勝ちたくば、我を通せ~J2第27節 ファジアーノ岡山 VS 大宮アルディージャ~

スタメン

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緊急事態の大宮の狙い

 この試合、岡山の試合の入りは悪くないどころかかなり良い部類のものだったと思う。斎藤が田中のロングボールに抜け出す形、この試合では前線で起用された三村が自陣からのスローインで抜け出す形と、いずれも前線の選手が右サイドの奥に抜け出した形からシュートチャンスを作ったり、パウリーニョの縦パスから上門がシュートを打ったり、岡山は立ち上がりの10分で3回のCKの機会を作ることに成功していた。

 しかし先制に成功したのは、この試合ベンチ入り5人、FPに至っては4人という緊急事態下でのアウェーゲームに臨んでいた大宮の方だった。12分、大きな展開から一度左サイドでボールを落ち着かせると、中央の小島の展開で翁長が椋原の背後に抜け出す。翁長がファーサイドで待ち構えていたイッペイシノヅカに折り返すと、マークしていた徳元に競り勝ってシュート、ポープが弾いたボールをもう一度イッペイが詰めて大宮が先制した。

 敵陣にボールを運んだ時の大宮は、4-4-2で守る岡山に対して大宮は3-4-2-1でWBの翁長とイッペイが大外で浮きがちになるのだが、この試合の大宮は岡山の椋原と徳元の両SBを狙っていたのではないかと思う。大宮はサイドから個人で仕掛けることのできるWBで岡山の椋原-関戸の右サイドのライン、徳元-上門の左サイドのラインの意識を大外に向けさせ、そうして発生した岡山のSH-CH間、SB-CB間のスペースに黒川や三門といったシャドーやCHの選手を走らせたり、サイドでWB-CH-シャドーのトライアングルを形成して旋回→岡山のSBの背後に抜け出したりすることで、先制した後も先制点のようなサイド奥に抜け出してペナ内に侵入、そこから折り返す形を何度か作っていた。

 先制を許してからの岡山は、自陣に運ばれてからの大宮のサイド攻撃で、まずボールホルダーを掴むのか、それよりは使われたくないスペースを埋めるのかが曖昧になっており、なかなか手当をすることができていなかった。特に前半は、大宮が右サイドでビルドアップ→小島や小野の左足で逆サイドに展開という形が多かったので、特に岡山の椋原-関戸の右サイドのラインで関戸が浮き気味(⇒守備時のタスクが曖昧)になることが多かった。それならば自陣に運ばせなければいいんだと、第一ラインの斎藤と三村から大宮のボール保持を捕まえていきたい岡山だったが、狙い通りに高い位置からのプレッシャーで大宮のボール保持を上手く妨害する形をあまり多く作ることが出来てはいなかった。

 前述のとおり大宮のボール保持は基本的に右サイドの渡部から行われていた。大宮は渡部や畑尾、マクシメンコの3CBから展開するというよりは、CBに対してCHの小島や三門、WBが寄る(時にはシャドーが下りてきて寄ることもあった)ことでボールサイドの近い距離でトライアングルを形成。敵陣でのサイド攻撃同様にポジションを出し入れ、旋回をすることで局面での岡山の守備を攪乱させて前進させる形を取っていた。個人でも、特に小島のプレス回避の技術が高く、岡山の選手が寄せに行っても取り切れず、逆にワンタッチパスの連打で剥がされるシーンが何度か見られた。

 岡山の高い位置からの守備が上手く行っていなかったのは、大宮のプレス回避だけでなく、自分たちの事情も多分にあった。第一ラインで起用された三村はスピードを生かして積極的に前に詰めに出ようとしていたが、背後のスペースを消す意識がやや薄く、白井やパウリーニョがいつもより高めの位置を取ってカバーしようとしていた。そうなれば最終ラインの田中や濱田がある程度高い位置を取らないと間延びしてしまうのだが、ハスキッチのフィジカルに苦戦。そのため前からプレッシャーに行くのはいいが、徳島戦や東京V戦のように全体をコンパクトにしきれてはいなかった。

焦りがミスを呼ぶ

 試合の入りが良かったにもかかわらず、その良かった流れのところで相手に先制を許し、狙い通りの高い位置からの守備も上手くハマらなくなってしまった岡山。自分たちのボール保持では徳元や椋原への展開からそのまま同一サイド奥を使ったり、中央に入れてからの縦パスor逆サイドへの展開だったり、立ち上がりからここ数戦と同様に横幅を使う形で敵陣に侵入することができていたのだが、時間とともにやや強引に前に運ぼうとする形が増えていった。

