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初日~J2第10節 ファジアーノ岡山VS水戸ホーリーホック~

スタメン

 両チームのスタメンはこちら。

中で構える水戸を外から動かしていきたい岡山

 今季から秋葉忠宏氏が指揮を取る水戸は、最終ラインをかなり高く設定しているチーム。ここまでで岡山が戦ってきたチームの中でも恐らく一番高いライン設定をしているはずである。これまでの試合でそうであったように、この試合でもンドカと細川のCB陣はかなり高いライン設定で試合を始めていた。それに対して岡山は、ポープや濱田からイヨンジェを相手最終ラインの背後に走らせるシンプルなロングボールで応戦する立ち上がりの5分間であった。

 しかし5分以降、岡山はイヨンジェにシンプルに放り込む形が減ることになる。その理由は、水戸が思った以上に前から圧力をかけて守備をしてこなかったため。水戸は前述の通り最終ラインは高めに設定してあるものの、第一ラインの中山と山口から相手のビルドアップ隊(この試合では田中や濱田のCB陣やバックパスの先のポープ)にハイプレスに向かう形は少なく、ある程度4ー4ー2のブロックを構えて守るようにしていた。恐らく水戸の第一ラインと第二ラインの間で受けようとする岡山の上田or白井のCH陣に入るパス、そしてその先にいる上門や三村、前線から下りてくる清水への縦パスを警戒する意図があったのだと思う。

 水戸の守備の形によってボールを持つ時間を与えられた岡山のビルドアップ隊は、田中と濱田に加えて上田か白井のCHのどちらかが最終ラインに列を下りて3バックを形成するサリーダの形が基本線となった。中央への縦パスコースは水戸が閉じているので、3バック+ポープでボールを保持、SB(徳元・椋原)に広げてプレッシャーのかかりにくいサイドで起点を作り、水戸の横ズレを誘って、サイドから中央、具体的にはFWやハーフレーンに絞るSHに斜めのパスを入れて、そこからそのまま中央突破を狙ったり、一度CHに戻してからのサイドチェンジを交えたりすることで前進を狙っていく。

 特にこの形を狙っていたのは徳元が起点になっていた左サイド。徳元は積極的に清水や上門に斜めのパスを入れて、そこから水戸の動きをうかがうというプレーが頻繁に見られた。また岡山は左サイドでボールを持った時は、徳元、上門、清水と流動的にポジションを変えて、そこに上田もしくは白井が絡んでいくことでゴール前への侵入を狙っていくようにしていた。
一方で右サイドは椋原がボールを持つとそのままアーリークロスか、イヨンジェをサイド奥に走らせるボールを入れるか、というシンプルな形。積極的に徳元からのパスを引き出す左SHの上門に対して、右SHの三村は中央~ハーフレーンでパスを受けるというよりは、逆サイドからのボールに対してゴール前に入るという役割のように見えた。
また流動的な左サイドに対して、右サイドの椋原と三村とのポジションは固定的だった。流動する左サイドと固定する右サイドとでバランスを取っていこうとしていたのだろう。

 このようにサイドからボールを動かす回数が増えることになった岡山だったが、イヨンジェを水戸の最終ラインの背後に走らせる形を忘れていたわけではなかった。立ち上がり5分よりは頻度は減っていたが、イヨンジェの背後を狙う動きに合わせて濱田や田中、上田からロングボールを入れるシーンは何度か見られていた。イヨンジェ目がけてのロングボールに対して、水戸のンドカの動きがちょっと不安定に見えた

取りに来る岡山を中央から動かす水戸

 このように序盤からボールを持つ時間が長い岡山だったが、実際にシュートの形まで持って行くことができていたのは水戸の方であった。水戸はボールを奪うと前線の中山を起点に後方から攻め上がる時間を作り山口や松崎のドリブルでボールを運ぶことでカウンターの形を作っていた。中央に人数をかけてシューターを送り込む意識が強く、右サイドで運んで、逆サイドの森がシュートを打つという形が特に多かった。

 ボールを奪って、一度CBでボールを落ち着かせたときの水戸が攻撃のスイッチ、縦にスピードアップするためのスイッチにしていたのが、岡山のCHがボールを奪うためにポジションを動かした時。CH-CB間でできたスペースに中山が入って、そこで縦パスを受けるプレーからスピードアップする形を狙っており、実際にこの形から岡山の最終ラインが無防備になってしまうことが何度か見られた。

