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2024 J2第7節 大分トリニータ VS ファジアーノ岡山 の雑感

 J2リーグ戦の連勝は4で止まりました。ファジアーノ岡山のクラブ新記録であるリーグ戦5連勝の壁はまたも越えることができなかったというのは事実ですが、これまでにあった5連勝リーチの試合は3試合でいずれも完封負けでした。今回の試合は勝ち切れずとも引き分け、しかも後半のほとんどの時間を数的不利で戦った中での勝ち点獲得です。チームとして着実に粘り強くなっているのではないでしょうか。目先の5連勝よりもシーズン通して勝ち点2ベースで勝ち点を取り続けることの方が遥かに大切です。


スタメン

 両チームのスタメンはこちら。

ミドルゾーンでのプレッシャー攻防戦

 大分トリニータと言えば「GKを積極的に組み込んでの自陣からのボール保持→前進」というパブリックイメージがあると思う。これを植え付けたのが今季から再び大分を指揮している片野坂監督なのだが、この試合(というよりは今季ここまでと言っていいかもしれない)での大分は自陣からの保持に対して特別手を加えている感じではなく、オリジナルフォーメーションである4-4-2の形通りにバックライン4枚と2枚のCHとでボールを出し入れする形を取っていた。

 ボールを持った時の大分の最初の狙いは、おそらくファジアーノ岡山の左CBで起用された本山。4-2でのボール保持のところに渡邉と長沢が縦関係の2トップとなって、長沢と本山がマッチアップするような形を作ることで大分の後方の選手たちの縦への展開を促すようにしていた。本山と長沢がマッチアップする形となったら、本山の背後にできるスペースに渡邉や宇津元が走りこんで一気に岡山のゴール前に迫ってしまおうという魂胆であったと思われる。

 大分のこうした狙いに対して、当然岡山はグレイソン・木村・田中の3トップによる高い位置からのプレッシャーを大分のバックラインにかけることで縦への展開を出させないようにする。この時、バックラインからボールを引き取ろうとする大分の2CH(弓場・保田)に対して岡山も藤田・仙波の2CHが付くようにしていた。このような3トップ+2CHのプレッシャーで岡山が大分のバックラインからのボール出しを上手くサイドに誘導することができれば、サイドでの引き取り先に末吉・柳(貴) といったWBが縦スライド、CHが横スライドでプレッシャーをかけることができる。そうすることでなるべく高い位置でボールを回収する形を作るのが岡山のいつもの狙いである。

 ただ大分はこうした岡山のプレッシャーの回避策として、縦関係の2トップを形成していた長沢をさらに下ろしてミドルゾーンでボールを受けさせる形を取ってきていた。2CHのマッチアップのところに1枚加わることで生まれるミドルゾーンでのスペースをグラウンダーでの縦パスで受ける形はもちろんだが、岡山の2CHと長沢との身長差で大分はミドルゾーンでの制空権をかなり握ることができていたのでロブのボールを長沢に当てて、そこから宇津元や渡邉が拾う形も見せていた。

 岡山は主に大分の左サイド寄りに下りてくる長沢に対して2CHのスライド・カバーリングの範囲を広げつつ、最終ラインの選手(主に本山、ポジションによっては田上であることもあった)が迎撃に出ることで長沢に当てたところでのマッチアップで前を向かせない、前を向かれたとしても簡単にミドルゾーンからのスピードアップを許さないようにしていた。もちろん大分にミドルゾーンにボールを入れさせない(⇒バックラインでの外回しを誘う)のが理想ではあるが、①ボールが入ったとしてもCHのスライドないしはCBの迎撃でデュエルを連続させる or 中央のスペースを閉じるように寄せる ②サイドに展開されたところでWBが大分のワイドの選手(宇津元・薩川)とのマッチアップで後手を踏まない ③3CBの中で最終ラインに残る選手(主に田上・阿部)がズルズルと下がらないことで大分の前進→岡山陣内深くに入る時間をかけさせることができていた。

 また前述した大分のやり方はボールを岡山陣内に前進させるためのコストとして前線の選手、しかも長身の長沢をゴール前から遠ざけているとも言える。そのためすぐにサイドに広げて前進すればクロスのターゲットに長沢が間に合わない、長沢がクロスに間に合うように前進に時間をかけたらその時には岡山の選手たちの帰陣が間に合っている、ということが多くなっていた。大分は中央から一気に攻め切りたいところであったが、岡山はCHがしっかりとスライド・カバーを行って中央のスペースを閉じる、WBが対人で大分のワイドの突破を許さない、最終ラインが渡邉に背後を取られない形を作れていたので、大分の攻撃をサイドに誘導→時間をかけさせる展開を作ることができていた。

