足場固めのスコアレス~J2第14節 大宮アルディージャ VS ファジアーノ岡山~

スタメン

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SHのポジションを巡る攻防

 試合の立ち上がり、5分~10分前後は岡山がCBの阿部や井上、GKの金山から大宮の最終ラインにシンプルなロングボールを蹴り込んでいく。このロングボールを前線の山本や川本が競った後のセカンドボールに対して、中盤の白井と疋田を中心に強いプレッシャーをかけていくことで、大宮がボールを回収しようとするところの落ち着きを奪い、雑なパスにさせることで再び岡山が回収。こうして試合の立ち上がりは、岡山が大宮の陣内でプレーする時間を増やすことに成功していたと言える。できるだけ高い位置で相手のボールにプレッシャーをかけに行くのは、4-4-2のブロックを組んだときの自陣での耐久性に弱みを持ったメンバーということを考えても悪くない選択である。

 ただ岡山がいくら若い選手が中心となっている編成とは言え、前に蹴る→プレッシャーに行く、というやり方をずっとできるわけではないので、10分を過ぎたあたりから大宮が後方で回収したボールを落ち着かせることができるようになる。大宮が後方からボールを運んでいこうとする時の形は、櫛引と山越のCB2枚にCHの小島か三門かのどちらか1枚が列を下りるというもの。SHの小野と黒川が内側、というよりは中央にまで入っていくことでCHの1枚が下りた分を担保、横幅は基本的にSBの渡部と馬渡が取ることになっていた。大宮のビルドアップに対して岡山は、山本と川本の第一ラインから相手のボールにプレッシャーをかけようとするいつも通りの形。まず山本がボールホルダーに向かい、川本が一列前にいる大宮の中盤をマークしつつ山本の加勢に向かう、というものであった。

 しかし(特に序盤)岡山の第一ラインからの守備は、大宮のビルドアップになかなか規制をかけきれない場面が目立っていた。これは山本と川本のプレッシャーに行く強度の問題というよりは、大宮のSHのポジショニングによるものが大きかったように思う。中央にまで入り込む黒川と小野の動きは、第一ラインのプレッシャーに連動して高い位置を取っていきたい岡山の中盤にとって非常に厄介な動きとなっていた。岡山の中盤としては、大宮のSHに対してSHの上門や木村が見るのか、それともCHの白井と疋田が見るのか、その部分ではっきりしない対応が目立っていた。第一ラインの山本と川本はプレッシャーに行くが、中盤の4枚がそれに合わせて行ききれないと、大宮に第一ラインと中盤の間のスペースをどうしても使われてしまうということになっていた。またアバウトなボールを入れたときのセカンドボールを巡る攻防でも、岡山は黒川と小野のポジショニングに手を焼いており、セカンドボールを前向きに回収できない、回収できてもすぐにプレッシャーをかけられるというような状況になっていた。

 第一ラインからの守備がハマらない岡山に対して大宮は、内側~中央のミドルゾーンでボールを動かし、そこからオープンサイドとなった大外に展開するのが攻撃の一つの狙いとなっていた。大外に展開するときのターゲットとなっていたのは右サイド、しっかりとボールを受けることができてそこから前に運べる選手である馬渡であることが多かった。馬渡は前にスペースができていれば内にも縦にも仕掛けることができるので、馬渡に展開されたときに最初のマーカーとなる左SBの徳元にとっては難しい対応を迫られていたことは間違いない。しかし、町田戦や千葉戦では逆サイドに展開されたときに慌てて前に出て距離を詰めようとして剥がされるシーンが目立っていた岡山だったが、この試合での対応は慌てて詰めるのではなく、まずは大きな距離をゲインされないこと、そして前進を遅らせることでSHやFWのプレスバックだったり、ゴール前の帰陣を間に合わせることだったりを強く意識しているようであった。

 この試合の自陣で守っているときの岡山は、横幅を使う大宮に対してブロックが横に引っ張られるのを何としても避けるように、4-4-2のブロックをペナ幅で守る意識、CBの井上と阿部を筆頭にシューターの前に立つという意識が非常に高かった。大宮が前述したような流れで一度サイドに展開してもそこから詰まることが多かったのもあってか、大宮にボールを運ばれたときも岡山の守備が危ないと感じるシーンはそこまで多くなかったように思う。岡山の守り方を考えると、大外にボールが出たときにそれに合わせて前線の中野やハスキッチだったり、CHの三門や小島だったりがサイド奥のスペースに走り込む形から折り返す展開がもっと多かったら危なかったかもしれない。大宮の攻撃で中野がペナ内でフリーでシュートを打てたシーンは、岡山の陣形がやや崩れていたとはいえ、岡山の守備が中で守る意識が強すぎるあまりに中野にボールが入る前の外→内への仕掛けを押さえられなかったことから生まれている。

