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大外を巡る攻防~J2第26節 ファジアーノ岡山 VS 大宮アルディージャ~

スタメン

 両チームのスタメンはこちら。

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大宮の保持を上手く狂わせた4-4-2の練度

 アウェイの試合ではあるものの、J3降格圏という立場(⇒早い段階で降格圏から抜け出す勝ち点が欲しい)を考えると勝ち点3が欲しい大宮。オープニングから積極的に岡山の陣内にボールを送り込んで攻める形を見せてきたのは必然だったと言える。特に立ち上がりの10分程はかなりテンションを高くして試合に入っているように見えた。大宮の姿勢がうかがえたのが岡山のボールになった直後のネガティブトランジション。近場の選手が複数で奪い返しに向かうアクションを起こしており、岡山としてはボールを回収してもなかなか落ち着かない展開が続くような立ち上がりとなった。

 立ち上がりのハイテンションがやや落ち着いてからも、基本的にボールを持っていたのは大宮の方であった。後方からボールを運んでいこうとする大宮は三門が最終ラインに下りてCBの櫛引、西村と3バックを形成。3バックの前にポジショニングする大山との菱形で岡山の4-4-2の第一ライン(デュークと上門)を突破していこうとするのが大宮のビルドアップの基本的な狙いとなっていた。後ろから運んでいこうとするチームならばどこでも当てはまる話ではあるのだが、このチームは特にビルドアップに人数をあまりかけたくない、前にできるだけ人数を残したい意図が見えるボールの持ち方をしていた。

 ボールを持っているときの大宮は、岡山の4-4-2の4-4ライン間での大外、内側、中央のエリアにそれぞれ人を送り込むことをかなり意識しているようだった。黒川がフリーロールであちこちに顔を出しつつ、中央に河田がいて岡山のCB(井上-安部)と駆け引きして起点を作ろうとしており、大外と内側のエリアはWG(小野、奥抜)とSB(馬渡、河面)がそれぞれ使い合うようにしていた。ただ内側にボールを刺してそこから崩しにかかるというよりは、大外をフリーにしてボールを受けて、大外から崩そうとする、クロスを入れようとするのが主な形となっていた。

 そんな大宮のボール保持に対して、前半の岡山は普段通りの4-4-2。前述したようなボールを持つときの大宮の立ち位置にやや戸惑い気味となっていた序盤は特に第一ラインの2枚と中盤4枚のポジショニング、相手ボールホルダーへのチェックが曖昧(⇒行くのか行かないのかハッキリしない)になっており、その結果西村や河面あたりからの対角へのキック、逆サイドの大外の選手をフリーにするようなボールから大宮の選手が仕掛けることができるような形をいくつか許していた。

 ただ大宮は前を向いてオープンな状況を作れれば精度の高いボールを蹴れる選手は揃っているが、自分たちでそういう状況を作るのはあまり上手くないようであった。それもあってか岡山は時間の経過とともに、大宮のビルドアップ隊のボールの動きを規制できるようになっていった。岡山の振る舞いとしてはいたってシンプル。まずは第一ラインのデュークと上門が最終ラインでのボールに対して中央のパスコースを消しつつ、サイドの狭いエリアにボールを追い込むようにチェックをかける。そしてサイドにボールが出れば、ボールサイドのSHとSBを中心に全体をスライドさせてプレッシャーに行くようにしていた。

 前半の岡山の4-4-2の守備、特に第一ラインと中盤の守備で良くできていたのは、大宮のボールホルダーに対角へのサイドチェンジのボールを出させないようにするチェックやプレスバックをかけに行く選手とその周囲のスペースのカバーをする選手との連係がしっかりと取れていたこと。上門のパスに徳元が抜け出して決定機を迎えたシーンに至るまでの守備はまさにそれが上手くできていた形となっていた。大宮のボールホルダーの選択肢を狭めるような中盤のポジショニングから、上門のプレスバックでジャッカル、そのまま上門が持ち込んでの絶妙なスルーパスに抜け出した徳元。シュートまでは完璧な形であった。