CHをマッチアップさせた狙い

 岡山がボールを持った時の振る舞いを見ていくと、4-4-2というよりはここでも2トップが縦関係となって4-4-1-1気味で渡邉・宇津元・薩川で岡山のバックラインにプレッシャーをかけようとしてきた大分に対して、岡山はCHがバックラインに下りるのではなく3CBを維持することが多かった。また3CBでも普段はもう少し各選手の距離を広くするのだが、この試合ではバックラインの選手たちが中央に寄っていることが多かった。これについては本山が左CBに入ったことによる影響は否定できない。特に前半はできるだけ本山に自陣でのボール保持には関わらせないようにしようとしていた節はある。

 このように岡山のボール保持は3CB-2CH、しかも近い距離でボールを出し入れすることが多かったので、大分にとっては前線とCHとでマッチアップさせてプレッシャーをかけやすくなっていたのだが、岡山はCFのグレイソン、シャドーの木村・田中に展開できるコースやスペースができたところでバックラインやCHから多少ラフにでも縦にボールを入れるようにしていた。特にグレイソンにロングボールを入れて頭でフリック、そこから木村や田中を大分の最終ラインの背後に走らせようとする形は何度か意識的に行われていた。こうした形は岡山の3トップにとっては大分の選手とマッチアップしやすい、プレッシャーを受けやすい展開ではあるが、前述した3人は比較的相手のプレッシャーに対してボールを収める・そこから自ら持ち出す形を作りやすい選手である。

 このように、この試合での岡山は自分たちのボール保持の展開で両サイドCBを外に押し出しての同一サイドでの前進はほとんどなく、中央→中央で起点を作ってそこからサイドに広げる形が多くなっていた。これは岡山の左CBが鈴木でなかったというのもあると思うが、岡山がミドルゾーンでのプレッシャー合戦、言い換えればガチャガチャした展開を意図的に作り出そうとしていたのではないかと考える。ガチャガチャした展開でプレッシャーに行こうとする大分のCHを通り越すためにバックライン or CHからダイレクトに3トップに当てるボールを入れて、クリーンに通ればそれがベストだし、通らずともそのセカンドボールを岡山のCHが前向きに回収して大分陣内に前進する形を作ることができる、という狙いがあったのではないだろうか。

 大分陣内で3トップなり2CHなりで一度起点ができた時の岡山は、フリーになっていることが多かったWBに展開する形がメインとなっていた。前述したように前半の岡山は本山のサイドをあまり使わないようにしていたので、展開先は基本的に右の柳(貴) であった。サイドに展開してからの形としてはシンプルに柳(貴) がクロスを上げる形もあるが、柳(貴) がボールを持ったところで藤田や木村がニアゾーンに抜け出してボールを受けようとする形も何度か見られていた。クロスがファーサイドに流れての逆サイドの末吉が深い位置でボールを受けての仕掛け、ニアゾーンでボールを受けた藤田・木村の折り返しでCKを複数回作る形はできていた。

 ただ岡山がボールを持った時でも厄介だったのが長沢のミドルゾーンでの貢献、いわばプレスバックであった。岡山のCHが大分のCHを上手くパスした形(⇒岡山のCHが大分のCHの背後でボールを持つ形)を作ることができた時に、大分はすぐに長沢が戻って岡山の選手にプレッシャーをかける形になっていたので、岡山はスムーズに前に展開する形を作ることはなかなかできていなかった。

10人になってからの振る舞いを考える

 後半は立ち上がりから左CBの本山が持ち出して、末吉との連携で左サイドの深い位置まで前進する形がいきなり見られた岡山。岡山が前半とはボールを持った時の振る舞いを変えるのかどうか、このまま11対11で確認していきたいところであったが、自分たちのCKから松尾→渡邉のロングカウンターを受けて柳(貴) がDOGSOで一発退場。岡山は公式戦8試合目にして早くも2回目となる数的不利での試合運びを余儀なくされることとなる。ブローダーセンも準備ができており藤田も帰陣が済んでいたことを考えると柳(貴) が無理する必要はなかった局面かもしれないが、個人的には渡邉が独走する前段階、松尾→渡邉のパスが通る段階で末吉がイエローカードで泥を被れば防ぐことができた展開だったのではないかとも思う。インテンショナルだとしてもあの位置で一発退場はないと思うので。