 とりあえず自陣深くで守ることはできており、失点のリスクは減らすことはできているここまでの岡山。ここから肝心の第一ラインからの高い位置でプレッシャーをかけに行く守備をどう修正するかであったが、飲水タイムが明けて少し経った27分あたりから、SHの上門と木村のポジショニングを微調整した感じであった。それまでは大外に広がった大宮のボールホルダーに対してSHが遅れ気味に寄せに出ていたのだが、背後を気にして後ろ髪を引かれるように前に出るくらいなら、まずはSH-CH間のスペースを空けないこと、中央に絞る大宮のSHに使われないことを優先するようにしているようだった。

 こうして岡山はSHのポジショニングが落ち着いたことで、大宮のビルドアップに対して規制をかけることができるようになっていった。簡単に内側~中央のエリアを使われなくなったことで大宮の最終ラインがボールを横に動かす回数が増えてきた中で、第一ラインの山本と川本がコースを限定するようにプレッシャーをかけると、それに合わせて中盤の4枚がボールサイドにスライド、大宮のSBがボールを引き取ろうとしたところで岡山はSBの徳元や河野が詰めることで、大宮のビルドアップをサイドで追い込む形を作ることができるようになっていた。それでも大宮は何度か内側~中央のエリアで小島あたりがボールを受けようとするシーンがあったのだが、岡山はSH-CH間で前を向かせないようにして、第一ラインのプレスバックで中央でのボールの出しどころを追い込むこともできるようになっていた。

 こうして前からの守備の形を調整した岡山。これによって大宮は前述した27分あたりから、それまで作れていたミドルゾーンを経由してからのオープンサイドに展開して前進させていく形がなかなか作れなくなっていった。そうなると大宮は中野だったりハスキッチだったりを岡山の最終ラインの背後に走らせるようなボールを増やしていくのだが、こうしたボールに対してはCBの井上と阿部が中を向かせないように相手に寄せることで、味方のゴール前への帰陣を間に合わせる時間を作ることができていた。大宮がボールを前進させることが難しくなったことで、ミドルゾーンでのセカンドボール争いがより重要になったわけであるが、SHのポジショニングを修正した岡山は上門と木村がそのセカンドボールを回収することができていた。

試合を動かそうとする岡山の最終ライン

 ここまでは大宮のボール保持に対する岡山の振る舞いについて見てきたが、ここからは逆に岡山のボール保持時の振る舞いについて見ていく。最初に書いたようにこの試合の立ち上がりの岡山は、最終ラインやGKからシンプルに大宮の最終ラインにロングボールを蹴り込んでいくようにしていたのだが、試合が落ち着いてからも、後方でボールを持ったときの岡山が優先的に選択していたプレーは、大宮の最終ラインへのロングボールとなっていた。より具体的に言うと、前線の山本や川本を大宮のCB-SB間のスペースに走らせるボールを入れていくというものであった。大宮の最終ラインは高めに設定されていたこと、SBのポジショニングがかなり外に意識が向いたことからも、ボールを持ったときの岡山としてはここでできるスペースに早めにボールを入れることで前進を図っていきたいという思惑があったのだろう。

 主にロングボールの発射点となっていたのはCBの井上と阿部。それなりに球足の速いボールを蹴ることができる2人なので、大宮のCBも簡単にクリアをするのが難しいボールとなっていた。岡山が後方でボールを持っているときにCHの白井と疋田は最終ラインに列を下りるというアクションをあまり起こさず、最終ラインから出されるロングボールのセカンドボールを回収することが主な役割となっていた。CHが下りないこともあって、SBの徳元と河野はやや低いポジションを取っていた。そのため岡山のボールの動きとしては、最終ラインでの横の動きを中心にしたものとなっていることが多かった。