 大宮は最終ラインからのビルドアップがなかなか上手くいかないので列を下りる選手が多くなり、その結果ピッチを広く使っての攻撃ができなくなっていった。そうなると大宮としては前線の河田へのボールを増やして起点を作ろうとするようになる。大宮の狙い通りに起点を作れるシーンもあったが、岡山はCBの井上と安部のどちらか1枚が河田にハッキリと寄せることで前を向かせない、満足にキープさせない、時間を作らせないようにするシーンを多く作ることができていた。

ロングボールとCHのひと手間とSB to SB

 最終的には大宮にボールを蹴らせる形で回収することが多かった前半の岡山。ボールを回収してからの展開は、前線のデュークにボールを当ててそこから起点を作ろうとする狙いの展開が多く見られていた。特にGKの梅田を含めた最終ラインの選手たち(これはCBの2枚はもちろんのこと、SBの宮崎や河野も同様)のボールを持ったときの最初の狙いどころはデューク本人、もしくはその近場のスペースにダイレクトにボールを入れることだったように見えた。

 そうであっても岡山は最終ラインからボールを蹴っていただけというわけでもなかった。岡山は上手く守ることができていたとはいえ、ボールを回収できていたエリア自体はそこまで高くなかったので、そのまま単純に蹴っていてはデュークが孤立してしまう。そうなるとデュークへのボールを入れるのに必要なのは、デュークがボールを収めることができた時だけでなくセカンドボールを回収する必要がある時を想定して、その周囲に味方の選手(⇒この試合だと上門、SHの徳元や白井あたり)を配置すること、配置するための時間を作ることである。

 こういう状況になると岡山は井上と安部から始まる後方でのボール保持に、CHの喜山とパウリーニョが出てくるようになる。最終ラインから狙っていた展開とは違って、CHからはアバウトというかイーブンなボールを出すのではなく一度自分たちでボールを落ち着かせる、縦にボールを入れるにしてもグラウンダーで収めることができるようなボールを出すようにしていた。こうして岡山はCB-CH間でボールを一度落ち着かせるようとすることで、デュークと上門、そして中盤を押し上げる時間を作りつつ、ボールを持たないときも前を3枚にしてくる大宮の第一ラインからのプレッシャーを引き出してミドルゾーンでのスペースを作り、ロングボールを入れることで前進させようとしていた。

 デュークが直接収める、もしくはミドルゾーンあたりでセカンドボールを回収することができれば、そこから岡山はSBの宮崎と河野を大外の高い位置に押し上げての攻撃を狙っていくようにしていた。ミドルゾーンからの展開で中心になっていたのはやはりCHの2枚。デュークに入るボールへの意識がかなり強く見えた大宮のCB-CHの狙いを外すように外に散らしたり、一つタメを置くことで時間を作ったりしていた。大外に展開してからの岡山の狙いは基本的にはクロスボール。宮崎や河野がそのままアーリー気味に上げることもあれば、上門やSHの選手が大外に流れて深い位置を取ってそこからマイナス気味にグラウンダーのクロスを入れるということもあった。

 この試合では久々に前半のうちに岡山が先制する展開となったのだが、その先制点の形、流れは非常に良い展開であった。河田に入れようとした大宮のボールを井上が奪ってのショートカウンターからスタートしたが、一度攻撃が止まったところで喜山とパウリーニョでボールを落ち着かせて、再びパウリーニョから左サイドの宮崎に展開、そこからのアーリー気味のクロスに逆サイドの河野が飛び込んで得点を奪った。宮崎のクロスにペナ内で待ち構えていたデュークに対して大宮の最終ラインがかなり引っ張られており、結果的に大宮のデュークへの意識を上手く利用することができたものとなった。

 また、井上のボール奪取から始まったショートカウンターでもボールサイドから逆サイドの河野がゴール前に入り込んでフィニッシュしていたのだが、大宮の守備はボールサイドと逆サイドの大外を空けてしまう、マークに付ききれない傾向が見られていた。試合後の有馬監督のコメントや河野のコメントを見る限りはおそらくこの点はかなり狙っていたところだったのだと思う。こうして前半は岡山の1点リードで折り返すこととなった。

