できるだけ高い位置でボールを奪いに行く

◎敵陣守備

 ここでの敵陣守備は、相手のビルドアップに対する守備のやり方をメインに見ていく。基本コンセプトにある通り、第一ラインから積極的に相手最終ラインでのボール保持にプレッシャーをかけに行く。特に試合の立ち上がり15分は、GKへのバックパスにもプレッシャーに行く姿勢を見せることが多かった。このような敵陣守備の狙いは、第一に敵陣でボールを奪い即相手ゴールに迫ること。もう一つは、プレッシャーを与えることで敵陣で奪いきれなくても相手の後方からのボール保持を妨害して意図しないロングボールを蹴らせてセカンドボールを回収すること。そのために最終ラインを高めに設定、各ライン間をコンパクトにして、セカンドボールを回収しやすくする。

 今季の岡山の最終ラインで起用された選手は、正面方向に相手を潰しに行く・パスカットをするのは得意という選手が多かったので、そういう特徴からしても、積極的にラインを上げての守備に取り組んだというのは理に適っていたと言える。特に新加入の田中は、CBを本職とするのは今シーズンがほぼ初めてながら、培ってきた豊富な経験を生かしてDFリーダーとして岡山の敵陣守備を最終ラインで支えていた

 GKにまでプレッシャーをかける敵陣守備から得点まで持って行った、今季の総決算的な得点の一つ。今となっては今季のターニングポイントとなったという意味でも、とても印象深かった一戦となった第36節徳島戦。

 敵陣でのプレッシャーのかけ方の基本としては、まず第一ラインの選手が相手最終ラインでのボール保持に対して縦パスのコースを切るようにチェックに行ってパスコースを限定する。そこから第二ライン以降の選手たちが、ボールホルダーをそれぞれ掴みに行くようにして第一ラインからのプレッシャーを連動させる形であった。

 敵陣守備は今季の岡山の中でかなり変遷を遂げて試行錯誤していった跡が見られたので、時系列を追って少し長めに振り返っていくことにする。言い換えれば今季の岡山にとって、敵陣守備は有馬体制の一丁目一番地であったとも言える。

 シーズンの序盤はオリジナルフォーメーションの442のままプレスをかけに行くことが多かった。4バックの相手が後ろを4枚のままでビルドアップしてきた時には、こちらの第一ライン2枚と相手のCB2枚が噛み合うので、プレッシャーが上手くかかって敵陣から狙いとする守備ができていた。(例:第1節水戸戦の立ち上がり15分)

 しかし、そもそも3バックでスタートする相手であったり、中盤の選手を最終ラインに列を下ろしてビルドアップする相手であったり、またGKを効果的にビルドアップに組み込める相手であったり、こちらの第一ライン2枚に対して後方を3枚以上にして噛み合わせをズラそうとする相手に対しては、第一ラインからのプレッシャーが上手くかからずに前進を許してしまうシーンも目立った。

 第一ラインとのかみ合わせが上手くいかないことで特に問題視されたのが、第一ラインがプレッシャーに行ったはいいが、パスコースを限定できずに第二ライン(特にCH)が連動できず、第一ラインの背後のスペース(=第一ライン・第二ライン間のスペース)が空いてしまってそこを起点に使われていたことであった。東京V(第11節)や京都(第13節)や横浜FC(第20節)など、後方からのボール保持による前進をメインにした、中盤の底でボールを持つことが上手い選手を保有しているチームには特に手を焼いていた。

 この問題(=第一ラインとの噛み合わせ上手くいかない問題)に有馬監督は、特に序盤戦はゲーム中の応急処置として一度第一ラインからのプレッシャーを抑えて、第一ラインをハーフライン(≒センターサークルの敵陣側頂点付近)まで撤退、中央を固めてまずは第二ラインとのスペースを埋めさせたり、ハーフタイムからプレッシャーに出る枚数を調整させたりすることで対処していた。問題を放置せず、すぐに何らかの手を打つ有馬監督の反応の速さ、修正の意識の高さは個人的にとても印象深かった。

 有馬監督はシーズンを折り返した辺りから、第一ラインからのプレスの行き方を、相手のビルドアップ隊の枚数に合わせて第一ラインの枚数を合わせる形に修正。例えば相手が最終ラインを3枚でビルドアップするなら、こちらも第一ラインを3枚にしてプレスに行くということである。より相手との噛み合わせを意識した敵陣守備のやり方に修正したと言える。第一ラインの枚数を増やすときには、多くの場合はSHを一列上げて第一ラインを3枚にしていたが、相手がCHをCB間に列を下ろすビルドアップをしてくる時には、こちらもCHが付いていくように列を上げてプレッシャーに行くこともあった。