 この試合の岡山の最終ラインは比較的時間と余裕を持ってボールを持つことができていたのだが、それは岡山のポジショニングの工夫というよりは、大宮の第一ラインの中野とハスキッチがそこまで効果的なプレッシャーをかけることができていなかった部分が大きかった。白井と疋田が2枚とも前にポジショニングしていることが多かったので、自分の背後への意識が強かったゆえなのかもしれないが。前半の序盤は早いタッチでボールを離していた岡山のCBだったが、相手の第一ラインからあまり強くプレッシャーに来ないと分かってからは、ボールを止めて前の状況を確認してみたり、少しボールを前に運んでみたりするプレーを加えるようになっていた。また、メインの形となっていた大宮の最終ラインの背後を狙ったロングボールと見せかけて、手前のスペースにグラウンダーの縦パスを入れようとする、ワンパターンにならないようなプレーの工夫も見られていたが、その縦パスは大宮にカットされてしまうことが多かった。

 最終ラインからのロングボールに対する岡山の前線とSHの動きは、前線の山本が外に流れるアクションを起こすところから始まることが多かった。山本の動きで大宮の最終ラインが引っ張られてできた手前のスペースで川本やSHの上門、木村が後方からのボールを引き出したり、セカンドボールを回収したりすることができたときには木村が左サイドからカットインする形で仕掛けたり、上門や川本のキープからSBやCHの攻め上がりを促したりすることで、ロングボールからの二次攻撃として厚みを持たせることができていた。前線がサイドに流れる動きが多かったので、上門や木村が実質的なFWのようなポジションで大宮の最終ラインに仕掛ける動きもいくつか見られていた。今の前線とSHの4枚は中央でもサイドでもそれなりに動きをこなせる選手たちなので、前がローテーション的にポジションを入れ替えていくというのは案外アリかもしれない。

 このように前半のボールを持ったときの岡山の振る舞いは意図としては十分に分かるものであった。しかし、ロングボール主体でサイドからボールを運んでいこうとする意図は見えても、敵陣のサイド奥のスペースにまでボールを運べた形はほとんど作ることができず。深い位置の折り返しから中央のエリアでボールを受けたり、中盤の選手がミドルシュートを打てたりするシーンはあまり見られなかった。30分以降はお互いの攻撃がラスト1/3のエリアに入る途中で止まってしまうことがほとんどとなってしまった膠着状態に入ってしまったこともあって、前半はスコアレスで折り返すこととなった。

ダイレクトに仕掛けたい大宮と裏返したい岡山

 後半の大宮は、前半に比べてダイレクトに縦への展開を増やしていくようになっていった。縦への展開といっても最終ラインから前線のハスキッチに放り込むというよりは、サイドへのロングボールを増やしていた。岡山が高い位置からプレッシャーに行くときにSBを上げてサイドの蓋をしようとすることから、SBの背後のスペースを狙うことで岡山のサイドからのプレッシャーを牽制する狙いと、前半の途中から中央にボールを入れてそこで手詰まりになることが見られていたので、よりシンプルにサイドからボールを運んでいこう(⇒岡山が中央を閉じることで大外はスペースができがちになる)とする狙いとがうかがえる後半の立ち上がりからの大宮であった。

 このように後半の大宮がダイレクトに、前への意識を強めたこともあってか、後半の岡山は前半よりもシンプルに大宮の背後のスペースを狙っていくようになっていった。47分の徳元のロングボールに抜け出した川本がシュートを打ったシーンがそうだったのだが、前がかりになったときの大宮は比較的CB-CH間が空きがちになり、意外と中央でスペースを与えやすくなる傾向があるようで、前半はサイドに流れたりポジションを下りたりしてボールをキープする役割が多かった川本も、後半になると前述のシーンのようなゴール前に走り込む形を増やすようになっていった。60分の木村の後ろからの浮き球をめっちゃボレーしたシーンなんかは、なかなかに圧巻なシーンだったのだが笠原の正面に当たってしまったのが不運だった。