後半からの5バックシフトについて考える

 スタートから岡山の上門に代えて濱田、大宮も大山に代えて小島と、互いに1枚ずつカードを切った後半。岡山は再開してからの2試合とも行っていた3CBのシフトを後半開始から実行することとなった。濱田が3CBの中央に入っての3-4-2-1(ブロックを敷くときは5-4-1)、前線のデュークの後ろに入るシャドーは徳元と白井という形となっていた。

 有馬監督の試合後のコメントにもあったように、後半開始からシステムチェンジを図った岡山のプランとしては、5-4のブロックという後ろに重心が重くなることを受け入れても後方の枚数を増やして大宮の受け手を潰す。スペースが出来上がったところに前線のデュークを走らせてのカウンターを目論むことで1-0のリードを維持して、あわよくばの追加点を狙っていくというものだったのだろう。

 この岡山のシステムチェンジはしかし、狙い通り、思惑通りに上手く行ったとはとても言えないものだった。5-4-1で守る形が多くなったといっても岡山の守り方としては基本的には4-4-2での守り方(⇒まずは中央~内側のエリアを消すように、外にボールを誘導させてプレッシャーをかけに行く)とそこまで大きくは変わらない。そのため岡山は後ろに枚数をかけるようになったことで、どうしても大宮の後方でのボールホルダーにプレッシャーをかけきれずに、特に後半から入ってきた小島に対角へのサイドチェンジのボールを出されることが多くなっていた。

疑惑のシーンその1

 大宮が大外に一発でボールを出せるようになってきたことで岡山は全体のスライドが間に合わなくなることが多くなり、特に岡山の左サイドの宮崎と大宮の右サイドの馬渡の部分で岡山はかなり後手を踏むような対応が増えていった。大外で余裕を持てるようになった大宮はそこから内側の選手を走らせたり、シンプルに中にボールを入れたりする形を取ることで岡山のゴール前に侵入する回数を増やそうとしていた。ゴール前にボールを運べる回数を増やせるようになったこともあって、大宮は中野やイバを投入してゴール前で仕事ができる選手を増やしていった。

疑惑のシーンその2

 後半からのシステムチェンジは悪手となってしまった岡山であったが、途中からの修正は良かったと思う。まずは飲水タイム明けから前線とシャドーが高い位置からプレッシャーをかけに行くようにしたこと。これによって後ろの選手たちを自陣ゴール前から押し上げることができるようになり、迎撃のような形でボールを回収することができるようになった。そして、宮崎→木村の交代に伴って左WBを徳元に変えたことも良い修正策となった。宮崎よりも運動量自体はある徳元にしたことで、馬渡に対する手当てを打つことができるようになった。

 試合終盤になってからの木村や川本の、何とかして敵陣で時間を作ろうとする姿勢の見えるプレーには非常に目を引いた。特に木村の左サイドからのロングボールをマイボールにしてキープしたプレーは時間帯を考えても1得点に値するような非常に素晴らしいプレーだったと思う。試合はそのまま1-0で終了。岡山は今季初めてのホームCスタでの連勝となった。

雑感

・正直なところ、後半開始からの展開としては5バックシフトへの移行よりは4-4-2のままでやっていた方が、後半になってからの大宮の変化(⇒中盤で時間を作れる小島や前線の中野やイバの投入)を加味してももっと楽に試合を運ぶことができたのではないかと思う。大宮が後方で時間を持てるようになったことで、大宮が本来やりたかったであろうピッチを広く使った展開を許す形が増えていってしまった。ボールを持ってある程度運べる相手には、あまりやらない方が良いシステムなのかもしれない。使い分けていけるようになれれば。

・この試合でもデュークの前線でのキープ、ポストプレーは非常に目を引くものがあった。間違いなくMOM級のプレーの出来栄え。フィジカルの強さ、スピード含めての馬力の強さはもちろんなのだが、それだけを使ったということでもなく、ボールを動かしながら、身体の向きを変えながら相手に正面から潰させない(⇒相手の矢印を折る)ような身体の使い方ができるので無理が効くし、プレーの範囲も広い。代表招集もあるのであまり依存したくはないのだが、頼れるときには頼れるだけ頼っておきたいところでもある。

試合情報・ハイライト


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