 中盤戦以降は、前述したプレスのかけ方を修正したことと、第一ラインの選手の寄せ方の質が上がった(⇒背後のスペースを消しながらプレッシャーをかけに行くことができるようになった)ことなどの理由から、第二ライン以降の選手たちがより自信をもって第一ラインに連動してプレッシャーに行けるようになったことで、シーズン前半に比べても相手に第一ラインと第二ラインの中間スペースを使われることが少なくなった。特に後半戦になっての京都や東京Vとの対戦では、相手ボール保持に対してのプレッシャーが上手く行くことで主導権を握り、良い内容のゲームをして勝ち切ることができるようになっていた。

 ホワイト体制から永井体制に代わったものの、5月と同じように後方からのボール保持をゲームプランにしていた東京Vに対して、敵陣守備で正面衝突で勝ち切れた試合。チームとしての積み上げ、確かな進歩を示したナイスゲーム。上動画1:40ごろからの仲間の同点ゴールはまさにその象徴。

    また夏場以降は、ピッチ上での状況によって自分たちの意思で「最初からプレッシャーに行かない」選択をすることも多くなっていた。例えばリードしている場合には、中盤で展開されないことを優先するために、あえて相手の最終ラインにボールを持たせて守るケースも増やしていた(例:第22節琉球戦)。敵陣からプレッシャーに行く時と行かない時のメリハリをつけることで、相手にスペースを与えないようにする合理的な選択ではある。
 ただし、これは夏場の猛暑を経て体力的にプレッシャーをかけに行くのが難しくなっていたことや、選手の組み合わせとして前から行くのが難しい試合があったこと(⇒組み合わせによって守備の強度にバラつきがあった、これは来季への持ち越し課題)などの、「プレッシャーに行けない」自分たちの事情による次善策であったことも考慮する必要はある。

◎自陣守備

 相手が自陣までボールを運んできたときの守備は、基本的に442の3ラインでゾーンを敷いて守る形。442同士でガッチリ噛み合った開幕戦(水戸戦)では、目の前の相手に付いていくマンツーマンのように見えたが、第2節以降は3ラインを縦横にコンパクトにしてまずは中央のスペースを相手に与えない、ライン間を使わせないようにしていた。

 守り方としては、まずは442のブロックを中央に圧縮、中央のレーンで相手が縦にパスを出せるスペースを潰し、相手のボールの動きを外に誘導させる。上手く相手をサイドに誘導できたら全体をボールサイドにスライドしてプレッシャーをかけに行き、そこで取り切れればベスト。取り切れなくても後ろに下げさせるまたはプレッシャーに負けて大きく蹴り出す形にできればよし。見てわかる通りオーソドックスな442での守り方である。相手をゾーン3(=ラスト1/3のエリア)に入れないように、できるだけ最終ラインを高く保とうとしているのも特徴であった。

 このように、自陣で守っているときも、できるだけ自分たちのゴール前から遠ざけて守ろうとするのが今季の岡山であった。相手にゴール前にどんどん放り込まれて、ペナ内に押し込まれても守り切れるような耐久力に不安があったとも言える。実際に、終盤こちらがリードした展開で相手がパワープレー気味にボールをどんどん放り込んできて、自然とペナ付近まで全体が押し下げられた状態になって追いつかれたり勝ち越しを許したりする場面が特に序盤戦は多く見られた。ただ、自陣深くではね返せる濱田がCBに復帰して以降は、ゴール前での耐久力が少し持ち直した。

 自陣守備で特に大きな持ち越し課題となったのが、サイドに展開された時の対応であった。2011~2018シーズンまで岡山で長く使われてきた5バックと違って、後ろを4枚にしてどうやって横幅を守るのかというのは1つの注目点であったが、岡山はボールサイドのSBから順に横スライドして対処する形を取ることが多かった。これ自体は442チームのオーソドックスな対処法であるが、展開先の相手ボールホルダーにプレッシャーがかかり切らなかったり、スライド時に中のマークがずれたりすることで、サイドから崩されてピンチを招くシーンが多かった。そのため、相手にゾーン3まで押し込まれた時にはボールサイドのSHが下がって疑似的に5バック化、ペナ内を4枚で守ろうとするような試行錯誤も見られた。下動画は、サイドに大きく展開されてから細かく切り崩された失点シーン。前期の京都はボール保持がエグく、J2でこんなポジショナルなチームがあるのかと驚いた。前半は本当にボール取れないと思った。