 大宮の守備はまずは前の5枚(1トップ2シャドーとCH2枚)で中央を塞ぎ、田中-濱田のCB、白井-パウリーニョのCHから上門や関戸への縦パスのコースを消してサイドに誘導しようとしていた。岡山はこの形を利用して横へのパスを使ったり、CB→CHでのボールの出し入れを増やしたりすることで、大宮の前の5枚の縦横スライド、WBの縦スライドを多くさせて背後のスペースを広げる作業をしていきたいところだったが、先制されて「5バックを敷かれるとマズイ、早く敵陣に攻め込まねば」と焦ったのか、イージーなボールロストが多くなってしまっていた。

 大宮に先制を許してから、特に20分以降はチャンスを増やしていくはずの自分たちのボール保持が、逆に相手のカウンターチャンスになってしまう展開になってしまっていた。岡山にとっては時間とともに流れが沈滞化していった印象の前半であった。

我慢が呼んだフィーバータイム

 後半の岡山は、大宮が第一ラインをセンターサークルに設定したこともあって、まずはCB-CH間で後方から焦れずにボールを持つ姿勢を見せた。横幅を取る徳元や椋原への展開→詰まってもう一度下げるという形が多く見られていたが、我慢できずに前に蹴り出すのではなくボール保持を行っていた。岡山が何度かボール保持→横への展開を繰り返すことで、大宮のWBの縦スライドからの連動が遅れがちになってきたのか、WB-サイドCB間に上門や斎藤が起点になれるシーンもあれば、逆に岡山のCB-CH間でのボール保持で大宮の第一ラインのブロックに引っ掛かり、そこからショートカウンター未遂のようなシーンもあった。

 後半から改めて焦れずに行おうとした岡山のボール保持、それが根負けするかどうかの構図になりかけた展開であったが、意外に早い時間で岡山の我慢は実ることになる。

 59分、中央の白井から左サイドの横幅を取っていた上門に展開、そこからサイドにスライドした小島-渡部の間にポジショニングした斎藤に当てて内側に入る。このとき大宮の選手たちがペナ内で一列の状態になったことで、バイタル中央で白井がフリーで斎藤からのボールを受けられる形ができると、白井のコースを狙ったシュートが決まり岡山が同点に追い付く。

 このときの小島と渡部の動きを見ると、大宮としては、白井から左サイドへの大きな展開があったところで岡山の選手に自分たちの右サイドの奥に抜けられることを警戒していたのだと思う。そのため中へのボールの動きに対してスライド→ブロックを作るのが遅れてしまった。また、この攻撃の直前に白井がボールを奪われて大宮のショートカウンターが発動していたことで、本来サイドに展開されたときにポジションを取っていたかった右シャドーの小野、右WBのイッペイが高い位置に残っていたのは大宮にとっては誤算だっただろう。

 この得点の後、岡山は上田と山本、大宮は富山が交代で投入されたのだが、交代直後の61分にいきなり岡山の交代選手が大仕事。早いリスタートからミドルゾーンでフリーの状態になった上田が前線にロングパス、畑尾と渡部の間を抜け出した山本が笠原もかわして無人のゴールに流し込み、あっという間に岡山が勝ち越しに成功する。

 さらに3分後の64分、右サイドで詰まったボールを一度最終ラインの田中に下げて、左サイドの低い位置を取った徳元に展開。ワンタッチで左の大外に流れた上門に当てると、そこから斎藤とワンツーで内側に侵入、中にポジショニングしていた山本へさらにワンツーを意図したようなパス。このパスは流れてしまったのだが、逆サイドからペナ内に走り込んでいた白井に通り、このボールを白井が決めて3-1。たった5分で1点ビハインドが2点リードに変わってしまった。

    上門のパスミス(⇒山本とのちょっとした意図のズレ)を見事な崩しのラストパスに変換してしまったのは白井のランニング。見ていた側は上門-斎藤-山本のトライアングルでの崩しが流れたかと思ったが、上門が山本に向けたパスを出したときには、すでに白井はペナ内に走り込んでいたのだから恐れ入る。1点目は中央エリアからのミドルというCHらしい点の取り方、2点目は逆サイドから走り込むというSHらしい点の取り方と、ちょっと白井の得点バリエーション多くないですか。