 ともかく10人となってしまった岡山は右WBに河野を充ててまずは5-2-2で試合を進めていた。こうなれば当然大分がボールを保持する時間が長くなるのだが、大分のボール保持に対して岡山はグレイソン・木村の2トップで中央からのダイレクトなコースをできる限り塞ぎつつ、大分がサイドに展開すればWBがCHと同じ列に上がって最終ラインをスライドするような守り方を取っていた。なお岡山陣内深くまで運ばれた時には木村がCHまで下りる形となっていた。そして岡山がサイドでボールを取ることができれば、グレイソンか木村にボールを入れてそこで一度起点を作り、そこからボールを奪ったサイドのWBやCHを押し上げることで大分陣内に前進する形を作ることもできていた。

 数的不利の中で勝ち点3を得ることを最優先に考えれば、5-2-2でWBとCHがスライドしてサイドでボールを奪い、奪ったサイドで2トップが起点を作るやり方が良かったのは間違いないと思う。ただこのやり方を続けると、CHやWB(特に2CH)の体力消耗が激しく、時間の経過とともに最優先で守らないといけないスペースに入ることが難しくなるのも間違いなかったとも思う。木山監督もおそらく後者の懸念を優先して、後半の半ばでグレイソン・木村→ルカオ・ガブリエル シャビエルの交代を行い、フォーメーションも5-2-2からシャビエルを中盤にした5-3-1に変更した。

 5-2-2の時にはまだサイドでボールを奪おうという意思が見られた岡山であったが、5-3-1への変更からまずは最終ライン5枚と中盤3枚とで中央のスペースを閉じることを最優先にするようになったことで、大分の攻撃をサイドに迂回させて時間をかけた先でのクロス攻撃に誘導させることに成功した。ここで自陣深くでボールを回収した時の岡山はシンプルに最前線のルカオをターゲットにしたロングボールが多くなっていた(というよりは失点しないことを最優先に考えたらそうならざるを得ない)のだが、ルカオへのロングボールの使い方はもう少し考えたかったところではあった。

 陣地回復の狙いを持って、ルカオをターゲットにして一度起点を作ろうとするやり方は、ルカオの性質を考えたらあまり良い手段ではない。それならばスペースにロングボールを入れてルカオと大分のCB(藤原・安藤)との競走によるロングカウンターをひたすら狙わせる方が良かった気がする。時間の経過とともにそういうシーンは何度か見られるようになってはいたが、もっとそのやり方を徹底させた方が良かったと思う。試合は最後まで両者(というよりは大分が)決め手を欠き、ゴールレスで終了した。

まとめ

・いわき戦といいこの大分戦といい、トランジションを武器にする相手に対して、CHをバックラインに下ろさずに3CB-2CHのままにすることで岡山のバックライン-CH周辺でのマッチアップの局面を増やしてそこからミドルゾーンでのプレッシャー合戦にさせるというのはおそらく意図的なのだろう。ミドルゾーンでのプレッシャー合戦を作ることで、オフボールのアクションを起こせる(⇒相手最終ラインの背後に飛び出せる)シャドーと起点となれるグレイソンへのダイレクトな展開を増やせるようになる。そうすれば相手のプレッシャーそのものを弱めて自分たちがボールを保持する時間も増やせるようになる、そこまでは考えすぎかな。

・数的不利になった時の守備貢献はもちろんであるが11対11の段階でも、この試合における2CHのボールを持たない時の貢献度は非常に高かった。本文でも書いたが大分がミドルゾーンでの起点作りに長沢を下ろしてきたところで藤田はもちろんのこと、特に仙波が粘り強く縦横にスライドして中央のスペースを埋めたり二度追いのプレッシャーをかけたりすることで、大分にミドルゾーン→岡山陣内深くへのスピードアップを簡単に許さなかったのは試合展開の性質上非常に大きかった。

・3CBの守れる範囲を広くする、これによって数的不利でもWBを押し出して守らせる形を作ることができるようになっているのは大きい。このやり方だと河野の良さを生かしつつ欠点を隠せる。田上や柳(育) は当然として、右CBの阿部は自陣での振る舞いに関してはほぼノーミスだったのではないだろうか。また左CBで起用された本山もボールを持った時の振る舞いはともかく守備面においてはほとんど違和感はなかったと思う。

試合情報・ハイライト


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