 水戸がボールを持った時の岡山は、第一ラインの2枚がパスコースを限定させて、CHがポジションを動かしてSH(高い位置を取れるときはSBも)と連動してミドルゾーン、できればゾーン2の敵陣エリアでボールを取る形を狙っていた。岡山の守備はネガトラ以外でも、また前からのプレスがかかり切っていない状態でもCHが頻繁にポジションを動かすので、相手CHを動かして起点を作り、中央に人数をかけてワンタッチとドリブルで打開していきたい水戸の攻撃の狙いと自然とハマってしまうことが多かった。

 徐々に水戸がボールを保持する形が増えてきた中で、飲水タイムから間もない29分の水戸の得点は、まさに水戸の中央打開の狙いがハマった形のゴール。平野の縦パスをスイッチに松崎→森とワンタッチで繋がって森がペナ内に侵入、遅れてマークに入った椋原を剥がしてシュートコースを作ってのシュートで水戸が先制。岡山としては、水戸が中央に人数をかけて攻めてくると分かっていながら平野、松崎、森にそれぞれプレッシャーをかけ切れずに中央を突破されての失点だった。三村と椋原の右サイドのラインの連携が取れておらず、椋原が大外の外山に意識が向かってしまったときに、三村もプレスバックできずに森をフリーでペナ内に侵入させてしまったところが痛かった。

先制に成功して意気上がる水戸は、より中央に人数をかける意識を高めて、CHとSHが中央に寄ってのスルーやフリックといった近い距離でのコンビネーションから岡山のCHを動かしてスペースを作り、敵陣で起点を作る回数が増えるようになっていった。

 縦パスを入れて思惑通りにスピードアップできていた水戸に対して、前半の岡山は、SBからの斜めのパスを入れようとしても、ボールが入る前、そして入った後の選手の動きが乏しいので、中央の安東や平野を動かすことができずに、仮に狙い通りにイヨンジェや清水などにボールが入っても水戸の選手の方が多い状態になっていた。前半のボール保持率は岡山の方が高かったものの(DAZN集計で岡山が53%)、インプレーからのシュートは25分の上門が打った1本のみであった。

盤面が変わった内的要因と外的要因

 0-1で折り返した後半、ほぼファーストプレーといっていい時間帯でゲームが動く。徳元のロングスローに対して左サイド奥に走りこんだイヨンジェがそのままペナ内に突入、折り返しをカバーに入った細川がハンドリングしてしまいPK。そのPKを上田が決めて岡山が同点に追いつく。(一連の流れは下動画0:45から)

 前半はイヨンジェ以外のFW、SHの選手(清水とか上門、三村)が水戸のライン間で足を止めてボールを待つ傾向の強かった岡山だったが、後半になるとまずは水戸の最終ラインの背後に抜ける動き、特にCB-SB間を抜けるチャンネルランを増やすようになっていった。前線だけでなくCH(特に白井)やSBも高い位置まで走りこんで、まずは水戸の最終ラインを下げていこうとしているようであった。
 一方で前半から背後に抜ける動きを見せていたイヨンジェは、後半になると意図的にンドカをターゲットにして仕掛けていく形を増やしているようでもあった。前述したように、この日のンドカはロングボールの対応で自信なさげで不安定な部分を前半から露呈していた。そのため岡山は、後半になるとチームとしてイヨンジェとンドカを並走させるロングボールを増やしていった

 後半になって、水戸の最終ラインの背後を狙うことでボールを持たない選手の縦の動きが出るようになった岡山。これで水戸の最終ラインを押し下げることで徐々に敵陣でスペースができるようになると、53分に勝ち越し点。上田からのパスを左サイドで徳元がキープすると、徳元からもう一度戻した上田が縦パス、水戸の安東-平野の間に下がって受けた清水から上門にワンタッチで通し、バイタルで受けた上門がミドルを決めて2-1。(下動画1:35から)
中央への縦パスから一気にスピードアップさせてのコンビネーションによる崩しから生まれた上門の岡山移籍後初ゴール。シュートに至る流れもシュートの形も非常に素晴らしかった。

 上門の得点シーンの流れでも顕著なように、後半の水戸は岡山の前線に前向きにアタックされることで下がり気味になる最終ラインと、前残りでカウンターに備えたい前線との間で中盤が板挟み状態になってしまい、各ライン間のスペースが間延びがちになっていた。そうなると岡山は上田や白井が水戸の第一ラインの背後で前を向いてプレーできるようになり、CB-CH間で前半以上に余裕を持ってボール保持を行えるようになっていった。