 次は相手からボールを回収した直後のチームとしての動き、いわゆる『ポジティブトランジション』の局面について見ていく。

2:『ポジティブトランジション』(=守→攻の切り替え局面)

基本コンセプト:相手の背後を最優先に狙う。ただし無理にボールを捨てることはしない

◎敵陣からのトランジション

 敵陣でボールを回収できた場合、ほとんどはスペースを与えられたアタッカーが前に残っている状態である。そのため基本的には、シンプルにゴール前に迫る選択肢しかない。加えて今季の岡山には、イヨンジェと仲間隼斗という単独でボールを運べる推進力のある選手が2枚もいた。特にインターセプトやボール奪取数の多かった仲間は、敵陣でボールを奪ってそこからのトランジションのトリガーとなることが多く、自ら奪ってそのままドリブル⇒シュートまで持っていく選択をするシーンも見られた。

 『攻撃』の局面でも書くことになると思うが、今季の岡山の攻めのテーマが、「イヨンジェと仲間の持ち味を存分に生かす」ことであった。有馬監督としては、できるだけ敵陣での守備機会を増やすことで、よりエネルギーを残した状態&相手ゴールに近いエリアでイヨンジェと仲間の推進力を利用してチャンスを増やしたかったのではないかと思われる。

◎自陣からのトランジション

 一番に考えるのはロングボールを蹴ったりドリブルで運んだりする大きな展開から、そのまま相手の背後を狙うような形でゾーン3、ゴール前まで運んでいくこと。特に80分以降の試合終盤、相手がリスクをかけて人数を増やして攻めに出ているときには、前残りしていた選手がそのままドリブルで運んで陣地を回復、あわよくばゴールを狙おうとする。この役割も仲間が担うことが多かった。下動画は、自陣からのロングカウンターが完璧に決まったシーンである。相手の事情はあれど、前回対戦ではスコア以上にやられた京都相手に、スカッとするトランジションからのカウンターをかませた。

 またゾーン3付近まで運べないような場合でも、シンプルに手数をかけないで縦に運ぶ形で敵陣にボールを前進させることを優先していた。J2では攻めるときにSBを押し上げる形を取るチームがほとんどであり、上位でもSBを上げた後のスペース管理が良くないチームも見られる。岡山はそのスペースを利用するために、前線で残っていた選手がサイドに流れてボールを受けて起点化、自ら運べるなら前に運んでいこうとしていた。その場合のターゲットはイヨンジェになることが多かった。

 前述のように縦に速く前進させていく展開をトランジションの理想としてはいたが、シーズン前には「行ったり来たりの展開にはしたくない」とどこかの媒体で語っていた記事もあったように、有馬監督はボールを簡単に捨てることを望んでいるわけでもなかった。そのためボールを奪ったら縦一辺倒というわけではなく、前がボールを受ける準備が整っていないような時には、自陣でボールを回収したときに我慢して繋いで自分たちのボール保持を確立させようとするプレーも多く見られていた。その場合は、CHに預けて起点を作るか、仲間に預けてそこでキープするようにしていた。シーズン序盤は仲間のキープ力に依存していたところもあったが、上田と喜山の2CHの組み合わせがほぼ固定化されてからは、落ち着けどころが増えた印象であった。

 しかし、回収してからのボール保持を確立させる精度はあまり良くはなかったのが現状。シーズン中には「せっかくボールを奪ってもミスですぐに相手に渡してしまっていた」という有馬監督の試合後のコメントが多く見られていた。シーズン序盤はそもそもボール保持の確立の意識にズレが見られており、奪った後のチーム全体のポジショニングの問題からボールを失って逆にカウンターのピンチを招くことが多かった(例:第3節岐阜戦)。シーズン中盤以降はボール保持の意識は統一されたので、ポジショニングのミスというよりは単純に個人のスキルミスによるボールロストが目立った印象である。

 せっかく回収しても、周囲の準備ができていない&個人のミスによってピンチ→失点してしまった象徴的な形。特にシーズン序盤は失点に直結するようなエラーが多かった。

    2局面の振り返りだけでかなり長くなってしまったので、急遽前後編に分けて振り返ってみることにします。残りの『攻撃』『ネガティブトランジション(=攻→守の切り替え)』の局面の振り返りは後編で見ていくことにします。

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