試合運びを難しくしたあの時間帯での1点差

     2点差にしたことで無理にボールを保持するというよりは、4-4-2のブロックをセットしてのカウンターに移行しようとしていた岡山だったのだが、ボール非保持の時の問題は前半から解決されてはいなかった。後半は開始から20分間はボール保持を続けて押し込んでいたことで誤魔化せていたのが誤魔化せなくなり、再び岡山の右サイドから崩される形が増えていくようになっていった。

    そして73分、大宮は左サイドでトライアングルを作ってボール保持を行いながら選手のポジションの旋回を連続。これで岡山のマークを混乱させた状態でサイドから黒川が中央に入り込んでのクロス、徳元のクリアのこぼれ球をイッペイが詰めて1点差に詰め寄る。

    ただ大宮も相当体力を消耗しており、サイドに人数をかけてのトライアングル→旋回でペナ内に侵入するという形は、この得点以降はほとんど見られなくなった。多分あの時間帯が限界だったと思う。それ以降の大宮はどちらかというとペナ内に人数を集め、サイドはイッペイや翁長の単独突破、もしくは早い段階でのクロスというシンプルな攻撃に傾いていった。

    岡山としてはあの時間帯に失点してしまったことで試合運びを難しくしてしまった。2点差のままで相手がシンプルなクロスならもう少し跳ね返しよう、自分たちでボールを落ち着かせるなどの試合運びもあったと思うが、こちらも連戦で体力を消耗していたこともあって、自陣ゴール前に張り付けの状態になってしまっていた。それでも野口、松木とフレッシュな選手を入れながらどうにか運動量を保った岡山。後半ATにはイッペイの右CKから笠原が飛び込むという肝を冷やすシーンがあったが、何とか3-2で逃げ切り。岡山は対大宮戦初勝利となった。

総括

・登録メンバー16人という緊急事態でのアウェーゲームだった大宮。高木監督がどう試合を進めていくのかと思っていたのだが、「こういう状況だからこそ、自分たちで主導権を取っていこう」という攻撃に軸を傾けたようなアプローチだったのは、もっともだとは思いつつも意外だった。それでもビルドアップと敵陣での崩しで同様に見られた、ボール局面でトライアングル(+1枚)を意識しながらの人の出し入れで前進させていく形は、日頃からトレーニングされているのだな、ということを強く感じるプレーだった。そして岡山の7番も運動量が恐ろしいが、大宮の7番である三門も、自陣でのビルドアップに絡んだかと思えば敵陣深くの崩しにも加わり、まあ恐ろしい運動量だった。

・苦境の相手にホームで勝ち点3を渡す、持ち前(?)の気前の良さを見せずに勝ち点3を獲得することに成功した岡山。この試合では(特に守備の面で)あまり上手くいってはいなかったが、逆に上手くいっていなかったからこそか、高い位置からの守備とそれに紐付けした横幅を使ったボール保持をまずは行うんだ、ミドルゾーン~敵陣でプレーする時間を増やすんだという、自分たちの戦い方の基盤に自信が付いているというのがうかがえる試合運びだった。
もっともこの試合のことだけを考えたら、もう少し低めに4-4-2のブロックを設定してまずは相手の使いたいスペースを埋めていくやり方からスタートしても良かった気はするが。意図と運動量とがリンクせずにミスが増え、必要以上に行ったり来たりのオープンな展開になってしまった印象はある。
ただ、そんな展開だったからこそ自分たちのやるべき形をどうにか押し通し、勝ち切ったことには大いに価値があるとも思う。

・ボールロストの多くなりがちな展開で、前線でイーブンボールを上手くマイボールに収めていた斎藤の体術が生きる試合でもあった。岡山の最終ラインは大宮のハスキッチのスピードを含めたフィジカルに手を焼いていたが、大宮の最終ラインもそれ以上に斎藤の体術に苦しんでいたのではなかっただろうか。ちなみに体術使いと2トップで起用された三村について、背後のスペースを消しながら相手に寄せる守備面は課題だが、攻撃ではスピードのある動きと中継点にもなれるプレー、何よりボールを持ってターンできないというボトルネックを隠せるというメリットの大きい起用法だと思う。

試合情報・ハイライト


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