 このように途中から膠着状態が増えてきた前半と比べると、立ち上がりから両ゴールの近くでプレーする回数が増えてきた後半の展開。その中で立ち上がりの10分~15分ごろまでは大宮のサイドへのロングボールで押し込まれる形を多く作られていた岡山だったが、ボールサイドのSHを第一ラインと同じ高さに押し上げて、CHをよりはっきりとボールサイドにスライドさせるプレッシャーの形が上手く機能し始めてからは、大宮の最終ラインに落ち着いてボールを蹴らせないようにすることができるようになっていた。前半途中のSHのポジションの修正は対処療法的なもので、後半からのプレッシャーの形がおそらく岡山が本来やりたい守備の形なのだろう。大宮は後方が落ち着かないと、横幅の高い位置を取りたいはずのSBが結局ボールを貰いに下がることになるので、馬渡の仕掛けを止めつつサイドからの攻撃を抑えるのには効果があったと思う。

 後半になってからの岡山の攻撃は、後方でボールを持ってのビルドアップというよりは高い位置からのプレッシャーで大宮に蹴らせたボールをミドルゾーン付近で回収してからの展開が多くなっていた。前半は特にセカンドボールを回収した後の繋ぎでミスが目立っていた岡山だったが、大宮陣内でスペースが見られるようになった後半からは中央のエリアにパスが入る形だったりボールを受けて前を向ける形だったりが少しずつ見られるようになっていった。中央のエリアで時間が作れるようになったことで上門や木村が内側にポジションを取ることが多くなり、それによって徳元や河野が大外で高いポジションを取り、サイドの深い位置から中に折り返す展開も見られるようになったが、なかなかボールがクリアーに合うシーンは見られず、大宮のCBの櫛引や山越に触られてしまうことが多かった。

 どちらかというと岡山に寄りかけていた後半だったが、途中からピッチに入ってきたイバの存在感によって試合の流れは再び大宮に。今までなかなか前線でボールが収まっていなかった大宮がまずはイバにボールを当てる形にしてからは、イバのキープで押し上げる時間を作れるようになっていった。しかしここでイバのマーカーとなっていた阿部が簡単に負けなかったのが非常に大きかった。イバに対しては阿部の本来の持ち味である取れると思ったボールに対して後方からためらいなく潰しに行く守り方というよりは、ベッタリくっつくのではなく、少し距離を取りつつ自分たちにとって危険なコースに侵入させないようにする守り方で味方がスペースを固める時間を稼ぐことができていた。簡単にズルズルラインを下げないようにしていた井上の働きも非常に大きかった。

 それでも何度かイバにシュートを打たれるシーンはあったものの、金山の正面だったり枠外だったりで難を逃れた岡山。本当に危険な枠内シュートのシーンを非常に少なく抑えることに成功したのは、若い2人のCBの働きによるところは非常に大きかったと思う。試合終盤の岡山は、疋田のキープ力を前線で活かすような面白いアイデアを見せつつただ殴られっぱなしではないというシーンを何度か見せたが、お互いにゴールが生まれることはなく試合は0-0のまま終了した。

雑感

・試合全体を通してみると、チームとしての意図や形は発信されているがオフボールの動きだったりオンボールでのクオリティだったりで粗が見られる岡山と、個人個人のクオリティは確かにJ2でも上位クラスだがチームとしての意図が上手く発信されていないように見えた大宮と、それぞれ対極ではあるもののなかなかに悩ましい問題を攻撃面で抱え合ったチーム同士の組み合いにふさわしいスコアレスだったように思う。それでもその前の2試合で複数失点での連敗を喫していた岡山にとっては、失点を抑えることができたという事実は得点を取れなかったというネガティブな要素以上にポジティブな要素だと言って良いと思う。井上と阿部でCBを組んだ試合で初めてのクリーンシート、これは非常に大きい。

・攻撃の形に関しては取り急ぎ、ボールを受けたときにシュートとパスをどちらも選択できる、そしてしっかりとキープして時間を作ることができる川本がバイタルエリアの中央でパスを受ける形を増やすことができれば良いのだろうが、それを考えたらやはりもっと自分たちでボールを運べる必要があるのだろう。大外~内側でボールを受けて運べる木村の働きはもちろんのこと、最終ラインからのボール出しも重要になってくる。そういう意味では特に前半、長いボールを増やしつつ長短のボールを自分たちで工夫して試合を作ろうとしていた井上と阿部の取り組みは一つのヒントになるだろう。ここに中盤でキープして相手を引き付けることができる疋田がもっと関わることができれば・・・。

・ペナ内での侵入の質、適宜顔を出してボールを引き出せる動きなど、中野誠也の動きはやはり岡山に合っているよなあと思う。今からでもファジアーノ岡山にどうでしょうか。

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