 後半になっての岡山のボール保持周りで際立っていたのが左SBの徳元。相手と正対してボールを持ってパスコースを複数作ることのできる、そして斜めに鋭いくさびのパスを入れられる徳元が水戸の選手を引き付けると、その引き付けてできたスペースを上田や上門、清水が利用してボールを受けることで、左サイドで上手くボールを保持して時間を作ることができていた。左サイドから決して無理して縦に入れるのではなく、ポープまで下げてやり直しを図ることができていたのも、リードを奪った心理的余裕からだろうか。イーブン状態の前半からそれができるようになりたい。なお、徳元はポープや濱田がボールを持った際に、左サイドを駆け上がって水戸の最終ラインにフリーランを仕掛ける動きも行なっていたことを付け加えておく。

 徳元のキープからライン間でフリーになった上田が右大外の椋原にサイドチェンジ、関戸(⇒64分に三村と交代)のチャンネルランからイヨンジェに折り返した66分の形は、まさに左でボール保持して右に展開してスピードアップさせる理想的な形であった。
岡山は67分、前述した形でできたCKの流れからケチャップの蓋が取れた上門が追加点。(下動画2:10から)

 後半になって岡山に一気に盤面を変えられてしまった水戸は、深堀や山谷、ピットブルといった流れを変えるための交代カードをどんどん切っていくのだが、カードを切るたびに徐々に攻撃が沈黙。中央打開をしていきたい水戸だったが、水戸の選手が多くが前線に張り付いてしまって動きが少なくなっていたので、岡山は4-4のブロックで中央を閉じて、中盤と最終ラインの間で前を向かせないことを徹底することで守ることができていた。ピットブルへのボールは怪獣ハンター濱田と白井のプレスバックで回収し、右大外に展開しての山谷や前嶋の仕掛けに対しては徳元が1on1でほぼ封殺。82分に田中が負傷交代したのは痛手であったが、チェジョンウォンや赤嶺など、2点差にしてから入った選手たちがしっかりゲームに入ってクローズ。そのまま岡山が3-1で逃げ切り。

総括

・ハイプレスで来るだろう、という予想に反して第一ラインから4-4-2のブロックを形成して守る形で入った水戸。暑さを考慮しての路線変更だったのだろうが、前半はまだしもロングボールの対応に不安要素のあったCBのンドカがより晒されるようになった後半に一気に不安定さを露呈してしまい、修正が効かないままに3失点。4-4-2ブロックで守るチームがCBで弱みを見せてしまうと、やはり守り切るのは厳しかったか。次の試合は原点回帰のハイプレスに戻るのか否か。
 最前線で中山が起点となって、そこから3シャドー気味の山口、松崎、森が仕掛けていく形がメインだった水戸の攻撃。頑なに近い距離での崩しにこだわっていたのは秋葉監督の思想なのだろうか。何度か平野がサイドチェンジで右の大外の岸田に展開して、という形が見られたが、中央突破と逆サイド展開の2択ができるようになればもっとチャンスが増えそう。

・およそ半年ぶりのホームでの勝利となった岡山。前半から徳元の左サイドを中心にボール保持、サイドから斜めに入れるくさびのパスを狙っていく攻撃のアウトラインはあったものの、パスを受ける動きの不足、背後を狙う動きの不足から水戸のCH-CBを動かしきれず。一方で後半は、水戸の最終ラインの背後を狙う動きを増やしたことで最終ラインを下げさせ、そこから芋づる式に水戸陣内にスペースを作って運ぶ形で得点まで持っていくことができた。
 特に上門に初日(=今季初ゴール)が、しかも清水への縦パスからのバイタルでのコンビネーションという、上門にとってもチームにとってもある意味求めていた形で生まれたのは、今後の連戦を考えても非常に弾みの付く形だったのではないだろうか。また、3点目につながる徳元→上田→椋原へサイドチェンジ→関戸のチャンネルランからペナ内に折り返し、という左から右へ大きく展開していく運び方は個人的に非常に好み。
 この日の水戸は前からプレッシャーをかけてくるチームではなかったが、前からプレッシャーをかけていく相手に対して、岡山のボール保持の形がどう出るか。次節の栃木戦は早速試されることになりそうである。

・保持時も非保持時もポジションをどんどん動かしていく今季からの新しい取り組みを試合の中で打ち出し、結果として勝ち切れたというのは今季初めてではないだろうか。非保持時にもCHを動かしてミドルゾーンから高い位置で取り切る守備は相手に逆用されるシーンがまだまだ多く、収入と支出のバランスが取れるのかどうかは結構気がかりな部分だが、負けてしまってはどういう塩梅でやればいいのかの物差しにならない。勝って反省し、次に調整するということが大事である。

試合情報・ハイライト

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